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暗雲と光明

読んでいただき、ありがとうございます!

ブックマーク等も本当に励みになります!ありがとうございます!

「あれ、辞書がない…」


 次の日の英語の授業前に主人公が呟く言葉が耳に入った。本当に諒の手紙通りになった。あの人はどうやって辞書をどこかにやったのだろう?

 わたしの疑問解決よりも、手紙通り春名に借りに行くように助言する方が優先すべきことなので、わたしは、さも知らなかったかのように声をかける。


「門矢さん、どうかされましたか?」


「ああ、英語の辞書を置いていたはずなのになくなっているんだ。おかしいな、どこかに間違えて置いてしまったかな。…困ったな、次の時間に使わなければいけないのに」


 これ、傍から見るとヤバいやつだな…、と思いながらも、英語の授業は迫っているので、とりあえずしのげる案を提案することにした。


「辞書なら春名も持っていますから、春名に貸してもらいましょう」


「とりあえず、そうさせてもらおう…」


 落ち込んだ様子の主人公を不憫に思いながら、一緒に春名のクラスに向かう。幸い、春名は自分の席で次の授業の準備をしているようだったので、近くの生徒に頼んで春名を呼んでもらった。


「お嬢様、どうかされましたか? …あ、門矢様も」


「忙しいところ、申し訳ないわ。門矢さんが貴女に用事があって」


 後は自分でいいなさいよ、と目線を送ると、門矢は春名に辞書を貸してほしいことを頼んだ。春名は、すぐに自分のロッカーに向かい、辞書を取り出すと門矢に手渡した。


「今日の時間割では、辞書は使わないので返却はいつでも大丈夫です」


「ありがとう」


 笑顔を作る春名にわたしは少し違和感を覚えながらも、授業時間が迫っているので教室に戻ろうとする。しかし、じっと春名を見つめていた主人公が、言いにくそうに口を開く。


「……春名さん、何かあった? 俺、話聞くよ? あ、言いにくいならいいんだけど」


 春名は一瞬、目線を逸らしたが、すぐに笑顔を作った。

 あ、誤魔化す時の顔だ―――。春名は、自分をも誤魔化す時は必ず笑顔を作る癖がある。しかし、こうなった春名になかなか話を聞き出すことは難しい。


「ありがとうございます。ですが、次の授業もありますから、教室にお戻りください」


 ニコリと笑う春名にわたしは何も言えず、主人公の裾を引っ張って戻るように促した。線引きされたのだろう、この状態で問いただしても意味はないだろう。主人公は、「でも」と呟くが、わたしは首を横に振ったのを見て、春名の指示通り教室に戻ることにしたようだ。

 春名はわたしたちが教室に入るまで見送ってくれた。

 ―――その顔は、とてもやりきれない表情で歪んでいた。




 何も問題なく、英語の授業が終了し、昼休みに入る。片付けをしていると、一人の男子生徒がやってきた。確か、名前は田村だったか。


「門矢~、すまん! お前のやつ、俺のロッカーに入ってたわ。今さっき、英語の授業だったのに、大丈夫だったか?」


 そう言いながら、差し出したのは見慣れた辞書だった。


「何とかなったから大丈夫だよ。よかった…」


 ホッと息をつきながら、主人公は辞書を受け取った。

 ああ、諒の”他に情報を得る手段”は、田村のことだったのか。

 身近に意外な諒の手の者がいたことに多少驚きつつ、ついでにマークしておく。とりあえず、辞書がなくなったのは”間違い”だったというシナリオになっていることが分かった。これで、主人公も一安心だろう。


「本当にすまんかった! 俺も確認しとけばよかったんだけど…、本当にごめんな!!」


 そう言って田村は爽やかに言い残して、去っていった。

 すると、主人公は春名の辞書を片手に立ち上がる。辞書も戻ってきたことだし、返しに行くのだろう。「春名に辞書を返しに行くのですね」と念のため、尋ねてみると、頷きが返ってきたため確定だ。返しに行くならば、諒の指示通り、お礼をさせる方向にもっていくのが望ましいが…。

 しかし、辞書を借りたくらいで「お礼をしよう」となるだろうか…、うーん…。駄目元でやってみるか。


「急なお願いに対応してくれた春名にお礼が必要なのでは?」


 にこりと笑みを向けて言うと、主人公は「確かに」と、何か思いついたようにとても嬉しそうに呟いた。

 そこで察する。ギャルゲーをプレイにプレイした勘が働く。


 これは、落ちている!!


 諒が言っていた春名が主人公に気があるならば、両思いではないか!

 思いがけない事実に心躍り、あとは告白させるだけだと興奮する。これ、言った方がいいのかな?


「じゃあ、お礼の相談も含めて返してくる」


 嬉しそうに話す主人公は、さっさと辞書を大切そうに持って教室を出ていった。

 これは、あとで春名に聞かないとな!

 帰ってからの楽しみができたことが嬉しくて、鼻歌を歌ってしまった。




「二人で出かける!?」


 キャラでない素っ頓狂な声を思わず上げてしまった。私は慌てて態度を取り繕う。


「あ、はい。私も勉強会のお礼もしていませんでしたので…。ただ、試験が終わってからになりますが…」


 春名と主人公の急接近具合についていけない!

デートですね( *´艸`)

暗雲は春名の心情、光明は優樹菜の心情。

短めですがキリがいいので。


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