5.落ちてく【私】と【水温】
水の中へと飛び込む。
んだのと同時に感じたのは水にぶつかった衝撃による痛み、肌を刺すような冷たさ、そしてもう一つ。
っく、そ。流れが速い。
予期はしていたが、それを超えるほどの流れの速さ。
水に浮かぶ、木の葉のように水に揺られ、岩肌にぶつかる。
「......ごぽっ」
しまった、空気が....くそっ。
空気の泡を吐き出し、僕は意識を手放してしまったのだった。
ごぽ......。
ごぽごぽ......。
「げほっ....げほっ。はぁ、はぁ、ここは...」
水を吐き出しながら、シェリーが目を覚ますとそこはどこかの陸地だった。
ゆっくりと上半身を持ち上げる。
顔に張り付く砂利を取りながら周りを見渡す。
ここは、そうか。
ジャラジャラと砂利を手で遊ばせる。
おそらく僕は気絶し、川の流れに沿って運ばれちょうどここに流れ着いたんだろう。
そう思いながらシェリーは剣を杖代わりにして立ち上がった。
「......とりあえず、先に進もう」
そう言ってぼろぼろの体で、彼女は歯を食いしばり、一歩足を踏み出した。
「はぁ......はぁ......」
くっそ痛い
先ほどの場所から川を下っていく。
さっきから体中が痛む。おそらく、さっき川に落ちた時、岩にぶつかったからだ。
腕をまくってみてみると、黒ずんだ青あざが見える。
これが体中にあるわけだが、骨が折れてないってのは不幸中の幸いだったとは思うけどね。
「...よいしょ」
そんなことを考えながら苔むした岩場を越えていく。
よし、あとはここを...っと。
ん?
「......んっ⁉」
バサバサという大きな音がして岩場に身をひそめる。
なんだ?
今の子の状況だとあまり戦闘をしたくない。
岩場からちらりと顔を出して見ると、そこには大量の【バット】の姿があった。
あれは...そういえばここにもいたんだっけ。さっきの【アンデット】の記憶が強いから忘れてた。
【バット】というのは【獣系】より詳しく言うと【蝙蝠系の魔物】の一種だ。
危険度は種類にもよるが基本的には低い。
群れで行動しているが、【スケルトン】のように積極的に人間を攻撃したり、しない臆病な【魔物】だ。
そのため、シェリーはほっと一息つき岩場から出た。
まったく、ただの【バット】だったのか。あ、そういえば【蝙蝠系】魔物の糞ってお金になるんだっけ?
そう、【蝙蝠系】の魔物の糞は魔術系の素材として優秀なため、いつも需要が絶えない素材だった。
シェリーは知らなかったが、今回見つけたこの【バット】はその中でも希少な【グラス・バット】と呼ばれる魔物。
とても珍しく、採取で切る量はとても少ないため、売ったらおそらく金貨数枚分の値が付く高級品だった。
まあでも今は持ち運ぶための容器持ってないし。先急ぐか。
とはいえ、そんなことを知らないシェリーは「とっても二束三文にしかならないし」と思いながら先へと進んだ。
川辺に沿って歩いていく。
たまに魔物や小動物と出会うことはあるが、特に問題なく進んでいく。
濡れた岩に気を付けて、バランスを取りながら慎重に進んでいくと、やがて地底湖へとたどり着いた。
「...ん、まぶしい」
――ここって地下、だったよね?なんでこんなに...
疑問に思いながら、ゆっくりと目を開いたシェリーは、思わず感嘆の声を上げた。
彼の目の前に広がっていたのは、鍾乳洞。そして透き通った湖。
初めて見る景色に思わず彼女は魅入ってしまっていた。
「すごい....」
――あれは、あれはまさか。
だが、彼女が驚いたのはそれだけじゃない。
湖面に沈む、一体の巨大な遺骨だ。
トカゲのような頭部に、野獣のような体。尾は鋭い剣のように横たわり。そして、背中から生えた羽は、彼を守るように静かに畳まれている。
今では白い石の塊になってしまっているが、その雄大さは今でも見るだけで感じることができる。
巨大で、雄大な、天空の王。
まさに、それは......
「【ドラゴン】......」
冒険者の夢、そして絶望の象徴。
【竜】とも呼ばれる存在。
そんな【魔物】の王とも呼べる、生物の遺骨が湖の中、一人孤独に眠っていた。
「でも、どうしてこんな場所に」
ここは地下だ。ドラゴンは山脈とかそういう天に近い場所に住んでいるはずだ。
一応、地下に住む種族もいるとは聞いたことがあるけど、これは確かそうじゃない種族のはず。
一体なんでこんな地下に......
シェリーはそう思いながら上を見上げるとそこには、あふれんばかりに輝く、黄金の太陽のような魔法石があった。
......大きい。そうか、あれがあったからここは地下なのにまぶしかったのか。
「......あ、こんなことしてる場合じゃなかった。はやく、ダンジョンの外に行かないと」
光をたたえる魔法石から目を下に戻し、先へ進むために足を奥へ続く洞窟に向ける。
次の行き先はあっち。一本道なのはありがたいね......これが正しい道なのかはわからないけども。
――よし。
ざっざっざっと足音を立てて進もうとした時だった。
『――t――r――e』
何かに声をかけられたような気がしてシェリーは振り向くいたが、それらしいものはいない。
あるのは【竜骨】ただ一つ。
なんだったんだろ?と思いながらその場から離れる彼の背中。
だが、確かに彼は見ていた。
深淵をのぞかせるその瞳で、確かにその巨大な目で。
――紫の炎を携えて――
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