114話 イレギュラーモンスター
骨で作られた巨大なドラゴンは、時折り道路を走っている大型のトラックと同じくらいの大きさがあり、よく見ると複数のモンスターの骨をつぎはぎのようにして作られていた。
胸元には犠牲となったモンスターの頭蓋骨が並んでいる。
先程検知した魔力の流れから考えるとダンジョンの中で作られたものだろうが……。
「スタンピードといえども、ダンジョンの外に出ないとドロップ率は変わらないのではなかったのか?」
深い階層のモンスターはドロップ率が違うのだろうか?
今までの探索では骨のドロップ率はさほど高くなく、一回で取れる量もたかがしれていた。
仮に普通の探索であの量を集めるのであれば、万を超えるモンスターを討伐するくらいのことをしないと足りないはずだ。
骨で作られたドラゴンもどきは、暴れることなく主であるイレギュラーモンスターの近くに留まりこちらを睥睨する。
イレギュラーモンスターは辺りを見渡すと小さな声で呟いた。
『……貴様、仲間を逃したな。せっかくここまでの手間をかけて出て来たというのに、これじゃあ無駄足ではないか』
……虫に話しかけられた。
理沙に確認しよう。
この世界の虫は人の言葉を話すのだろうか?
驚きのあまり亜空間から携帯を取り出すが、充電が切れているため誰に聞くこともできない。
それどころか手の中にある携帯は、周囲に充満する瘴気に触れると嫌な音を立てて壊れてしまった。
携帯は、中から何かが焦げるような異臭を発している。
『そんなおもちゃに頼ろうとしても無駄じゃぞ? 絶望のうちに足掻いて死ね』
流暢に言葉を話すモンスターの出現に、動揺を隠しきれない。
理紗の話によると、エルフやドワーフといった存在も創作物の中に出てくる程度で、この世界に亜人という種族はいない。
エアリアルでは言葉を話す魔物はいるにはいたが、昆虫の体を持つ亜人種はいなかった。
緑の体表に黒い斑点模様。
人のような立ち振る舞いをしているが、もしかすると昆虫型ではない?
その身に宿す魔力はこの前戦った勇者もどきの次に強い。
吸精種ということもあれば勇者よりも厄介かもしれないな。
ぶつぶつと不満を述べているイレギュラーを見ながら考える。
……こいつは食えるのだろうか?
解体しないことには分からないが、肉質次第では二人を……。
頭を振り邪な気持ちを振り払う。
二人の強化のためとはいえ、そんなことをすれば二度と信用してもらえなくなるかもしれない。
『なんだ貴様のその顔は? 余を馬鹿にしているのか?』
イレギュラーが杖でこちらを指し示す。
意味がわからず近くに置かれてあった車の窓ガラスで自分の姿を確認すると、変装用の魔道具であるカツラとつけ髭が落ちかけていた。
恐らく瘴気に触れたことで、動力として使われていた魔力が澱んでしまったのであろう。
どこに目があるかも分からない。
カツラとつけ髭を手で押さえながら問いかける。
「お前はダンジョンが生み出したモンスター。そう認識していいんだよな?」
『貴様には余が人間に見えるのか?』
「いや、どこからどう見てもモンスターだ。自信を持ってくれ」
後からこいつは人間でしたなんて言われると、ごめんなさいでは済まないだろう。
念には念をいれて質問すると、イレギュラーは自分の体を眺めて苛立ち混じりの声色で返答する。
『貴様は今の状況を何も理解できておらぬようじゃのう……。羽虫程度の力を持たぬお前らでは、彼我の差は理解できぬか?』
「……どちらかといえばお前の方が羽虫に近いと思うが」
彼我の差と言われても、あいつに武の気配は感じない。
これ見よがしに杖を持っているところを見ると、魔法使いタイプなのだと思うが……。
どうせ戦うのなら近距離戦が出来るやつと戦いたかったと思うのは贅沢だろうか。
魔法使いでも理紗のような遠距離タイプの方がまだいい。
目の前に鎮座しているドラゴンもどきのような存在を作り出す、クラフト型の魔法使い相手との戦闘は作業感が強く、あまり好きではなかった。
『問答はそろそろしまいにしようか。あやつの思惑に乗るようでいささか気分が悪いが……』
そこでイレギュラーモンスターは言葉を止める。
杖の先をドラゴンもどきに向けると、ドラゴンもどきの体表に無数の魔石が浮かび上がる。
魔石の大きさに差はあれど形は全て同じで、刺々しい形状をしていた。
「よくもまあ吸精種の魔石をこんなにも集めたもんだ」
『魔法使いの貴様にはさぞ厄介じゃろうて。手心なんぞ加える気はないから苦しまずに逝けるぞ』
イレギュラーは何も持っていない俺を見て、魔法使いと判断したのか、得意げに語る。
そして聞いてもいないのに、俺を倒した後の予定まで語り出した。
『お主を殺して少しでも回収させてもらうとしよう。その後はどうするか……お前の晒し首を持って歩いたら仲間くらいは刈り取れるか?』
よし、殺そう。
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