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9話 王都と狼の少女 その2

 王都にあるとある館、そこに数人の男達が集められていた。


「貴様らッ! 伯爵であるワシに泥を塗る気かッ!」

「いえ、決してそのような」


 伯爵と名乗る小太りの男は、男達を怒鳴りつけた。

 一人の男がしどろもどろになりながら謝るが、一向に伯爵の機嫌が良くなる気配は無く、罵詈雑言を浴びせるばかりだった。


「あのガキはワシの大切な仕事道具なのだぞ! あれが無ければ計画が台無しになるのだぞ、わかっているのか貴様はッ!」

「はい、申し訳ございません……。今すぐ捉えて来ますので」


 それを聞いた伯爵はさらに激怒し、男の髪を鷲掴みすると耳元で喚き散らすのだった。


「今すぐと言ったな!今、すぐにだ!この役立たずのゴミどもめッ!何をぐずぐずしている、早くここに連れてこいッ!」



 夜中の湖の畔。私は少女の手当をしながら、起こさないように小声でアズサさんと話していた。傷自体は大したこと無いようで、出血はほとんど止まっている。


「アズサさん、この子どうしたんですか?」

「薪を拾っている時に見つけたのさ。何かに追われたのか、将又その逆か……。何にせよ、あのまま放置しておくわけにはいかないと思っただけさね」


 擦り傷以外にもよく見たら首や手首にも何かを付けていたような痕が残っていた。

 まだ服の中は確認していないが、他にも傷があるかもしれない。私はそっとボロボロになっている少女の服をまくりあげる。そこには、無数の傷跡と共に腹部に特殊な印が施されていた。


「フィズ、これは一体」

「こればかりは私も専門外なので」


 簡単な薬草の調合なら出来るのだが、魔法は殆ど教わっていない。スクロールばかりに頼らないように、一応は勉強をしているのだが。

 だけど、この印の大体の予想ならつく。

 この国に居る殆どの亜人は奴隷として飼われている。貴重な働き手として雇われている事もあるが、大抵は使い捨てとして消費されてしまう。

 この子も同じように使い捨ての道具として買われたのだろう。……恐らく、この印は強制的に使役して労働をさせるためのもの。もしくは、罰を与えるための物だろう。



「よし、次は背中を」

「んん~っ」


 少女をうつ伏せの体制にしようとしたが、どうやら起こしてしまったようだ。

 少女は唸りながら目を擦ると、寝ぼけたような顔で私の顔を見つめていた。


「アズサさん、目が覚めたみたいですよ。」

「……おい、その子何か様子が。」


 その瞬間、少女は恐怖で引きつった顔をしながら、


「嫌ァアああああああああああああああああああッッ!」


 と甲高い金切り声をあげ、暴れだした。



「嫌ッ!もう嫌ぁあああ!たすけて、たすけてママぁ!」

「大丈夫、何もしないから。」


 泣いて暴れるのを、全身で抑えるので精一杯だ。逃げ出さないように足元は軽く尾を巻き付けているのだが、どうにも加減が難しい。


「大丈夫か、フィズ!」

「平気、だけど」


 このままじゃ、この子がまた怪我をしてしまう。どうにかして落ち着かせなきゃ。


 ……上手くできるか分からないけど、やってみるしかない。


「アズサさん、念の為私のカバンから透明の液体が入った瓶を出してくれませんか?」

「わかった。」


 かばんの中にある透明な液体は、眠らせる効果のある薬品だ。

 あくまでそれは最終手段ではあるのだが、もし手に負えないようなら使うしか方法がない。

 私はゆっくりと、締め付け過ぎないように少女の体に私の尾を巻き付かせる。そして、私は少女をこの両手で抱き締めた。


「大丈夫、大丈夫だから」


 徐々に落ち着きを取り戻したのか、少女は私の服を握りしめながら、ただ静かに泣いていた。



「落ち着いた?どこも痛いとこはない?」

「うん、平気」


 良かった、特に骨折しているような形跡もないしうまく力加減が出来た。何より、この子が落ち着いてくれて良かった。

 あのまま暴れて逃してしまったら、きっと怪我どころじゃなかったかもしれない。

 ほっと胸を撫で下ろしながら、私はくしゃくしゃになった少女の髪を丁寧に梳かしていく。櫛を動かす度に、気持ちいいのか耳をぴくぴくと動かしていた。

 泥などで汚れていて気付かなかったが、少女の髪は昼間に見た湖面のような髪色をしている。


「キミは、ヴォルフ族なんだね」

「うん」


 ヴォルフ族は狼に似た耳と尻尾、それに加えて鋭い爪や牙が特徴だ。それ以外は見た目は人間と同じなのだが、力は人間よりも強い。たとえ少女でも、成人の男性と同じくらいかそれ以上の力があるのだ。……私もちょっと怪我しちゃったし。


「魚焼き上がったよ。早く食べないと冷めちまうよ。」


 ぐぅ~、とお腹のなる音がした。私のお腹から。


「お姉さん、お腹すいたの?」


 はう、ちょっと恥ずかしい。


「じ、じゃあ食べようか。えっとー」

「ルーカ、ルーカ・ウォルクです」

「ルーカちゃんね、ルカちゃんって呼んでも良いかな?」


 こくりと少女は頷いた。


「じゃあ、ご飯にしようか。そうそう、私とっても美味しくなるソースを持ってるんだ。」


 明日からまた、楽しい日が来る。


 その筈だったのに……。

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