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勉強会

 結局、諒が勉強会に参加することを条件に、春名も一緒に勉強できることになった。

 変に嫌味を言われるよりもいいが、正直やりにくい。顔は春名に似て、とても整った顔立ちをしており、微笑むと誰しもが顔を赤らめるくらいだ。髪は春名とは違い、闇のような真っ黒だが艶があり、触れたくなるような美しさだ。顔はいいのに、何を考えているのか正直掴めないので、勉強会を計画通りに進めてもよいのだろうかと、躊躇してしまう。

 でも、折角もぎ取った機会であるから実行するんだけど。




「お嬢様、準備が整いました」


「ええ、ありがとう」


 今日は休日。今から来客室で勉強会を行う予定だ。本当はわたしの部屋でやろうと思ったが、諒に断固として拒否された。なので、しぶしぶ来客を迎える部屋がたまたま空いていたらしいので、そこで試験対策をすることになった。春名は休憩用のお茶と菓子の確認をしているので不在だ。室内の準備はすべて諒がテキパキとこなし、完璧な状態でいつでも主人公を迎え入れても大丈夫そうだ。

 仕事はできるのにね、父様第一主義が残念だわ。

 整えられたテーブルを横目で見ながら、参考書やノートの確認をする。わたし自身はすでに高校学習内容を履修済みなので、授業が復習のようなもののため、対策という対策はあまり必要ない。今ある参考書やノートは、わたしが要点をまとめたものなので、きっと勉強しやすいだろう。


「お嬢様、お茶とお菓子の準備も良さそうです」


「ええ、ありがとう。春名は自分の勉強道具を用意しておいてくださいね」


「かしこまりました」


 確認を終え、戻ってきた春名は、どことなく嬉しそうな表情を見せると、さっと部屋から出ていった。良かったと安堵する。

 初めはわたしが主導で会を進めていき、中盤辺りから主人公に春名の勉強を見てもらっている隙に退席できたら、二人っきり作戦は完了なのでそれでいきたいと思う。(諒という)不安要素が大きいが、基本的にその流れで進めるしかないので、何度も頭の中でシミュレーションをした。




 ……なぜ、こうなった!?


 目の前で起こっている状況を理解しようとするが、理解できない。

 はじめは良かった。主人公が到着して、春名の兄である諒を紹介したけれど、諒は笑顔でなぜか毒を吐いていた。春名の兄だから牽制だろうか? 春名も嬉しそうに参考書を広げながらゆるーい雰囲気で勉強会が始まった。不安要素の諒もこちらに介入してくるかと思ったが、一歩引いたところにいた。春名も主人公に解き方や考え方を聞いていたし、主人公も春名に教えていたので、わたしの作戦は順調に進んでいるかのように思えた。

 しかし、主人公が解けない応用をわたしに聞いてきた時に、諒が動いた。


 諒が主人公にベタ付いて、ひたすら解き方教えてる! 張り付いてるよ!!

 今まで壁際で様子を見ていたのだろう諒がわたしと主人公の間に入り、メモ帳に式を書きながら教え始めた。主人公は鳩が豆鉄砲を食らったかのような表情のままなすがままに、呪文のような解説を聞いている。その隣で春名があわあわとしている。

 しかも、聞こうとしていた問題の解説が終わったかと思いきや、「これも同様の解き方なのですよ。ここは…」と続けてわたしや春名が入る余地がない。主人公も何とか断りを入れようとした顔をしているが、その介入を許さないくらい解説を続けている。


 おおおう!! このままでは二人っきりどころか、主人公は諒との時間で終わってしまう!!


「諒、何をしているのですか? もう門矢さんが分からないと言っていた問題は終わったのでしょう?」


「ええ。ですが、お手伝いしますと申し上げたので、他で躓きそうな問題もピックアップして教えて差し上げるのが良いかと思いまして…」


「必要ありません」


 ぴしゃりと言い切って下がらせるが、そのままわたしの隣にぴったりとくっついた。


「何ですか?」


「お手伝いしますと申し上げましたので、お嬢様の勉強をお手伝いさせていただきます」


「わたしには必要ありませんよ」


 言葉の通りで、高校の履修内容を終えているわたしにとって教えてもらうのは必要ない。しかし、諒は首を横に振った。


「念のためです。そのための勉強会でしょう?」


「う…」


 春名や主人公には勉強会開催の意義はあるが、わたしにとってはメリットもない。勉強するなら一人で黙々とやっていた方が効率も良いし、レベルを落とす必要はない。しかし、それをここで言ってしまうと、台無しである。

 言い返す言葉もないまま、わたしはこのまま、諒のマンツーマンレッスンを受けることになってしまった。


 頃合いを見て、抜け出そうと思っていたのに、どうしたらいいんだ!!

 心の叫びは、誰にも届かない。


 しばらく、勉強をしたふりをしながら二人を観察したり、たまに春名に教えたりを繰り返していた。ちなみに、諒によって主人公との接触は防がれてしまっているが。そして、ふと閃く。


 このまま、諒を連れて出ていったらいいのではないか? 諒には適当に用事を言いつけたら、断れないし何とかなるのでは!? すっごい! なんで思いつかなかったんだろう! と自分で自分を褒めつつ、隣で採点をしている諒に話しかけた。


「わたし、部屋に取りに行きたいものがあるの。春名は勉強中なので、諒に付き添いを頼んでもいいかしら。少し重いもので…」


 諒はにこりと微笑むと、「かしこまりました」と言った。顔は本当にイケメンなのに、本当にいろいろと面倒くさい奴だ。そう悪態をつきながら、一言言ってから席を立った。

 これで、二人っきりだわ…。

 ふふふ、と笑みを隠し切れずに、部屋を出ると諒とともに真っ直ぐ部屋に向かい、適当な参考書を数冊選んでて諒に持たせた。そして、来客室前まで戻ってきた。


「どうかされましたか?」


「しっ! 静かにして!」


 隣にいる面倒くさい諒を黙らせた。

 ドアの隙間からそっと二人の様子を窺うと、楽しそうに会話をする様子が見られる。ここからは声が良く聞こえないが、主人公からプレゼントされたボールペンを嬉しそうに握りしめる春名が見えた。

 ずっと、大切にしているもんね。うまくいっている感じで、こちらとしては嬉しいし、乙女の顔をする春名が見られて最高に幸せすぎる。


「真琴…?」


 幸せそうに春名を見るわたしと違い、諒はわたしと扉の先の春名を何度も視線を移し、考え込んでいた。

読んでいただき、ありがとうございます。

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