4.あつまる【骨】の【雑魚】
1...2...3......少なく見積もっても20はいるだろう。
【スケルトン】は雑魚だ。だがどんな雑魚だって、数が集まれば凶悪な集団になる。
何度も何度も父親から聞いていたシェリーはそれを知っていた。だから油断していないつもりだった。
「早く逃げ...⁉」
状況が悪いと踏んで、逃走しようと振り返る。
だがその先には別の【スケルトン】の集団がいた。奥にいる集団よりも数が多い。
さっきの【スタンピード】の集団だろう
ーッまさかもう戻ってきたの⁉
ここは一本道、前と後ろを挟まれたということは逃げ道を失ったということ。
どこか、どこかないのか?
「っち」と舌打ちを打ちあたりをきょろきょろと見渡す、【スケルトン】から目をそらさないようにしながら、必死にキョロキョロと周りを見渡す。だが、ない。壁には小さな穴すらない絶壁。
つまり、シェリーができるのは前に行くか後ろに行くか。
「よし」
二択の選択肢。
シェリーが選んだのは....
「はぁ!」
前に進むということ。選んだ理由は単純。前の方が数が少ないから。
スケルトンたちが宙を舞う。
「よし!いける!」
希望を持ち、気合を入れる。
骨を断つ感触を確かめ、再度持ち手の皮を握りなおす。
地面をつかみ、前へと走る。亡者の手をを切り裂いて走る。
「よし、抜けた!」
骨の間をうまく抜けきったことで思わず『ぱぁっ』顔が明るくなるシェリーだったが、一体の【スケルトン】に足をつかまれる。
やばいっ
勢いがついていため前方に転がってしまう体。
「うわっ!かはっ」
ダンッダンっという鈍い音とともに転がり壁にぶつかる。
ぐ......痛い
涙目になりながらじんじんとじわりじわりと刺す痛みをこらえる。
そして無数のかすり傷が付いた体で、ふらふらとシェリーは立ち上がるり【スケルトン】を見る。
スケルトンたちはこちらに手を伸ばしてくるが、もう彼女の背後には一体もいない。
よし、抜けることはできた...これなら。
シェリーはくるりと周り走り出す。
できるだけ早く、その亡者の手から遠くへ逃げるために。
――――――
「はぁ...はぁ、まだ追ってくるの?」
何度目か分からない角を曲がり、何度目か分からない分かれ道を通り過ぎたシェリーは息を切らしながらつぶやいた。
今はまだ見えないが、耳をすませばやはり聞こえる骨の音。
「くっそ」
悪態をつき、足を動かす。
もうかれこれ何時間この洞窟にいるのだろうか?
シェリーの体はすでに限界に達しようとしていた。
「はぁはぁ」
こっ、ち
喉乾いた。水、水。
自分の腰へ手を伸ばしたその手が止まる。
そうだ、ないんだった。
持ち物は剣以外ない。残りはすでに『あの冒険者』が持ち去ってしまった。
彼女は思わず歯ぎしりをすると体を引きずるようにして歩いていく。
息を切らし動く彼女の移動速度は確実に落ちているのであった。
どっちが、こっちかな?
また分かれ道に差し掛かり、再度かんで分かれ道を選ぶ。
先ほどから辛うじて正解の道を選んでいたシェリーだったが、とうとう失敗を犯してしまう。
「嘘、だろ」
思わず言葉をつぶやいたシェリーの足が止まる。
なぜならそこにははるか下まで続く、漆黒の巨大な崖があったからだ。
つまり行き止まり。これじゃ、逃げられない。
かんで選ぶという時点でこんな状況になる可能性が高いのは理解できた。
だがするしかなかった。奴らをまくために。
走って走って走った。その苦労は逆に彼を危機へと陥れる。
「くそ!こうなったら引き返して...」
シェリーが焦りながら来た道を引き返そうとするが、そこにはもう【スケルトン】の大群が迫っている。
嘘だろ⁉もう来たのか‼
だいぶ引きはがしたと思っていたシェリーの顔がこわばる。
まさか、こんなに距離が縮まってるとはね。それに。
心なしか、数が......いや、確実に増えている。
先ほどまでは見えなかった【ゾンビ】の存在、【武装アンデット】の存在を確認したシェリーの顔がゆがむ。
「...ダメか」
わらわらと迫ってくる大群。
逃げるためにはこの先を進むしかない。
一応向こう岸には陸地があるが、そこまでの幅はどう考えても数十メートル。飛び移れるはずがない。
思わず一歩後ろに下がった時、シェリーの足に小石が当たる。
小石はパラパラと崖を転がり落ちていく。
どうすれば....⁉
シェリーがキョロキョロとどうにか打開策を探そうと、せわしなく顔を動かしていた時だった。『ポチャん』という水どこからか聞こえてきた。
音につられ下を向く。
下にあるのは漆黒の闇。
今の音って...みず?
木のせいかもしれないと思ったが、じっくり聞けば聞こえてくる、かすかに水の流れる音が。ってことはおそらくこの下には川、湖とりあえず水があるのだろう。
シェリーは目を凝らして見る。が、暗くてよく見えない。
後ろから迫るアンデットの群れ。
シェリーは必死に頭を使って突破口を考える。
どうする....?ここから向こう岸へ飛び移る..は無理だろう。アンデットの群れを蹴散らし引き返すは、これもやはり不可能に近い。ほぼ確実に抜ける前に殺される。
だったら....
下を見るシェリー。
思わずごくりと喉を鳴らす。
一か八か...かけるか。でも...そうじゃなかったら。
いやな予感に思わず足がすくむ。
怖気ずいてしまうが、後ろに迫るアンデットの群れが目に入ると覚悟を決める。
この世界には絶対はない。決断し、実行するだけ。
最後に決めるのは時の運だ。
僕にできるのはその時の運を少しでも引き上げること。それだけだ。
「やるしか、ないか」
タイムリミットは迫ってきている。
決断するしかない。
よし
シェリーは一度深呼吸をすると走り出す。
タッタッタっと地面をけり、飛ぶ。
空中へ飛び出す身体。
足に触れるアンデットの腕。
後ろを向くと彼らはそろって彼に手を伸ばしている。
苦しむように、助けを求めるように。
だが、その姿はすぐに見えなくなる。
風を切る音、落ちていく浮遊感に体がこわばる。
あまりにも下だと、死んでしまう。
あまりに浅いと死んでしまう。
落ちた場所が岩肌だと、死んでしまう。
そもそも水がなければ....死んでしまう。
様々な嫌な想像がシェリーの頭の中で巡り巡る。
そして、そんな彼を追って飛び出してきたアンデットの群れが壁にぶつかり、砕け、捥げ、ミンチ肉になっていく。
部の悪い賭けだ。
耳に風を切る音だけが聞こえる。
数秒、数分とも感じられるダイブを終えた先。そこに見えた
....見えた!
穏やかとは言えないが、そこまで早くない流れの川。
迫る水面。
一応、岩の影は見えない。あとはどうなるか。
最後に私が聞いたのは、水の冷たさと『ドボン』という鈍い音だった。
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