表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/13

5話 宿場町の竜 その5

 嫌な予感がしていた。早く止めを刺しておけば良かった。住民に気をとられてしまった。気付いた時にはもう……。



 日は傾き、日中の騒動も瓦礫や木片の撤去がある程度終わった事で落ち着きを取り戻している。

 私はというと、裏路地にある小さな薬屋に替えの包帯と薬の買い出しをしていた。


「お兄さん、これとこれ、あとこの薬をくれないかい?」


「お、アズサさんじゃかいか。聞いたぞ、例のやつ倒したんだってな」


「やれやれ、この人もその話かい……。私が居なくても、どうにかなっただろうさ。それに……」


 それに……本当に倒したのはあの子だったからね。私だけだったら、確実に街は壊滅していただろうね。


「そうだ、ラミアの女の子もあの場に居たらしいな」


「あぁ、それがどうしたんだい?」


「その子も色々噂を聞いてるぜ、何でもあのドラゴンを操って襲わせたとか」


 全く、どこから流れた噂なんだろうねぇ。


「アハハッ!その様子だと、違うみたいだな。お前さんが初めて買いに来て、俺が薬を高く吹っかけた時みたいな顔していたぞ」


 そう言いながら薬屋のお兄さんは指で眉間にシワを寄せる。


「冗談は良いから、早くしてくれないかい?」


「まぁ、そんな怒んなって。そうだ、ラミアと言えば。アズサさんも聞いた事あるかい?かつての英雄、ヘイル・グランベールの事をな」


 ヘイル・グランベール。フィズの父親の事か。


「戦争を終わらせた功績を讃えられ、領地を与えられたんだが。そっから変わっちまったらしい。……まぁ、元英雄だ。俺らには考えもつかねぇようなもんも抱えてるかもしれねぇな。ほら、用意できたぞ」


 彼は紙袋に薬と包帯を詰め込むと、私に手渡し代金を……って、


「これ、ちょっと高くはないかい?」


「バカ言え、これでもサービスしてる方だぜ。それにその薬、ここいらでは流通していない貴重品だ。それ以上はまけられねぇ。」


 確かにこの国ではあまり見たことは無かった。……それでも私の居た国では半額くらいで買えるのだが。嘘を言っている様には見えないし。まぁ、こればかりは仕方ないか。

 私は代金を支払い、軽くなった財布と店を出た。



 胡桃屋に戻ると、フィズの居る部屋に向かう。昼間の爆発で、左肩を火傷していた。応急処置により傷の部分はそこまで酷くはなっていないが、衝撃が凄かったのだろうか、彼女は気絶したままの状態だ。

 下半身の部分は無事のようだ。鱗は乳白色に茶色の鎖のような模様があり、殆ど傷も無く綺麗な状態だった。


 私は包帯を取り替えるために彼女の体を動かす。垂れた薄い茶色の髪をかきあげて包帯を外していく。

 色白い肌に赤く痛々しい火傷。それ以外にも体には歪な形をした治りかけであろう痣も数箇所にあった。殴ったり蹴られたりという風にはどうしても見えない。もしかしたら、


「……石を投げられていたのか」


 おそらく、以前訪れた町や村でやられたのだろう。この国の人は亜人という人種を相当嫌っているようだ。


 私は買ってきた薬を塗り、包帯を巻き直す。もう日は沈み夜になっている。彼女はというと私の心配を他所にスヤスヤと寝息をたてているようだ。

 そろそろ亭主が食事の準備をしている頃だろう。彼女が匂いで飛び起きても良いように、目が覚めるまでもう少し待つ事にしようか。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