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告白

読んでいただき、ありがとうございます。

 来客室の前までやってきた。変に足音を立ててしまうと、真琴が気付いてしまうので、細心の注意を払って歩いてきた。


「お嬢様」


 後ろから諒が声をかけてくるが気にしない。もちろん、扉を開けようとする諒は制止済みだ。

 わたしは、ほんの少し扉を開け、片目で覗けるようにして、慎重に中を覗いた。


「…………で、よかった」


「はい! お嬢様のおかげです…!」


 嬉しそうな真琴の声が聞こえる。真琴の目の前にはもちろん主人公。やはり学校帰りのため制服のままだった。

 諒がわたしの真上に来て、一緒になって覗きだしたが、無視しておこう。


「じゃあ、真琴さんも七宮さんの侍女に戻れるんだね?」


「はい! ……匠様には大変お世話になりました。お嬢様から聞いて、私、お礼が言いたくて…」


 真琴が頭を下げる。主人公は慌てたように両手を自分の顔の前でぶんぶん振った。


「俺はほとんど何もしてないよ…! 七宮さんが頑張っただけで…」


「でも、お嬢様も感謝しておりました。本当にありがとうございました…!」


 花が咲くような笑顔で主人公を見る真琴はとても可愛らしかった。素の可愛さも相まって輝くようだ。

 思いがけず見れた推しキャラの笑顔に倒れそうになるが、何とか踏ん張って覗き続ける。


「それだけではありません。あの時、家のことを相談し背中を押してくれたのも匠様です。匠様は善意で私のことを邪険にせず、しっかりと向き合って見てくださいました」


「……それは、ただの善意だけではないよ」


「え?」


 きょとんとしている真琴を他所に、主人公は顔を赤らめて息を思いっきり吸って吐いた。


「俺は、真琴さんが好きだ。善意なんかじゃない、好きだから手伝ったんだ! 君が幸せになるのを望んでいるんだ」


 きたーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!

 本当は叫びたいけれど、その衝動を抑え、扉にかじりつく。傍から見ると、とても無作法で残念な姿だろうが気にしない。それよりも、告白イベントが来たことに興奮を隠せない。ゲームならば年度末を待っての主人公からの告白だが、さすがにモブは特別枠というわけだ。

 諒がいる上を見上げると、顔は見えなかったが、待っていましたと言わんばかりにぐっと握りこぶしを握っていた。


「私ばかり幸せを感じてしまって良いのでしょうか…?」


 真琴は口元を両手で覆い隠しながら、目を潤ませていた。

 いいんだよ! ゲームでは幸せではなかったと思うから、ここでは幸せになっていいんだよ!

 心の中で全力で後押しをしておく。まあ、真琴には一切届かないのが残念だが。


「君の幸せが、俺の幸せにつながるんだ」


「匠様っ……!」


 大粒の涙を光らせて、主人公の胸に飛び込む。主人公は真琴を両手でしっかりと受け止めると、真琴の背中に手を回した。

 わたしはつい立ち上がってしまった。しかし、わたしの真上には諒が同じように覗いていたので、諒の顎にわたしの頭が激突する。


「いたっ!」


 ゴンッという鈍い音がした瞬間に、頭のてっぺんがずきんと痛んだ。横を見ると、頭をぶつけられた諒が顎を押さえてうずくまっていた。


「ご、ごめんなさいっ!」


 慌てて駆け寄って膝をつく。かなりの勢いでぶつけてしまったから、とても痛いと思う。

 冷やすものを探さないとと思い、慌てて動こうとすると、諒が手を引っ張ってきた。


「お嬢様、私は大丈夫ですので…」


 そう言って諒は顔をあげるが、どう見ても顎は赤い。


「どう見ても赤いです!やっぱり、冷やさないと…」


「私のことはどうかお気になさらず…」


「で、でも…!」


 押し問答をしていると、扉がきぃっと開く。開いた先を見ると、真琴と主人公がわたしたちを見下ろしていた。

 あ、ばれた、と思うが、もう遅い。そう思った瞬間、主人公の顔がみるみる赤くなるのが分かった。


「な、七宮さん!? も、もしかして…」


 バツが悪そうに言う主人公に苦笑いを浮かべ、誤魔化しておく。隣の真琴も顔が真っ赤だ。

 顔が真っ赤な真琴も可愛いなあ。これこそ、恋する乙女だな。

 昔に置いてきた若い頃の甘酸っぱい記憶を振り返りながら、真琴の幸せを素直に喜びたいと思った。





「真琴から聞いていると思いますが、門矢さんのおかげで元に戻ることができました。本当にありがとう」


 気を取り直して、今までのことに対してお礼を言い、頭を下げた。真琴と諒はわたしの真横で控えていたが、わたしがお礼を言ったのに合わせて一つ礼をしていた。そして、諒が入れてくれたお茶を一口飲む。朝食から水分を取っていなかったので、喉に流れていく感覚が心地よかった。


「俺は、本当に言葉だけだったし…」


「ですが、その言葉がなければわたしたちはすれ違ったままでした。おかげで、わたしも真琴も幸せなのですよ?」


「まあ…、そう言うなら、気持ちは受け取っておくよ」


 わたしの言葉に渋々ながらも受け入れてくれ、同じくお茶を一口飲んだ。わたしは続ける。


「今、十分に幸せなのですが、これからも真琴は幸せにし続けてくださいね」


 笑顔で言った瞬間に、主人公はむせ込んだ。真琴は顔をまた真っ赤にしている。可愛らしい奴め。

 でも、二人とも否定はしないから結ばせることはできたのかな。

 そう思っていると、顔は赤いが真琴が主人公に自前のハンカチを渡していた。その行動に、にやつきを我慢できず、おそらく顔に出ているだろうと思うが、二人をほほえましく思って見る。すると、真琴がこちらをしっかりと見ていった


「お嬢様も、幸せにしてもらってくださいね」


「は?」


 言っている意味が全く分からず、ぽかんとしてしまう。”してもらう”ってどういうこと?

 そう疑問に思い考えていると、諒が歩み出てきてわたしの右手を取った。


「兄様の気持ち、全くと言っていいほど伝わっていないので、兄様、しっかりしてくださいね」


「ここ最近で嫌というほど感じているよ」


 そう言ってわたしの手にキスを落とした。

 何が起こったのか理解できないまま、諒に視線を送ると、諒はにこりと笑った。ああ、これ悪いことを考えているときの笑顔だ。


「これからしっかりと伝えていきますから、覚悟してくださいね」


「もう、わかったので…大丈夫です…」


 しどろもどろになりながらお断りの返事を返すが、諒は攻めるのをやめる気はないようだ。

 わたしは今後、どうなってしまうのだろうかと辟易としながら、諒を見つめた。


 その後、諒から決して諒のキャラとは思えないほどの分かりやすいアプローチをされ、愛を伝え続けられることは、その時のわたしは知る由もなかった。

本編はここで区切りとなります。

あと、エピローグ1話で完結となります。

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