109話 戦況は有利。大丈夫だ、問題ない
ダンジョンの五十二階に激しい轟音が立て続けに鳴り響く。
剛志の爆撃にドラゴンは防戦一方だった。
ドラゴンは徐々に体を削られていっている。
問題はイレギュラーの存在だが、こちらにはとっておきのダンジョン武具がある。
アイテムボックスから魔石を取り出す。
これは何の加工もされていないただの魔石だ。
それを自身が握っている杖の先──手のひらのような形をしている部分に乗せた。
金色の手のひらが魔石を握り潰すと、杖が光を放つ。
透はイレギュラーとドラゴン、どちらも視界に収めながら金色の手のひらを地面に差し込んだ。
直後、ドラゴンとイレギュラーの足元から漆黒の蔦が伸びてくる。
蔦は両者の体を絡めとると、相手の魔力を奪って強固に成長する。
「生憎と、魔法型には苦戦したことがなくてね。挑んだ相手が悪かったと諦めて死んでくれ」
魔石を代償として発動するこの力は、一介の運び屋であった透をチームのリーダーにまで押し上げるほど強力だった。
このダンジョン武具が生み出す蔦は、吸精種のような力を持ち、絡みついた対象の魔力を吸収して、強度を高める。
普段の戦闘はこいつの拘束と、魔石爆弾による爆撃で相手に何もさせずに終わらせていた。
今回もドラゴンは拘束を破ることが出来ず、イレギュラーも身動きが取れていない。
後は不意打ちを喰らわないように、離れた位置で倒すだけ。
時間をかければかけるほどこちらに有利になっていく。
追加でアイテムボックスから取り出した魔石爆弾を剛志に手渡していた時、イレギュラーから苛立ちに満ちた声が届く。
『わしの力を奪おうとは不届者め。身の程を知れ』
イレギュラーが体を縛る蔦を握り込む。
するとみるみるうちに蔦が萎びれていき……形を保つことが出来ずにぼろぼろと崩れていった。
代わりにイレギュラーが持っている杖に、取り付けてある頭蓋骨に炎が宿る。
「拘束が効いてねえぞ!」
「嘘! こんなことって今まで一度も……」
剛志と舞が唖然とした表情を浮かべる。
今までの探索で透の持つダンジョン武具の拘束を破れる者などいなかった。
だがこの状況において、透は冷静に分析してみせる。
「大丈夫だ。落ち着け! 恐らくあいつは吸精種。蔦の魔力を逆に奪われたんだろう」
「拘束が効かないってそれこそ問題だろうが! ドラゴンを抑えているうちに逃げねえと……」
「そっちの方が危険だよ。あいつは蔦に触れることで魔力を奪った。あいつを自由にさせてしまうとドラゴンも解放させられてしまう」
だからこそこの状況を変えるわけにはいかない。
あいつに触れられない距離で爆発させれば、あいつも爆弾の魔力を吸い取る真似はできないはずだ。
今まで吸精種は剛志の魔石爆弾によって瞬殺していた。
少しばかり肝が冷えたが原因が分かればこっちのものだ。
正解だったのか、イレギュラーは透の方に目を向ける。
『頭の回転は早いようじゃの。褒めてつかわす』
「剛志、一旦ドラゴンは放置だ。イレギュラーを仕留めよう」
尊大な態度で伝えてくるイレギュラーに応答せず、剛志に指示を出す。
剛志もその言葉で冷静さを取り戻したのか、魔石爆弾を含んだ鳥を追加で作り出した。
飛来する鳥を見据えてイレギュラーが取った行動は、魔法で作り出した壁に籠ることだった。
イレギュラーは、自分の周りを壁で覆い、爆発を防いでおり、壁が壊れかけたら再度作り直している。
「どうしたイレギュラー! 壁の修復が追いついてねえんじゃねえのか?」
途中から剛志も強度の弱い鳥の召喚に切り替えることで魔力を温存し、調子に乗った様子でイレギュラーに挑発を投げかけている。
イレギュラーの生み出す壁はことごとく破壊されていき、奴の足元の地面が陥没していく。
状況はこちらの圧倒的有利。
……だがどうしても不安を拭いきれない。
なぜこんなに違和感を感じるんだ?
イレギュラーの使う魔法、それがどこか不自然で……。
「ちょっと待て剛志! 魔法を止めろ!」
「何でだよ! 今いいところなんだぞ? ここで押し切らなくちゃ、こっちがやべえだろ!」
「透のダンジョン武具が効かなかったのは残念だけどさ。他のモンスターが相手だったら、無力化出来るんだから……」
「違う! そういうことじゃない! このままだと大変なことに──」
『……そろそろか』
壁の中からイレギュラーが呟く。
次の瞬間、ダンジョンが揺れた。
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次回のサブタイトルは卑怯者の末路、ですお楽しみに。