心配
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早速春名に会おうと授業の時間など気にせず、春名のクラスを覗いたが春名は見当たらなかった。どこかに出ているのだろうかと思い、春名のクラスメイトに尋ねた。
「今日、春名さんお休みだよ? 一緒じゃなかったの?」
わたしは適当に返事をして、お礼を言う。
昨日まであんなに元気そうだったのに、病気とかで休むかな?
そう疑問に感じる。それはそうだ、昨日春名は主人公と出かけているし、わたしとも話をしていた。体調が悪そうとは感じなかった。しかし、このまま学校にいては春名に会うことができない。時間が開けば開くほど、このままではいけないと焦りを感じる。すぐに行動がしたい。
そんなわたしの焦った様子を他所に、主人公が後ろからひょこりと現れた。頭の中が春名でいっぱいだったせいか、主人公の存在を失念していた。
「先生には適当に誤魔化して早退した、と言っておくから早くいっておいで? 会いたいんだろ?」
これでこそ、ゲームの主人公だ! と心の中で拍手大喝采を送っておく。わたしはお礼を素早く言うと、すぐに学校を飛び出した。
早く、早く、早く伝えたい!
「真琴は春名家におります。お嬢様付きから自ら離れましたので、今後の処遇も考えねばなりません」
何とか家に戻り、すぐに春名の部屋に向かった。春名はわたしの家で基本生活をしているから、病気ならばそこで療養していると踏んだのだ。しかし、春名の部屋には春名はいなかった。整えられたシーツ、片付けられた机があっただけだった。
それならば、次は春名家の人間を探すことにした。父親、母親、諒ならば春名の行方を知っているだろうと思って。しばらく家の中をうろつくと諒を見つけ、つかつかと詰め寄ると口を挟ませない勢いで春名の居場所を聞くと先程の答えが返ってきた。
「今後の処遇…? 一体、どういうこと!?」
諒の胸ぐらをつかみかかるくらいの勢いで迫る。聞き捨てならない言葉があったからだ。
ただ、春名が、家族の一人が仕事を離れるだけで待遇が変わるの!?
わたしのその様子に、諒はため息をつきながら言う。
「お嬢様…、本来学校の時間のはずですのになぜここに、と申し上げたいのもありますが、真琴からすべてを聞いたのでしょう? その上で、何をお話しされるというのです」
諒の声が少し棘があるような気がする。もしかすると、諒は春名が辞めることに対して、怒っているのかもしれない。でも、わたしは春名にはずっと傍にいてほしいから、諒のことなんて気にしない。
「わたしは、春名が辞めることに対して納得していません。それを伝えに行くのです」
きっぱりと言い切った私に対して、諒はわたしの両肩を掴んだ。両手に力が入っているのか肩が痛い。
「お嬢様は、腹立たしいと思わないのですか!? 信頼していた人間が実は主人の行動を自分の家の利益のために報告していたという事実が!」
諒の目が吊り上がる。いつもすました顔で判断は冷徹なのに、今は怒りを露にし、感情のまま言葉を紡いでいる。わたしはこんな感情を表に出す諒を今まで見たことがない。
「諒は、腹が立つのですか?」
「当たり前でしょう? 私は、お嬢様に七宮の当主になっていただきたい。真琴が流していた情報によっては不利になり得ることがあります。真琴がしたことは、お嬢様を危険にさらすことなのですよ?」
そう言って、わたしの肩を掴んでいた右手をずらし、わたしの頬へ滑らせる。泣きそうな顔を見せながら、わたしの頬を一つ撫でた。
――ああ、諒は心配してくれているんだ。
いつもは見せない顔をじっと見つめていると、心の中でじんわりと温かいものが広がった。有難いと思う。わたしを思ってくれる人がいるということが。
「諒は心配してくれているのですね。ですが、わたしは春名の本当の気持ちを信じたい。そして、春名を諦めたくありません。このまま、わたしから遠ざけられるのは嫌なのです」
「ですがお嬢様…、真琴は…」
「本来は黙ったままでも良かったはずなのに、それでもわたしにきちんと向き合ってくれたのです。だから、わたしは春名を信じたい…!」
わたしは言いたいことを言い切って、真っ直ぐに諒を見つめる。
「諒は、わたしのことを信じてくれませんか?」
そう言って、わたしは両手を諒の頬に当てた。諒が一瞬息を飲んだ。おそらく驚いたのだろう。
「お嬢様…、私はずっとお嬢様の味方です。信じないわけがありません」
諒は目をそらしながら、わたしから体を離した。頬にあった手がすっと離れていく。
諒の耳が若干赤いような気がするが、廊下だから寒かったのだろうか。
「…お嬢様、真琴は春名家に幽閉されております。先代当主のお爺様の命を無視したこととなりますので、正式な判断が下るまでは、おそらくそこに」
諒は、真琴の知っている情報を教えてくれた。やはり病気ではなく、昨日のことが原因で春名家にいるのだろう。
そして春名家の先代当主は、真実お爺様だ。七宮家を先代の代からサポートしてくれていた方で、今は隠居をしている。わたしを監視するように言ったのは、その真実お爺様ということになる。
それならば、春名と話す前に、真実お爺様ときちんと話す必要があるのではないか? わたしを監視するように言ったのは春名ではなく、真実お爺様だし、春名自身もそこが解消されなければ、わたしの下へ戻りにくいだろう。
「幽閉されているならば、正式な手順を踏んで会うのは難しそうですね。それならば、先代当主に会って話をつけます」
「それでは、私もご一緒させていただきます」
諒が申し出てきたので、有難くお願いしておく。
真実お爺様に会って、春名をわたし付きに戻してもらうようにお願いをするんだ!
諒に連れられて、春名家へ向かう。