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105話 泣き喚く子供

 

 たこ焼きやイカ焼き、色んな食べ物を購入していく。

 ここの祭りは社会貢献の一環として国がお金を出してやっている祭りらしく、料理を出している屋台は、あまり店側の利益はとってないようだ。

 なのでどの店も購入制限があり、量を確保することはできなかった。

 金払いが良いのを見られたからか、料理を作っているところ以外からも声を掛けられるようになる。


「兄ちゃん! 兄ちゃん! うち、金魚掬いやってんだけど挑戦してみないか?」


「美味いのか? 食べごたえはなさそうだが?」


「兄ちゃん俺を揶揄ってんのか? やる気がねえのならそう言いな!」


 何故か怒られてしまった。

 もう既に店主は俺のことを客としては見ていないらしく、他の客に声をかけ始める。


 その後も色々見て回った。

 水風船は使い道がないので却下。

 理紗たちにあげようかと思ったが、以前、二人を子供扱いしたらやけに怒られた。

 不機嫌になっているかもしれない今の理紗たちに、こんなおもちゃを渡すと火に油を注ぐことになりかねない。


 再び散策していくと、屋台の前で一人の子供が泣いている。

 その前では困り顔の店主。


「……坊主。やりたいなら、お母ちゃんから小遣いでももらってこい。泣いてたって何にもなりやしねえよ」


 呆れたように伝えるが、子供は泣き止む様子はない。


「何があったんだ?」


「ん? あんた、この子の身内か?」


「いや、他人だが」


「なら大人しく引っ込んどきな。首を突っ込んでもあんたが損するだけだぞ?」


「いや、まあそうなんだけどな……」


 昔から子供の泣き声が苦手だった。

 それは、弱かった頃の自分を思い出すからだろうか。

 俺は膝立ちになり、子供と目を合わせる。


「どうしたんだ?」


「お菓子が欲しいのにおじさんがくれないの」


「ただでやるわけねえだろ。こちとら赤字ギリギリなんだぞ」


 背後から店主が愚痴をこぼす。

 店主の言い分ももっともだ。

 子供はこの子以外にもいた。

 一人を優遇すれば他の子供も集まってくるだろう。

 振り返って店主に声をかける。


「店主、一回いくらだ?」


「お人好しだな」


「いいから値段を教えてくれ」


「一回百円。ちなみに真ん中にあるのが坊主が欲しがっていたお菓子だ」


 真ん中には熊を模したお菓子が置かれてある。

 商品ごとに杭が設置されてあり、さほど難しそうではない。


「ほらっ、これ食って機嫌直せ」


「ありがと兄ちゃん! これでノルマ達成だ!」


 さっきとはうってかわって、少年はケロッとした表情で俺が差し出したお菓子を手に取ると、走り去っていく。

 それを見た店主が吐き捨てるように呟いた。


「くそガキが。どんな教育受けてたらそうなるんだよ。あんたも今の見て分かっただろ? あのガキは買えなくて泣いてたんじゃねえのよ」


「そうなのか?」


「全身高級ブランド服着てるガキが百円すら持ってねえはずねえだろ。あの服買うのに嫁から貰える小遣い何ヶ月分かかると思ってんだ」


 店主の話によると、あの子供はやっている遊びは、物乞いゲームと呼ばれるものらしい。

 泣き真似で他のお客さんを騙して、商品を買わせる。

 子供たちは手に入れた数で競っているのだと……。


「次からは気いつけな! ここにいる屋台は採算度外視でやってるやつが多い。本当に金がなくて困ってたらあんな真似しなくともあげてるだろうさ」


「忠告ありがとう。じゃあ俺はこれで……」


「ちょっと待った兄ちゃん。まだ全部投げ終わってないだろ? どうせなら最後までやっていきな!」


 店主が俺が余らせた輪に目を向ける。

 投げる場所として設置されてある台には、まだ三つほど輪が残っていた。


「俺はもういらん。それは本当に欲しがったやつにあげてくれ」


「それは駄目だ。こっちも商売でね。百円で五回分きっちりやって帰ってもらわないと」


 俺が怒られちまうと店主はおどけたように笑った。


 輪は同じところに二回入れたら商品が貰える。

 だから俺は何も置かれていない杭の場所に入れることにした。

 三投分きっちりと杭に収まると店主は拍手を送る。


「兄ちゃん上手えな。何か代わりにあげてやりたいけど……」


「別に探さなくてもいいぞ。外れに入っただけだしな」


 店主が後ろにある籠の中に手を伸ばしてゴソゴソと漁り始める。

 店主は俺の言葉に手を止めず、こちらに紙袋を一つ手渡してきた。


「あった、あった。これだ! 兄ちゃんこれをやるよ」


「……何だこれは。かつらか?」


 白の紙袋の中には黒色の毛が入っていた。

 幅はそんなに大きくない。

 これでは俺の頭部を覆うことは出来ないだろう。


「そいつはつけ髭だ。つけ髭。かっこいいだろ!」


「こんなのも商品で置いていたのか。誰が欲しがるんだ?」


「こいつは俺の私物の……予備みたいなもんだ。もちろん一回もまだ使ってねえよ」


 つけ髭が私物? 

 人のことは言えないが、日常的に変装をするということは、誰かに追われてたりするのだろうか?

 訝しむような視線を送ると、男は慌てたように説明を始める。


「こいつを使って悪さをしてるわけじゃねえよ。精々パチンコ行く時にうちの嫁にバレないようにつけるくらいだっての……」


「そうか、ありがとう」


 よく分からんが貰えるものは有り難く貰っておこう。

 変装のレパートリーが増えたことは、俺にとってはかなり嬉しい。

 店主にお礼を言うと嬉しそうに説明を始めた。


「それを手にとって口元につけて。向きは気をつけろよ。そう! そんな感じだ。そしたら鼻の下押してみろ」


 店主の説明に従い口周りを囲むようにして当てる。

 最後に鼻の下を指で触れるとぴたりと皮膚に張り付いた。


「似合ってるぞ兄ちゃん。流石イケメンはちげえな。俺がつけたら浮浪者と間違われたんだが……」


 元々、髭が生えにくい(たち)なので、口元周りを覆う剛毛の髭はかなり違和感を感じる。

 だからこそか、少しワクワクしている自分がいた。

 理紗たちに見せたらどう言うだろうか?


「ありがとう店主。気に入った」


「それをつけてパチンコするようになってから、負けにくくなったんだ。きっとそいつは運気も上げてくれてるんだろうさ」


 店主がそんな冗談を言った後、少し離れた場所にある柱の上から甲高い音が鳴り響く。

 それと同時に、店主の持つ携帯電話も鳴り始める。


 だが、俺の持っている携帯は静かなままだ。

 不思議に思った俺は取り出して確認してみると、充電が切れていた。

 そりゃ鳴らないわけだ……。

 


 青ざめる店主。

 恐る恐る携帯を取り出すと、蚊の鳴くような声で呟く。


「……スタンピード」


本作が累計100万PV達成することが出来ました。

引き続き執筆頑張っていくので応援よろしくお願いします。

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― 新着の感想 ―
[一言] これは悪質なクソガキ
[一言] 聖剣「ごはん一杯」
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