表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

113/257

113話 避難


 友人からの叱咤に鏡花はびくりと反応する。

 如月は小さくため息を吐くと、動く様子のない鏡花の首根っこを掴んで回収した。


「……安心したからって周りにバレるような行動は取っちゃ駄目でしょ。せっかく変装して来てくれてるんだから」



 如月は周りに聞こえないくらいの小さな声で鏡花に注意する。

 不満そうな鏡花を見て如月は青筋を浮かべると、鏡花の頭に拳骨を落とした。

 鏡花は頭を抑えながら尻餅をつく。



「あだっ! 殴ることないだろ。分かったって……」


「立ってるのもやっとなんだから大人しく下がってなさい。すいません。あとは手筈通りによろしくお願いします」


 如月は鏡花の肩を支えると、俺に向かって頭を下げる。

 なんのことか分からず困惑していると、俺の耳元から如月の声が聞こえた。


『報酬は言い値で払います。イレギュラー討伐に協力してもらえないでしょうか?』


 ……これは如月の魔法か?

 音を操る魔法は中々珍しいと少し驚きつつも、頷いて肯定を示す。


「分かった。モンスターの肉は約束通り回収させてもらうぞ?」


「それで構いません。今から勇者の師匠がイレギュラーモンスターに対応してくれます! 防衛班は一度下がっていてください!」



 如月が周囲に残っている探索者に声をかける。

 そういうことになるのか……だったら聖剣は使えないな。


 だが言質は取った。

 後は美味しそうなイレギュラーモンスターであることを願うだけだが、肝心のお相手の姿はない。

 手持ち無沙汰な俺の元に、如月の魔法を使った声が届く。


『鏡花に確認をとりました。イレギュラーモンスターは吸精種のようです。相手の情報について何か聞きたいことはありますか? 小声で話してくれたら私の元に届きますので、何でも聞いてください』


「……イレギュラーモンスターは何をしている? スタンピード中はモンスターが外に出てくるんじゃないのか?」


『恐らくですが他の魔物を殺して自身を強化していると思われます。鏡花が外に飛ばされた時には、まだイレギュラー以外も中に残っていたらしいですから……』


 スタンピードの際、モンスターは共食いを繰り返して強化されていく。

 だが一匹も出てこないってことはあり得るのか?


「共食いと地上への侵攻、モンスターはどっちを優先する?」


『地上への侵攻……のはずです。少なくとも今まではそうでした』


 だとすれば中で何が起こっているのだろうか?

 考えられるものとすれば、毒持ちのモンスターの巻き添えになって全滅してるか、それとも……。


 ダンジョンの扉の向こうで強力な魔力を検知する。

 ダンジョンの扉はぼろぼろで、モンスターを防ぎきることはできないだろう。

 だが扉としての最低限の役割はこなせるはずだった。

 そんな扉が突如腐り落ちる。

 中から流れてくる瘴気。

 穢れた魔力は周囲に生えていた雑草をたちどころに枯らしていく。

 異変に気がついた鏡花が迅速に判断を下した。


「──瘴気耐性がないやつは避難しろ!」


「スタンピード中ですよ鏡花さん? 僕たちが逃げたら……」


「あんたらが残っていたとして何か出来んの? 責任はうちがとるから早く撤退しな。命を無駄にするんじゃないよ」


 鏡花のその言葉に、逃げるのを渋っていた面々も避難を始める。


 木で作られた馬に跨る者、近くに置いてあった車に乗り込む者、こちらに心配そうな目を向けながら走り去っていった。


「鏡花も早くここから離れるわよ。邪魔になるのは私たちも同じなんだからね」


「うちは責任とってレオを見守ろうかなって……」


「馬鹿なこと言わない! 鏡花が残っても何も出来ないでしょ?」


「それは……そうだけどさ」


「あなたの憧れる人がこんなところで負けるの?」


 如月の言葉を聞いて鏡花が立ち上がる。

 漏れ出た瘴気を吸い込んで顔色を悪くしながらも、鏡花は声を張り上げた。


「絶対死ぬなよ! 無理そうだったら逃げてもいいから」


「心配いらない。肉の回しゅ……イレギュラー討伐は俺に任せてくれ」


 本音が漏れ出しながらも、鏡花は俺の失言に気がつくことなく背を向ける。

 二人は近くに停めてバイクに乗りこむと、この場から離れていった。


『ご武運を祈ります。街に被害が出たとしても、あなたが罪に問われることはありません。存分に暴れてください』


 耳元から聞こえる如月の言葉。

 まだ魔法は継続中なのか。

 それなら聞き忘れていたことを確認してみることにする。


「イレギュラーモンスターについて一つ確認しておきたいんだが……今回のお相手は美味そうだったか?」


 沈黙。

 一瞬魔法が途切れたのかと思ったが、少し間を空けて返答があった。


『……ご武運を祈ります』


「いや、そうじゃなくて美味そうなのか聞いたんだが」


『……ご武運を祈ります』


「分かった。なら大丈夫だ」


 答えを濁す如月に嫌な予感がしながら、イレギュラーが出てくるのを待つ。

 まず初めに出て来たのは巨大な骨で作られた一匹のドラゴンだった。

 あれはモンスターではなく、魔法によって生み出された存在だろう。

 そしてその後に続く一匹のモンスター。


 あまりの衝撃に目を見開いた。

 まさか、嘘だと言ってくれ……。

 現実を受け入れられず、絶望が身を支配する。

 


 イレギュラーモンスター、それは理紗たちが嫌う虫のモンスターだった。

 


本日よりカクヨムコンランキングが実装されるようです。

良ければそちらの方でも応援よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
如月ちゃんの権限高すぎて笑っちゃう 実はギルマスの方ですか?
[一言] あー、肝心の料理人が苦手なものが出てきたら調理できないわな。
[一言] 蟲だっておいしいかもしれないじゃん……
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