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2.最初の死【悲】と【葬儀】

数時間後『ダンジョン』内にて。

シェリーは冒険者二人につかまってしまっていた。


「くそ、くそ!」

「おいおいあんま暴れんなよ?さてさて、にしても結構うまくいったな」

「そーだなー。『こっから先、少し見てきてもらってもいいですか~』っつったら何も考えずに行っちまうんだからよ。で、そのすきにこいつを捕まえて俺らはさっさと逃亡。いやー楽な仕事だったぜ。たぶん、ああいうのを脳筋っていうんだろーな!」

「はは!そうにちげぇねえ!」


すべては罠だった。初めからクエストなんて嘘っぱち。すべてはシェリーを捕まえるための罠だった。

彼らは、カモと見た冒険者を連れダンジョンに挑み、奴隷として裏社会に売り渡す。

そして得た金で、冒険者の信頼の証であるランクを不正に買う。そして、それを繰り返す。そんな劣悪な集団だった。


「さてさて、それじゃスキルの御開帳と行くか。これでお前の人間としての価値が決まる...っておいおい。」

「スキルは...【葬儀】?外れかよ」


【鑑定】の水晶で覗き見た彼はそう吐き捨てた。

【葬儀】それは所詮外れスキルと呼ばれるものだった。その能力はぶっちゃけ【スキル】がないのと何ら変わらない。ただの飾りのようなものだ。

シェリーにとってこのことはコンプレックスだった。なぜなら、この世界では【スキル】によって人生が左右されるといっても過言ないから。そして、冒険者として歴史に名を残すには強力な【スキル】が必要だからだ。


