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主人公との邂逅

「というわけで、あなたには幸せになってもらいます」


「は?」


 画面越しに見ていた愛しい推しが目の前にいることで、わたしは興奮し我を失いかけた。春名は眉を下げてどう見ても困っている。



 ああ、その顔も萌え!というか、生で動いてる、マジ可愛すぎ。転生最高!



 わたしのギャルゲーの楽しみ方は疑似恋愛ではない。美少女を愛でることだ。愛でているプレイヤーである主人公がたまたま男の設定なだけだ。百合ゲーでも最高だが。今世ではゲームの世界ではスポットライトさえ当たらなかった春名とこんなにも触れ合える。

 さて、このモブキャラ春名だが、もちろん優樹菜ルートで登場する。優樹菜の侍女という立場なので、優樹菜の好みや自身の悩みを知ってる。そのため主人公は春名を通じて情報を得ていくのだ。基本的に優樹菜の好感度に応じてイベントは変わってくるのだが、好感度MAX時の誕生日プレゼント選びデート(命名 紫)は丸1日春名と一緒にいることができ、彼女の内面を少し見ることができる。そこから春名に信頼されていき、優樹菜の情報を得ていくことができるのだ。これらから分かるように優樹菜ルートは激ムズである。




「お嬢様、わたしは十分幸せですよ?お嬢様もおりますし…」


「春名はもっと欲張ってもいいのよ!?自分の好きな人と一緒にいるのも大切なことよ」


「お嬢様といることがわたしの幸せですから」


「…」




 そうだった。春名は優樹菜第一主義だった。にこりと笑う春名を横目にわたしは考え込んだ。何とか主人公と接触させて優樹菜以外にも目を向けてもらわねばならない。実際、攻略時は目を向け、気のある素振りを見せたのだから。

 明日から2学期が始まる。つまり、主人公が編入してきて、ゲームがスタートする。他の攻略対象に出会う前にこちらに引き込まなければ後々面倒だ。



「お嬢様が何を思っているのかは分かりませんが、明日から学院が始まります。今日はおやすみください」


「ええ、分かったわ」


 春名は美しい礼を一つすると扉の外へ出て行った。わたしはこれから起こるであろうイベントを整理しつつ身体を休めることにした。








「本日より編入することとなった、門矢匠さんだ。七宮さん、席は隣なのでいろいろと教えてあげなさい」


 ゲーム越しではなく、リアル主人公を見るのは何だか変な気分だ。というか、主人公=プレイヤーなので顔は出ないので、曖昧だった主人公・門矢匠の顔を初めて見た。黒の刈り込んだ短髪にスラッとした長身。体はよく鍛えられているのか筋肉質だが細身だ。マジイケメン、モブっぽい顔じゃないのか。そりゃ、攻略対象はちょっとアプローチかけられたら落ちるわ。その主人公は真っ直ぐにわたしの方に向かって歩いてくるとにこやかな顔でこう言った。


「よろしく」


 ついに来た。優樹菜との出会いイベントであり、オープニングイベント!とりあえず、学校案内を優樹菜にさせたらルートに入る。本来なら主人公側が頼んで案内してもらうのだ。先手必勝!

 紹介が終わり束の間の休み時間に入るとすぐに主人公に話しかけた。


「もし良ければこれから学校内を案内しましょうか?」


「本当ですか?よろしくお願いします」 


 極上の笑みを浮かべながらわたしは言うと、主人公は耳を赤くしながら快諾した。優樹菜の美貌には男は勝てない。分かりやすい。

 すぐに席を立ち案内をはじめ、そして何とか学院の案内を終え教室に戻ると、隣のクラスからわたしの様子を見に春名が来ていた。グッドタイミングだ。


「お嬢様、何かお困り…、お取り込み中でしたか。失礼いたしました」


「いいえ、今終わったところ。こちらは門矢匠さん。今日からわたしのクラスに編入してきた方よ」


 だから大丈夫よ、と深い笑みを貼り付けた春名に言うと、春名は一瞬驚いた顔をしたと思ったらすぐに表情を戻した。


 分かりにくいよなあ。初めは警戒心の塊だもん。


「はじめまして、門矢様。私はお嬢様のお手伝いをしております、春名と申します。よろしくお願いします」


「よろしくお願いします」


 主人公はぽーっとした顔をしている。まあこんな短時間で美少女に2人も合っていればそうなるか。春名の可愛さを理解してくれるのは結構結構。

 とりあえず、春名とのファーストタッチはできたな。ゲーム内の優樹菜は他人に興味ない感じだから春名は驚いただろうな。まあそれが警戒心を解くのに大切なのだが。


「春名、放課後なのだけど、門矢さんの学院生活で必要なものを教えて差し上げようと思うの。手伝ってくださる?」


 主人公はバッとわたしの方を見た。何で物が足りないと知っている?と目が物語っている。このイベントも主人公が優樹菜に頼むイベントだ。主人公の急な引っ越しということもあり、学院で使う用品もあまり揃えられないまま生活をスタートしているというとんでも仕様であることはやり込んだから分かりきっている。


 ここで言ったのだから放課後予定空けててね、と思いながらニコリとしておいた。しかし、隣で春名が怪訝な顔をしている。目は、なんで自ら関わるのですかお嬢様と言っている気がするがスルーする。


「私は大丈夫ですが、門矢様のご予定もあると思いますよ…」


「…もし春名さんがよければ、俺の方からお願いしたいです」


「…」


 うっわぁ、春名の顔、すっごく嫌そう。門矢からは見えないけどすっごい嫌そう。わかってたんだけどさー。


「では放課後、店を回りましょうか。春名、よろしくお願いしますね」


「かしこまりました」


 嫌そうな顔をすぐに戻し、礼をすると自分のクラスに戻っていった。態度が気になるが、今は仕方がない。この問題をじきに解決するイベントがあるからだ。そのイベントさえ過ぎたらこの嫌そうな顔とはおさらばだ。


次回、買い物イベントです。

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