9.暴走する【炎】と【魔法】
うそ、今度は......上から?
「っく」
シェリーの真上に落下してきた落石を転がって避ける。
轟音に包まれ、彼女は砂煙に巻かれる。
「ごほっごほ......」
砂埃が肺に入って思わず咳が出る。
危なかった。避けるのがもう少し遅かったら僕は即死だった。
半径5m以上もある落石を見ながらほっと胸をなでおろす。
......あ、そうだ、デュラハンは?
疑問に思い、周りをキョロキョロ見渡すが姿が見えない。
もしかしたら、さっきの落石に巻き込まれて、デュラハンはつぶされてしまったのかもしれないな。
にしてもいったい何が......
シェリーが不思議に思って再度あたりを見渡すと今度は別のことに気が付いた。
ん......あれって?
先ほどの落石によってだろうか?扉の一つが壊れ、通れるようになっている。
あ、開いてる......ってことはここから出られる?
そう思うと、シェリーは扉へ向かって歩き出した。
どうしてこうなったのかわからないけど、今はこの場から離れた方がよさそう。
さっきの落石でおそらく【デュラハン】はつぶされたんだろうけど。たぶん、きっとまだ死んでないだろうし。
一度後ろを振り返った後、痛む体を動かして扉から外へと出ていく。
ゴゴゴ......と地鳴りのような音とともに、一つの落石が動き【デュラハン】が姿をあらわした。
体中がボロボロで今にも崩れ去りそうにひび割れてしまっているが、シェリーの予想通り。いまだなお闘志を捨てずにその日本の足でしっかりと地面に立っている。
【デュラハン】はゆっくりと周りを見渡し他あと、シェリーが出ていった扉を見つめ、あるはずのない口で確かに言葉を紡いだ。
『ニガサナイ』
と。
【デュラハン】が岩の底から這い出てきた時、シェリーは必死にダンジョンの中を進んでいた。
早く......早く......早く離れないと。
それだけを思い、必死に右左と迷路のようなダンジョンを進んでいくと、やがて彼は一つの広間へとやってきた。
広間には、どうやら先ほどまで人がいたようで、ところどころに生活の跡が見受けられる。
それを見たシェリーは足を止め、どさりと腰を下ろす。
「はぁ......はぁ......さすがに、ここまでくれば大丈夫。だよね?」
腰を下ろした彼は不安げな顔になりながらも、ほっと一息ついた。
あれだけ迷路みたいな道を通ってきたんだ、そもそも【アンデット】に追跡能力とは思えないし。それに今いる場所は、冒険者がダンジョンで寝泊まりするとき使う。【安全領域】と呼ばれる場所。魔物は入れない。
【安全領域】とは、ダンジョンの中にある魔物に気にせずにゆっくりと休むことができる場所のことだ。ここには定期的に冒険者から神官が派遣され、魔物除けの結界を張っているため、魔物が寄り付かないようになっている。
......そうだ。あんまり心配しなくていい。ここなら魔物も来ないし。うん。
安心して落ち着いてきたシェリー。
彼は、とりあえずできる限りの応急処置をしよう。そう思った時だった。
ジャラジャラ......ジャラジャラ......
鉄を引きずる、どこか聞き覚えのある不気味な音とともに、見覚えのある黒い鎧の男が広間へやってきた。
豪華絢爛だっただろう黒い鎧はひび割れ、今にも崩れ去りそうな首のない騎士。
その姿を目にし、シェリーは思わず目を見開いた。
「嘘......」
完全に油断していたシェリーは少しの間固まってしまっていた。
だが、放心状態でいつまでもいるわけにはいかない。急いで剣を抜いて構える。
嘘......こんな早く追いつくの?こうなったら......
倒すしかない。
思わず【デュラハン】へ向けて駆け出すシェリー。
そして、剣を突き立てようとしたが、逆にカウンターを入れられ取り落としてしまう。
カランカランという音を立てて離れていく剣。
......しまった⁉
思わず剣を目で追ったシェリーは、連続して放たれた蹴りをまともにくらい壁へと吹き飛ばされ叩きつけられる。
くっそ......。
「かはっ......」
乾いた声と共に血痰を吐き出したシェリーは、地面に崩れ落ちてしまう。
手放しそうになる意識を必死でつなぎ止める。
そんな彼の耳に、何か聞こえてきた。
微かだが、確かに聞こえる。
『ニガサナイ』
『ニガ......ナイ』
『ニゲ....』
とぎれとぎれの声がだんだんと近づいてくる。
そうか、これは【デュラハン】の......早く、立ち上がらないと。
地面をつかみ、立ち上がろうとするが、傷を負いすぎた体はうまく動いてくれない。
くそっ
苛立つ思考が彼の冷静さを失わせていく。
ギリギリと歯を食いしばり顔だけを【デュラハン】に向ける。
【デュラハン】もダメージを負ったせいか、ゆっくりゆっくりと緩慢な動きで近づいてくる。
来るな、来るな......くるな!
ゆっくりとした動きだが、今のシェリーには早く感じられた。
死にたく......ない、死にたく......ない。
僕に......僕に............オレに!
「『オレに近づくんじゃねえ!』」
意識が飛びかけながら無意識に伸ばした左腕から業火が吹き荒れ今度はシェリーが【デュラハン】を壁にたたきつける。
叩きつけられた後も、炎は消えず業火に包まれながら驚き悶える【デュラハン】。
だが一番驚いていたのはほかならぬシェリーだった。
「い、今のはなに?」
震えながら自分の手を見つめたシェリーは。
彼は困惑する志向の中、その意識を手放した。
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