終結、後始末
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わたしは真実お爺様と話した内容を大雑把だが、わたしが知った真琴の監視の理由や真実お爺様のことを真琴に説明した。足りないところは隣で諒が補足してくれたので、真琴はすぐに理解してくれた。諒、マジ有能。
「では、わたしはお嬢様にまたお仕えできるのですか…?」
「もちろんです!」
わたしがそう言うと、真琴はとても嬉しそうな顔をして微笑んだ。ああああ、この顔、マジ天使!
「私は本当に感謝せねばなりませんね」
幸せそうに話す真琴を見て、わたしも感謝しなければならい人がいることを思い出す。
「わたしも感謝しなければなりません。門矢さんがわたしの背中を押してくれなかったら、自分の気持ちさえきちんと整理できていませんでした…」
「匠様が…!?」
真琴が目を見開き、驚く。
本当に主人公が真琴の本当の気持ちを察してくれていなければ、またわたしにそれを知らせてくれなければ、このような結果とは違ったものとなっていたかもしれない。そう考えると、主人公の言動はナイスアシストだと思う。
「…私も匠様に、きちんとお礼が言いたいです。大切なお嬢様の下へ戻るために動いてくださったのですね…」
ふわふわの茶色の髪を触りながら言う。
あ、これ。乙女の顔だ。しかもちゃっかり、『匠様』って名前で呼んでるし。
「さて、お嬢様。まずは、七宮の家に戻り、ご主人様にご報告されてはいかがでしょう。お爺様のこともありますし」
わたしがにやにやしている顔を、笑顔で見ながら諒が話を切り出してきた。
そうだ、分家の話も知っているとは思うけど、念のため報告しておかないと。報・連・相ってとっても大事だよね。あと、まあ変な力を削いでおくという意味でも真実お爺様のことも伝えておこう。独断な部分もあったようだし、それはそれで気分のいいものでもないだろう。
「とりあえずここから戻りましょう。まずは大体の内容を先に父様に報告ますね。その後、門矢さんに連絡もしてお礼を伝えましょう」
「かしこまりました」
「お嬢様。私…、匠様に連絡してもよろしいでしょうか?」
真琴がもじもじとした様子で切り出した。きっと会いに行くのだろう。
真琴は特にこの後すぐに必要になるわけではないので大丈夫…かな。
頭の中でシミュレーションをしてから、いなくなっても良いことを確認する。念のため、ちらりと諒の方を見てお伺いを立てると、小さく首を縦に振った。……どうやら問題ないみたいだ。
「大丈夫ですよ。もう冬休みの時期で半日授業ですし、もう終わる頃ですしね」
「ありがとうございます。連絡がつき次第、お嬢様にもお知らせします」
「ええ、待っているわ」
そう言うと真琴は先に部屋を出ていった。七宮の家に戻って、主人公に連絡をしてくれるので、わたしは父様に報告するだけで良くなった。
真琴と主人公をくっつけたい身としては、これは絶好のチャンスだったので、自ら申し出てくれてよかった。だから、思い出してわざわざ言葉にしたのだ。真面目な真琴はきっと「お礼を言います」と言うだろうと踏んだからだ。
「門矢様も一枚嚙んでいたのですね」
ぽつりと後ろから聞こえたので振り返ると、諒が一つため息をついていた。
「あの方がいなければ、わたしはきっと混乱して何もすることなく過ごしてしまっていたでしょう。だから、わたしもきちんと感謝しなくてはいけません」
「そうですね…」
心なしか声が悔しそうに聞こえるが、改めて聞くと面倒くさそうなので放っておくことにした。
わたしは家に戻ろうと、真琴が出ていったドアの方を見て歩き出そうとしたその時。
ぐいっと右手が引っ張られる感じがしたかと思うと、わたしの体は後ろへとバランスを崩した。そして、それを抱きとめるように後ろから手が伸びてくるのが見えた。
「え?」
はっと気付くと、わたしは諒に後ろから体ごと抱きしめられるる状態で立っていた。諒はわたしの右の首筋に顔をうずめている。動こうとしてもがっちりと抱きしめられたその手はぴくりとも動かなかった。
「……えっと、あの…諒? どうしたの…?」
この状態でいることがとても恥ずかしくて、どうも照れた声になってしまう。
前世でもバックハグなんてされたことないのに、耐性なんてあるわけないじゃないか!
「…私は物事を一点からしか見ていませんでした。真琴の気持ちは取り巻く環境などを理解し、そこから判断しなければなりませんでした。それがわかったのはお嬢様のおかげです。ありがとうございました」
「い、いいえ…! お気になさらず…」
「私はお嬢様を真琴と同じくらい大切に思っています」
ふと右の諒の顔を見ると、悔しげな瞳をした諒と目があった。
あれ? もしかして、私が真琴のことばかり言ってたから、嫉妬してる…? いや、ないない! あの諒だよ!?
今までにない諒を見てしまったからか混乱してしまう。けれど、諒にもきちんと言わないと伝わらないのかな? それなら…。
「諒も大切な存在ですよ。今回は助けてくれてありがとう」
実際に真実お爺様に会わせてくれるようにしたのも、真琴の部屋へ案内してくれたのも、すべて諒だ。感謝くらいはしておかないと。
わたしがそう言うと、諒はまた顔を赤くしてわたしからすぐに離れた。
また怒らせたのか…?
そう思ったが、怒っている様子もなく、ただひたすら自分の口元を手で隠している。しかし、隠しているところが口元ぐらいなので、耳まで赤いが見えるので隠している意味がないように思う。
わたしが首を傾げていると、「七宮邸に戻りますよ!」と先導を切って歩き出したので、おとなしく付いていくことにした。
ちょっとだけ自分の顔が熱いような気がした。
「ご報告は済みましたか?」
自室を出たところで、諒が声をかけてくる。
すぐに家に戻り、父様に報告をするために自室へ戻り、電話をすることにした。取り急ぎなので、ざっと内容を伝え、帰ってきたら詳しく説明することを伝えると、父様は「苦労したんだな、お疲れ様」と労ってくれた。あの言い方ではおそらく、すべてわかっていたのだろう。わかっていて泳がせていたのだと知ると、わたしもそうならなければならないのだな、と感じ、少し怖くなってしまったのは秘密だ。
「大まかにですけど終わりました。真実お爺様のことは、諒の父様と話して決めるそうよ」
「そうでしたか、失礼いたしました。……門矢様がこちらに来られています、と真琴が言っておりました。今は真琴が来客室で対応しております」
「そう、わたしもお礼を言いに行かないとね」
お昼までの授業だったので、連絡が来てその足でここまで来たのだろう。わたしは来客室の方へと向かおうとして、足を止めた。
あれ…? 今、真琴と主人公、二人っきりじゃない?
落ち着いて考えると、あの騒動が真琴のルートの「転」だとしたら、もう「結」に行ってもおかしくはないはずなのだ。まあ、主人公の介入はほとんどなかったのだが、いなかったら詰んでいたのは明白なので置いておく。
これは、覗きにいかなければ…!
そう思うと、いつもより歩くスピードを速くして、来客室の方へ向かった。
これは、気になる展開になるわ…!
次は覗き魔ですね。
あと1、2話で終わりそうです。目途が立たずすみません。