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8話 王都と狼の少女 その1

 王都を目指して三日目、ようやく王都の城壁が見える所までやってきたのだが、


「フィズ、もう日が傾きかけている。今日はここで休むかい?」


 王都の周りは堀があり、水が流れている。そこには跳ね橋が掛けられており、城門の扉と有事の防壁として機能している。

 城門として機能していという事は、夜になれば門が閉じている可能性が高いという事だ。


 王都まではそれなりの距離がある。到着した頃には入れない可能性だってある。野宿する場合も、焚き火用の薪や寝床、晩御飯の準備だって必要だ。それに、空気が冷たくなる夜になれば私が活動できなくなる。


「そうしましょうか。夜は何があるかわからないし。それに、」


「それに?」


「ここにはお父さんから教えてもらった良い場所があるんです!」



 王都から外れた森の中、草木を掻き分けて進んだ先にその場所はあった。


「着きました、龍の涙と呼ばれている湖ですっ!」


 空から水色の絵の具を落としたかのように、澄んだ水がその地を覆っていた。


「へぇ、良い所じゃないかい」


「私も一度は来てみたかったんですよね。お父さんも、仲間と一緒に何度も寄って、星と湖を眺めながら旅の思い出を語り合ったそうです。」


「ふふっ」


 アズサさんが少し笑っている、また何か面白いことでも言ってしまったのだろうか。


「……もしかして、変な事言っちゃいました?」


「いや、すまない。とても楽しそうに父の事を話していたからね。……とても、……しいよ」


 アズサさんの目は、何かを思い出したかのように、どこか寂しく悲しい目をしていた。


「それよりも、だ。まずは薪を拾わないといけないが。その前に」


 と、アズサさんは服を脱ぎ始めた。……細身ではあるが、引き締まった体だ。後ろ姿ではあったが、おそらく腹筋は軽く割れているだろう。


「……ってちょっと、アズサさん! 何で急に脱いでるんですか」


「暫く風呂に入れなかったから、王都に着く前に軽く水浴びをしようと思っただけさね」


 王都に行く殆どの人は馬車で行くから大丈夫だろうが、歩きとなると話は別だ。汗を流せるような場所が限られており、当然野宿となる。汗や土の匂いが混ざっている事だろう。

 私は汗自体はそこまでかかないし、野宿用の寝具もあるが、やはり少し気になってしまう訳で……。


「……私も水浴びしようかな?」


 念の為、周りに他の人が居ないか確認をしてみる。……大丈夫、他に誰も居ない。

 するり、と着ていた服を脱ぐ。肩に巻いていた包帯を外すと、私はゆっくりと湖に入る。


「冷たっ!」


 平然と水浴びをしているアズサさんを見て、大丈夫だと思っていたのだが、かなり冷たかった。初めて雪を見て、外に出たらあまりの冷たさに泣いた思い出が蘇る……。


「……先に焚き火をしようか」


「クシュンッ! そう……ですね……」



 紅く染まった空の色を写しだしている湖は、時折魚が飛び跳ね、ゆらゆらと水面を揺らしていた。


 日が傾くに連れて気温が下がってくる。そのうえ、水辺の近くは寒さがさらに増す。

 私は持っていたカバンから防寒用のマントを取り出した。これがあるだけでも少し違うはずだ。……はずなのだが、ひんやりとした空気が覆いきれていない尻尾の先を撫でていく。


「……寒いし、眠い」


 寒さと冷たさで動けなくなった私の代わりに、アズサさんが焚き火用の薪を拾いに行ってくれている。もう少しだけ耐えたら温かい火とお湯が待っている。

 私は尻尾を巻き、枕代わりにそこに寝そべるような形でマントに包まる。空気に触れていたせいか、金属にでも触れたかような冷たい感触が、じんわりと頬に伝わっていく。

 はぁ……、っと息を手に吹きかけるながら目を瞑る。ちょっとだけ、ちょっとだけ……。



 ぱち……ぱち……。と何かが爆ぜる音が聞こえてくる。目を開けると、淡い赤色の光源が隙間からマントの中を照らしていた。

 起き上がると、枝に刺さった魚が数匹、焚き火でこんがりと焼かれていた。


「おや、もう起きたのかい?」


 いつの間にか帰ってきていたアズサさんが、火起こしから食料の調達までしてくれていた。


「ごめんなさい、アズサさん。いつの間にか寝ちゃってて!」


 人差し指を口の前に静かに立てると、アズサさんは私の後ろ側を指差した。

 そこに目を向けると、擦り傷だらけで寝ている一人の少女の姿がそこにはあった。

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