100話 勧誘
三十一階のランドマーク持ちを撃破して、扉の位置を確認すると、俺たちは二十五階まで戻る。
結局、土兵を破壊した者は誰か分からずじまいで、それらしき気配も探知することはなかった。
誰の仕業だったのだろうか?
土兵の残骸の周囲にはそれらしき足跡はなかったし、別段変わった臭いも残っていなかった。
あそこに獣型のモンスターが現れたのなら、何かしらの臭いで分かるはず。
ミミックの仕業?
あいつも臭いは無いに等しいが、あそこまでの異質な気配ではなかったと記憶していたんだが……。
帰りはモンスターを出来るだけ無視して進み続ける。
二十五階の扉を抜けると、紬が締めの言葉をカメラに向かって話している。
「今日の配信はこれまで。みんな見てくれてありがとね」
【おつでした】
【今日は良いミミック日和だったね】
【勇者による狂気の実験シリーズ次も楽しみにしてる】
【……軽いトラウマになりかけたんだよなあ】
【今帰るのは不味いかも】
愛想よくカメラに笑顔を見せる紬の隣で、理紗が小さく手を振る。
俺は手を振るのは少し気恥ずかしかったので、お辞儀をして配信を切った。
理紗と紬のダンジョンカメラは紬のアイテムボックスに収納し、俺も亜空間に仕舞い込む。
「最後に変なコメントあったね。また出待ちがいるのかな?」
「そうだとしても魔法の絨毯があれば無視して帰れるわよ。帰りに話した通り、二日は休みにするからね」
理紗と紬は学校に行かなければいけないらしく、二日の休養日が出来た。
「レオさんはその間何をするの?」
「俺は変装して外を出回ってみるよ。どんな食べ物があるか探しに行きたい」
本格的に買い溜める前に、好みの味の店くらいは知っておかないと。
俺の予定を聞くと理紗がニヤリと笑う。
「どこも美味しくてびっくりするわよ」
「だといいけどな。屑魔石を使った訓練は学校でも続けるんだろ?」
「もちろんよ。どっかの単純娘には負けてられないもの」
「ちょっと! それ僕のこと言ってる? 出来ないのはりっちゃんの理解力の問題じゃないかな〜? ほらっ、復唱して! ぐっ、じゃなくてぷわっだよ」
屑魔石を取り出して魔力操作して見せると、理紗が悔しそうな顔を浮かべる。
紬は屑魔石を使った練習に関しては、文句ないくらい制御できていた。
……これは次の段階へと進むべきかな?
「紬! もう一つの練習を教える。次の練習はこれだ。魔力操作を意識して切り替えれるようにしてくれ」
俺も亜空間から屑魔石を取り出して、二人に見えるように掲げる。
俺の手の中にある屑魔石は発光と光の消失を繰り返している。
そんな魔石の変化を見て二人は目をまん丸とさせて驚いた。
これは魔力を送る練習と止める練習を交互にやるということ。
身体強化は対象の部分を、魔力で覆った上で留めなくてはいけない。
これが完全に出来るようになれば、身体強化も出来るようになるだろう。
屑魔石の効果で失敗しても怪我を負うことはない。
それを伝えると、早速二人は魔石を使って練習を始める。
別れ際に伝えた方が良かったか……。
熱心に練習し始めた二人を止め、帰還するように促す。
一般人の未成年は深夜に外を出歩いていると警察に補導されるらしいが、探索者である二人は帰宅時間が何時になっても問題はない。
だがそれでも帰れるのなら早い方がいいだろう。
俺の言葉に二人は渋々頷くと、帰還用のゲートを使って先に戻ってもらう。
そして俺もゲートを開いて戻ったのだが……。
「帰ってきたな。じゃあ話はここで終わらせてもらうよ」
「──勧誘はギルドを通してってちょっと待ってください!」
理紗たちが一人の男と何か話をしている。
理紗が話していたのは一人の男。
痩せ型でギルドで見た魔石を使って障壁を張る鎧を纏っている。
男の周りにはダンジョンカメラが飛んでおり、一階にも関わらず配信を始めているようだ。
男は黒髪の長髪を揺らしながらこちらに向かって歩いてきた。
男の顔には金で装飾されている美しい兜を被っており、表情を伺うことは出来ない。
男は俺の前に立ち止まると、一枚の紙をこちらに手渡そうとする。
「これがギルドのパーティ移動の書類だ。悪いことは言わないから、君は僕たちと一緒に行動した方がいい。彼女たちのところにいたって宝の持ち腐れにしかならない」
男は兜を取り、カメラに向かって笑みをこぼしながら、自信満々にそう告げた。
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