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2話 宿場町の竜 その2

 宿屋【胡桃屋】。一度、宿泊しようとして断られた宿屋の1つだった。


 夜になり、体が寒さで震えている。……本当に泊めてくれるのだろうか。

 怖そうな人だったし、ちょっと不安だ。

 でも、ここで待っていてもしょうが無い。中に入ってダメだったら、野宿できる場所をまた探せばいい。

 宿屋の扉を開こうかとした時だった。入り口のドアが開き、ベルの音が鳴る。

 中から亭主と思われる少し強面のおじさんが現れ、


「……何をしている、入れ」


 そう私に言うのだった。



 中に入ると、おじさんが「そこに座って待ってろ」と言い、宿の奥に行ってしまった。

 入れ替わるように奥から出てきた宿屋の人から、温かいお茶と毛布をかけて貰った。

 とても優しい味だ。それに、久々に使う毛布も手触りがとても良い。

 横になったらすぐに寝てしまうかもしれない。目の前に机があるが、流石にお行儀が悪いのでやめておこう……。


 しばらくして、おじさんが両手に器を持ち、奥から戻ってきた。


「残りもんだ、食え」


 中には美味しそうなグラタンが入っていた。


「いただきます」


 湯気のたつグラタンを掬い、ふぅふぅ息を吹きかけながら一口頬張る。

 香ばしいチーズの香りと、とろけるようなクリームの味が口いっぱいに広がっていく。

 スプーンが止まらないというのは、まさにこの事を言うのだろう。

 あっという間に完食してしまった。……食いしん坊だと思われていないか心配だ。


 食べ終えた頃を見計らってか、おじさんは机の対面に座った。


「あの、ご飯まで頂いてありがとうございます。凄く美味しかったです」

「礼はいい、ただあの女には言っておけ」


 あの女とは、アズサと名乗っていた女性の事だろう。


「あ、……はい」


 しばらくの沈黙の後、おじさんは口を開いた。


「……悪く思うな。この街のやつらに亜人や魔族を良く思ってるやつなんて居やしねぇ。殺したいほど憎んでるやつも居るくらいだ」

「憎んでる?」

「十数年前に戦争があったからな」

「十数年前に……」

「あぁ」


 十数年前、私が産まれたばかりの頃だ。

 この王国【リンドヴルム】と、亜人が多く住む隣国【ゼスティナ】の間で起きた大きな戦争があった。

 この街は紛争地域から離れてはいたが、突然ゼスティナの兵が攻めてきたらしい。


「あいつら、女子供見境なしに殺していきやがった! 俺の娘も八つ裂きにされたんだッ! 俺の目の前でだッ!」


 拳を机に叩きつける音が、重く屋内に響いていく。私はかける言葉が見つからなかった。


「悪ぃ……。声を荒げちまったな。お前には関係ないってのに」


 すこし冷静になったのか、流しかけていた涙を拭き続けた。


「……あのアズサって女にはちょっと世話になっててな。あいつに言われて気付いたのさ、お前には何の関係もない話だったってな。……すまなかった」


 そう言ったおじさんの表情は、さっきまでより少し柔らかくなっていた。

 そういえば、アズサさんから預かっていた物があったような。


「そうでした。アズサさんからこれを見せるようにって」


 と懐から、アズサさんから渡された円盤を取り出した。


「あぁ、やはりか。あの女只者じゃないとは思っていたが」

「これ、一体何なんですか?」

「こいつは東の国の物でな、円盤自体には特に意味はねぇ。この描かれている模様が……」


 カランカランと、入り口にあった鈴の音がした。見てみると、アズサさんが戻ってきていた。


「アズサさん、大丈夫でしたか?」

「大丈夫も何も、騎士団のとこに行っただけなんだけどねぇ。大変なのは、騎士団とゴロツキ共だろうさ」


 軽い笑みを、彼女は浮かべていた。


「また例の暴れてるやつか?」

「いや、ただの盗賊さね。あいつだったら、こう簡単にはいかないだろうね」

「あの、何の話ですか?」

「あの瓦礫を見ただろう? この街で暴れまわってる魔物を退治しようって訳さね」


 さっきのおじさんの事を思い出した。十数年前の出来事。あれと同じような事が起きようとしているんだ。

 ……わたしにも、きっと何かできる事が。


「私も、手伝わせて下さい!」

「アンタがかい? あんな盗賊ならまだしも、正体もわからない魔物相手に勝てるのかい?」

「わかりません。ですけど」


 私は腰に付けたホルダーから、ナイフを取り出した。



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