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16/20

対決

遅くなりました。

いつもありがとうございます。

 目の前にそびえたつ大きな門。木製のそれは年季を感じさせるもので、七宮家同様春名家も長い間栄えている象徴のように思える。春名がわたしの家で生活していることもあったので、この家に行くこと自体少なかった。しかも、第一線から退いた真実お爺様と会うこともこの春名の家でしかほぼなかったので、真実お爺様と会う機会も少なかった。

 正直、緊張している。会うことが少ない、というよりも、真実お爺様の雰囲気があまり好きでない。顔はにこやかにされているけれど、心の内では何を考えているのか分からない。表情だけは諒と一緒だが、やりにくさは真実お爺様の方が断然上だ。今回のわたしの監視の件もそうだ。わたしの行動を監視して何の利益を得ようとしていたのだろうか。

 わたしの緊張感が諒に伝わったのか、諒はふわっと笑みを浮かべた。


「大丈夫です、お嬢様。私が付いております」


 優しい声色で励まされると、少し安心してしまう。けれど、きちんと春名の話をつけないと、春名はわたしの元へは帰ってこないだろう。わたしは、気を引き締めた。


「ありがとう、諒。では、行きましょう。案内をお願いします」


「かしこまりました」


 諒は恭しく礼をすると、春名家の大きな門を自ら開けた。扉の奥には丁寧に整えられた庭園が広がっているのが見える。諒が先導だって中へと入っていったので、わたしも後に続くことにした。


「お嬢様」


 前を歩く諒が話しかけてきた。表情は前を歩いているので全く見えないが、声から真剣な雰囲気が漂ってくる。


「私は今回の件で、お爺様を問いただしましたが、『春名家の今後のため』としか言われませんでした。同様に、真琴も…。なぜお嬢様を監視したのかが明白ではありません。なので、どのように攻めていかれるのかが重要になってくると思います」


 わたしを監視した理由が春名を下に戻せる希望となるかもしれない。そこを知ることが重要になってくるだろう。しかし、今は情報を集めるには全くと言っていいほど時間が足りない。仕方がないが、出たとこ勝負でいくしかない。

 そうしていると、春名の家の玄関に来た。わたしの家ほどではないがなかなか広い。記憶通りならこの家の奥に真実お爺様の部屋があるはずだ。


「私がまず、お爺様と話をしてきます。少々お待ちいただけますか?」


 わたしはこくりと頷いた。本来ならばアポイントを取っていかなければならないが、そんな時間も惜しいため押しかけで来ている。わたしがいきなり、部屋へ出向いてしまうのは失礼な部分もあるだろう。

 諒は玄関近くにある来客用の部屋にわたしを案内し、ソファーに座るように勧めてから部屋を出ていった。

 わたしはソファーに座り、辺りを見渡した。ここは、初めて春名の家に来た時に通された部屋だ。

 ここで初めてわたしは春名に会った。就学前に父様に連れられて、引き合わされた。初め春名はおどおどしていたが、一緒に遊ぶうちにあっという間に打ち解けることができた。就学前ということもあって、年回りが近い子が近くにいなかったので、実は春名が友達第一号だった。わたしは、何の意味もなく嬉しくてそれを春名に伝えたっけ。

 昔のことに思いをはせているうちに諒が戻ってきた。若干暗い顔をしているような気がする。


「お待たせいたしました。お爺様は奥の部屋で待っているそうです」


 わたしはソファーから立ち上がると、諒と一緒に部屋の外を出て、奥へと進んで行く。そして、大きめの扉の前で諒が立ち止まると「連れてまいりました」と一声かけた。すると、「入りなさい」と低い声が聞こえたので、諒が扉を開けた。

 そこには、短い白髪をきちんと整え、暗色の着物に薄墨色の羽織を着た老人が一人立っていた。最後に会った時よりも少々老けたように思うが、真実お爺様だ。

 わたしは息を整えて挨拶をする。


「真実お爺様、本日は急に面会をお願いしてしまい、申し訳ありません」


「さてさて、七宮のお嬢様が私なんぞに何の御用ですかな?」


 真実お爺様は、自分の顎を軽くさすりながら言った。こういうところは諒にそっくりだ。わたしは少し苛立ったが、笑顔で対応する。


「わたしの侍女が外されてここにいると伺ったのです。真実お爺様が関与されているのは分かっているので、わたしがここに来た理由などわかるでしょう?」


 分かっているくせに何言ってんのよ、と悪態をつきながら言う。こういうところが喰えない。


「ははは…、そうじゃったな。申し訳ない。さて、お嬢様は私に何を言いに来たのかな? 文句…ですかな?」


「いいえ。即刻、春名をわたし付きの侍女に戻してほしいのです」


 わたしがそう言うと、真実お爺様は驚いた顔をした。


「なぜですかな? 真琴は自ら辞職したのだろう?」


「自ら辞す原因は貴方にあるのでしょう? それは自分の家のため仕方がないことだと思っています」


 そう、わたしは春名に対して腹を立ててはいない。命令されて仕方なくやっていたということは、主人公がほのめかしていた通りだろう。もし春名が裏切ろうと思うならば、今回の告白自体なかったはずなのだから。


