◇02.◆「私をモデルに漫画を描いてください」
◇02.恋と漫画のシンデレラ◆
「私をモデルに漫画を描いてください」
なぜだ‥‥。なぜ彼女が僕の家にいるんだ?!
バス停から帰宅すると、彼女は僕の家に転がり込んだ。
そして何故か我が物顔でソファに寝そべりながら僕のアイスを食べている。
お風呂上がりに1人で食べようと取っておいた大事なアイスなのに。
なんて意味の分からない状況なんだ!!
こんな事、生まれて始めてだ!!
女の子が僕みたいな根暗男子の家に上がってくれて、正直すごく嬉しい。ドキドキする。
んがしかし、なんだろう。このお嬢様の様な態度は、僕が本来寝るはずだったソファで僕の漫画を読んで僕のアイスを食べて‥‥‥。
嬉しいような、ハラタツような。
まぁ、初対面なんだし、多めに見る事にしよう。これ以上印象悪くなったら嫌だし。
「あの、赤橋さん。なんで自分の家に帰らないんですか?」
「んー、だって、どうせ家に帰っても引越しの手伝いさせられるだけだし、君の家は親も留守みたいだしね。」
「つまり、引っ越しの手伝いが面倒だから僕の家でダラダラしてると?」
「ま、そんな感じかなぁ〜。あ!この雑誌、新連載始まってる!!面白ーい!」
彼女は終始漫画を読んでいた。まるで子供みたいだ。
「あのさ、君の出身は知らないけど、むやみに男の家に上がり込むのはどうかと思うよ?」
「別に誰でもいいって訳じゃないよ。幼馴染みだから。あなたホントに私のこと覚えてないの?」
そう言えばバス停から帰る途中、彼女はそんな事を言っていた気がする。
私達は顔見知りだの、幼馴染みだのって。
「それが、君のこと思い出したいのは山々なんだけど、あいにく小さい頃の記憶が無くて‥‥。」
僕は恐る恐る言った。
しかし彼女は嫌な顔一つせず、また漫画を読み始めた。
「そっか、覚えてないのも無理ないよね。ホントに小さい頃の約束だから。」
「約束?」
「あなたが言ったのよ〜大きくなったら私をモデルに漫画を書くんだって。」
「漫画?」
そう言えば、僕は昔、漫画を書く事にハマっていた。小学生の頃、自由帳に自分で作ったキャラを描いて戦わせて遊んでたっけな。
でもいつしかやめてしまった。
きっと自分なりに気持ちを切り替えたかったんだと思う。
あれ、なんで気持ちを切り替えようと‥‥‥?
あの時、何か凄く嫌なことがあった気がするんだけど、何も思い出せない。
「まぁ、いいわ。あなたが忘れん坊なのはいつもの事だったもんね。」
「え、なんでそれを?」
「言ったでしょ?私は君の幼馴染み。昔のあなたの事ならなんでも知ってる。」
「そっか、そうなんだ。」
「でも、今のあなたの事は何も知らない。だから教えて欲しいの。君の事。覚えてないならもう一度約束して?私をモデルに漫画を描いてください!」
彼女は立ち上がってそう言った。それは、やはり見覚えのある光景な気がした。
凛とした顔立ち、真っ直ぐな目にサラサラの黒い髪の毛。
やはり僕らは、本当に幼馴染みなのだろうか?
ガチャッ!!!
「お兄ちゃん、洗剤が切れたんだけど買ってきて‥‥ちょう‥‥だい。」
いきなりリビングのドアが開いたと思ったら、下着も着けてないだらしない妹がTシャツ姿で現れた。
「お、おにぃ、ちゃん。誰、そのヒト‥‥。」
「サオリ?どうした?真っ青だぞ?」
何故だろう?僕と赤橋さんを見た途端、妹の顔色が変わった。持っていた缶ジュースもポトッと落としてしまう程に。
「まさかとは思ったんだ。でもウチのお兄ちゃんに限ってそんな事は‥‥。」
「だからどうしたんだよ!」
僕はゆっくり妹に近づいていった。しかし妹は何故か怯えた様子で僕から距離を取ろうとしている。
「う、ウチのお兄ちゃんから離れろー!」
かと思ったら今度はいきなり僕らの間に割り込んできた。
「お兄ちゃん、この人絶対詐欺師だよ!!」
「は?!」「えぇ?!」
「だってお兄ちゃんみたいな陰キャのオタクのクズ人間が、女の子を家に連れ込めるはずないもん!!!」
「ヒドイ‥‥。」
「とにかく、この女は危険だよ!!早くケーサツに突き出した方が身のためだよ!!」
「‥‥‥」「‥‥‥」
「こんな女に家の財産持っていかれるくらいなら、お兄ちゃんと一緒に心中してやるー!!」
「待て待て待て待て!!一旦落ち着け!!そして僕の話を聞けぇ!!」
◇
どうやら妹は、僕が赤橋さんに売春を持ちかけられたと勘違いしたらしい。
その妹は今、正座で反省している。
にしても凄かったなぁ。赤橋さんの柔道術。
暴れ狂う妹を一瞬で鎮圧してしまったのは、正直カッコいいと思ってしまった。
それ以上に、制服姿で色々と素晴らしい何かが見えてしまったようなのだが、むふふふ。
「サクト君。この子は妹さん?」
「え、あ、はい。そうです。」
「??どうしたの?なんだか目を合わせてくれないわね」
「い、いえ‥‥‥。とんでもございません。」
「まぁいいわ。妹さん、さっきはごめんね?でも私は怪しい者では無いよ。さっきも言った通り、この村に引っ越してきただけなの。」
妹は反省した顔をしていた。なんなら半泣き状態だった。
「ひっぐ、分かりました。お姉さんが良い人なのは認めます。でもお兄ちゃんを誑かすのは認めません。ただでさえ家の家計は厳しいんですから。お兄ちゃんを奴隷にするのは断固拒否します!」
「私の印象めちゃくちゃ悪いわね。」
僕もそう思う。妹はいつもそうなのだ。初対面の人と上手く接するのが苦手で、いつも疑いから入る癖がある。
「はぁ、もうなんでもいいわ。今日はもう帰るわね。そろそろ帰らないとお母さんうるさいし。」
「あぁ、送っていくよ!」
「どうも♡」
か、かわいい。不覚にも、やはりこの人は可愛いと感じてしまった。
僕ってちょろい男だとつくづく思い知らされる。
妹はムーっとしながら僕らを見送った。その顔はまさに睨み顔だった。
僕はそのまま赤橋さんに手を取られて、彼女の実家まで着いていく事になったのだ。
最後まで読んでいただき、
誠にありがとうございました。
今後とも、
この作品を完結まで描き続ける所存であります。
もし少しでも良いと感じられましたら、ブックマークやコメントなどお待ちしております。
また、アドバイスやご指示等ございましたら、そちらも全て拝見させて頂きたく思います。