「ゴミじゃねえか...だが、この見た目ならそれはそれで需要はあるだろ」

「まあ、それもそうだな、あーあ。簡単な仕事でよかったなんて思ったらこんな落とし穴があるなんてな」


そう不快極まりない話をしている男たち。

その場に怒りに顔をゆがませた悪鬼のごとき冒険者が姿を現した。

手には二メートル近い巨大な戦斧を持っている。


「お父さん!」


そう、それはシェリーの父セージだった。

セージは斧を構えると、冒険者たちへととびかかる。


「シェリーから手をはなせえええええ!」


そして、怒号とともに怒りに任せ斧を振ろうとした瞬間、彼の胸から血が噴き出した。

血を吹き出し、自らの胸を見やるとそこに生えていたのは一本の槍。


「な...ぐはっ」

「え?」


シェリーの目の前から色が消えた。

ばたりと倒れるセージ。

.....そんな。

赤い血が流れる。

モノクロになった視界がだんだんと色を取り戻していく。

嫌でもわかる、その現実が。


「ふっざまぁねえなハハッアハハハハ!」


そう、男が不快な笑い声を立てた瞬間だった。

突然遠くから足音が聞こえてきた。

リズムの感じられない地響きじみた足音。

一つじゃない大量の足音、そして。


『ヴぁああああ』

『ヴぉああああああああ!』

『グァああああああ!』


まるで地獄からはい出してきたような声の大合唱。


「嘘だろ⁉デマじゃなかったのか⁉」

「わ、分からないわよ」

「っく、とりあえず逃げるぞ。そいつから手を離すなよ!」

「お父さん!お父さん!」



「【竜....狩】」


ブオンという轟音がして男の頭部を戦斧が霞める。


「お父さん!」


【スキル】を発動する際に聞こえた声にぱぁっと顔が明るくなるシェリー。

しかし、すぐにその顔は曇り始めた。

そこに立つ父親の姿を見て。

胸に大穴を開け、口からは血を流し、ふらつく足元。


「ふー...ふー...」

「ちっなんだよ、驚かせやがって。このやろ!」

「うぐ!」


ふらつく足元では避けきれずもろに男の攻撃を喰らうセージ。

『ボギィッ!』という鈍い音が響き倒れ伏す。


「てめえはとっととくたばっとけ!死にぞこない」


セージを蹴り飛ばす男。

壁にたたきつけられ、口から大量の血液の塊を吐き出す。


「おとうさ....この!はなせ!」

「ッく、このガキ!」


そんな彼を見て、シェリーは怒るとともに男の腕へと噛みつく。

そして痛みで、力が緩んだ一瞬の隙を突き、脱すると、すぐに、セージの元へと駆け寄った。


「この!」


すぐに冒険者の男が手を伸ばすが、ギリギリのところで空を切る。

ギリギリと歯ぎしりをし、苦虫をかみつぶしたような顔をする男。

「くそっ!」っと悔し気な声をあげ、おいかけようとした男に仲間から声がかけられた。


「おい!撤退するぞ!」

「っち!わーったよ...」


男の目に、遠くからアンデットの軍団がやってくるのが見える。

一体一体のゾンビが雑魚だったとしても、あの数には勝つことができない。

シェリーをみやり、もう一度舌打ちをした男は仲間に続いて逃げ出す。


金はほしいが、それは命あっての賜物だ。

死んだら元も子もない。

そう、死んだら元も子もないのだ。


「...良かった、お前が無事で」

「お父さん?お父さん‼」


腹に大穴を開け、命が尽きそうになるその瞬間も彼は我が子の心配をしていた。


「動かないで!動いたらまた血が....」

「そうだな...もう、俺は駄目みたいだ」


そういって弱弱しく壁に倒れる。

細く見開いた目でシェリーの後ろに迫るアンデットの群れを見た最後の力を振り絞り呪文を唱える。


「『≪安全空間(セーフ・ハウス)』。これで、しばらく大丈夫だ」


息も絶え絶えに笑うセージ。

彼の言う通り、


「これは....何してんのさ!こんなことしたら」

「ふ、こんなことしなくても俺の運命は変わらねえさ。ぐっ...」


MPがない時に魔法を使うと、自分の生命力を削り魔法の力にする。

つまり...必然的に近づく。

先ほど彼は最後のMPを注ぎ込み奇襲を仕掛けた。彼のMPはもう空なのだ。


「そんなこと言わないでよ!そうだ!ポーション!」

「そんなのもう残っちゃないさ、それに....うっ。仮にあったとしても。治らねえよ」

「そんな...」

「....色々伝えたいことがあるけどよ...まずは、誕生日おめでとう。シェリー」


べったりと血の付いた手でシェリーの頭を撫でる。

いつもの....いつもの安心する。温かい手

泣きそうになる、シェリーに微笑みかけた。


「そして、こんな俺でも、本当の父親じゃない俺でも父と呼んでくれてありがとう」

「....」


その言葉にどうこたえていいかわからずシェリーは口をつぐんだ。

確かに、彼はシェリーの本当の父親じゃない。

本当の親はとうの昔に亡くなっている。魔物に襲われて。

シェリーがまだ生まれて間もないころの話だ。


「なあ、父さんの、最後の頼み。聞いてくれないか?」


戸惑う彼女の耳にか細い声が聞こえてきた。


「...わがった」

「....」


ぼそぼそと、小さな声。

もう、彼には体を動かす力は残ってない。声を出す力ももう....

死にそうで死にそうで、消えかける命。

その彼の最後の頼み。今まで育ててきてくれた家族の、最後の頼み。

シェリーは二度ほど深呼吸をすると、言葉を紡いだ。


「...悠久の時に生きる、偉大なる御身。時の中に生きる生命の、主よ、わが声を。聞き届け、彼のものを、安らぎの中にいざないて....」


分かれの唄。

彼をあの世へ送る唄。


「永劫のぉ”れぎじのながに、めぐるいのぢよ!我が、ぢぢ、ぜーじを。みぢびいでぇえ。みぢびいでぐれんごどを!ぜつにぃ”ねがうぅ!」


決して泣かないとしていたシェリーだったが、勝手にボロボロと流れ出る涙やら鼻水やらで顔がぐちゃぐちゃになる。

涙声で、歌が乱れる。言葉を続けるのがつらい。


それでも、必死に必死に言葉紡ぐ。

安らかに、天国へ彼を送るために。


「んくっ....はぁはぁ......シェーニェ....シェーニェ...」


目を閉じ祈りを捧ぐ。

最後の言葉を紡ぎ声をかける。


「お父さん?」


安らかな笑顔。

シェリーが声をかけるが彼はもう動かない。

もう、彼の言葉は届かない。永遠に目を覚まさない。


「おどうさあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああん!!」


シェリーの慟哭が洞窟に響いた。

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