「では、我々が監視していたことに対しては何も思わないのかね?」


 お爺様は目を光らせる。わたしがどのように返してくるのか見ているのだろう。ある意味分かりやすい。


「まあ、少しは思うこともありますが、いつか上に立つものとして言動には気をつけなければならないでしょう。そういう意味で監視されていたのでは?」


 七宮の次期当主という自覚はある。一人娘だからなおさらだ。今まで嫌というほど教育されてきた。

 そう答えて、ほほう、と真実お爺様は感心した様子でまた自分の顎を撫でた。


「正解ですぞ。次期当主であるということが分かっているようですな」


 皺のある顔でにこりと笑うと、続ける。


「そして、お嬢様は七宮の分家の話はご存じですかな? その分家がきな臭い動きをしている、ということを」


 分家の話は父様から聞いたことがない。なので、正直に「いいえ」と答える。


「お嬢様が生まれ、しばらくたった後、あ奴らはまず春名家に接触してきた。『手を組む気はないか』と」


「そんなことを!? なぜ、私には一言も…!? 言ってくだされば、私が…」


 後ろに控えていた諒が飛び出すように口をはさむ。それに対して、真実お爺様は睨みつけて制した。


「そうやって、後先考えず飛び出すのは良くない。春名家を背負うものとしてはまだまだだ」


「う…」


 諒はぐっと唇を噛みしめていた。確かに後先考えずに飛び出すのは良策でないのは事実だ。


「それで真実お爺様はその話を保留されているのですね」


 その話を受けたならば、わたしにこの話自体しないはずだ。わたしが確信をもって言うと、真実お爺様は笑った。どうやら合っているらしい。


「春名家は七宮本家のおかげでここまで存続することができました。しかし、今後はどうか定かではない。分家の方は手を組めば春名家を上層につかせるという言質を取っている。だから保留し、どちらが当主として相応しいのか見極めてきたのです」


「それは、どうも良いとこどりですわね」


 皮肉を持って言う。わたしが相応しくなかったら分家の方に味方するのだから。それに対して、諒が前に出てくる。


「それは今までの七宮家に対しての冒涜です! お爺様は何を考えておいでですか!?」


「それは、春名の家のことに決まっておるだろう」


「それでも今までの恩を忘れてそのような行動をとられるとは、本当にあり得ないことです!」


 二人は睨み合う。ここで家族喧嘩を見ている場合ではないのだ。わたしは間に入った。


「分家が本家になり替わろうとしていることは分かりました。そして、真実お爺様がわたしに当主としての資格があるのか見極めるために春名をつけたということも」


 二人は睨み合いをやめて、わたしの方を向いた。真実お爺様は真剣な顔つきになって言った。


「では、そのような状況の中でお嬢様はどう動かれるのですか?」


「わたしは変わらず、春名をわたしの侍女として戻してもらうことを願います。監視されるのならば監視してもらっても構いません。わたしは七宮に生まれた者です。言動などで揚げ足を取られるなんてことは絶対あってはいけません。なので、真実お爺様のお眼鏡にはかなうでしょう?」


 わたしは茶目っ気たっぷりに言う。すると、真実お爺様は大きな声で笑った。


「さすが、七宮のお嬢様ですな! やはり、器が違う! ……では、今後も同様に春名家の保証をお願いしたい」


 真実お爺様は真剣な顔で頭を下げてきた。今後の家の存続のためにも必要なのだろう。ただ、何もなければこれからも春名の家の者の協力は得ておきたい。それくらい、春名家の者は七宮の家の一部と言ってもいいのだ。


「ええ、と言いたいところですが、春名や諒たちが悪事を働いたら問答無用で切り捨てるわ。…まあ、ないと思いますが」


「私は絶対にお嬢様を裏切ることはありません」


 隣で諒がきっぱりと言い切った。ぶれないなー、とわたしは思いながらも諒を頼もしく思う。


「これで七宮本家も安泰ですな」


 大きな声で笑う真実お爺様。こんだけ、引っ搔き回しておいて自分だけ得したようになってるじゃん。ちょっと仕返しがしたくなったぞ。


「ですが、良いとこどりをした真実お爺様は父様にそれを伝えて信用を得るという方法もあったのではないですか? まあもったいないです事! 父様は分家などにつけ込まれる器でもありませんのに…。このことはきちんと、父様にも報告させていただきますね。あ、もちろん、春名や諒はわたしにとって必要な方々もいますので、悪いようにはしませんが」


 報告したら春名家の完全な実権は諒の父親に移るだろうな、と思いながら笑顔でさらっと言い切ると、真実お爺様は目を丸くした。ここまでわたしが言うとは思わなかったのだろう。


「ははははは! これは一本取られましたな。老い先短い人生ですので、視野が狭くなっていましたわい」


 満足そうに笑う真実お爺様を見ると、どうも手のひらで転がされていたような気がするが、もう仕方がないと思って諦める。わたしは本命の用事を最後に切り出す。


「では、春名は返してもらってもよいですか?」


「私にはもうどうもできますまい。諒に案内してもらい、真琴の部屋に行って話を付けてきてください」


 真実お爺様は諒を促した。諒はさっと扉の前まで行き、扉を開けて待機する。

 …これは、もう大丈夫ってことでいいのかな?

 わたしは諒を見ると、諒は嬉しそうに頷いた。それを見て、わたしは何とか出来たのかと実感がわいて嬉しくなってきた。


「それでは失礼します」


 わたしは、真実お爺様に一礼すると退室する。


 やった! 春名、今から迎えに行くからね!!


 諒に案内されて、春名の部屋と向かう。

真実は、優樹菜が真琴を戻してきてほしいと頼みに来た時点で本家側に付くことを決めています。真琴を盾にいろいろ要求できますから。まあ結局、それも難しくはなったのですが。

分家は、優樹菜に婿入りすることで徐々に掌握しようと企んでいました。そのためには春名の家の協力は絶対必要でした。まあ、諒がキレそうですが。

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