プロローグA:転生したら人生変わった~30歳まで童貞だったので異世界でエリート魔法使いになりました~
12月31日23時50分。もうすぐ今年が終わる。そして俺の20代も終わる。栄主 公人29歳、1月1日生まれです。ちなみに俺には関係ない話だが、30歳まで童貞だと魔法使いになれるらしい。俺には関係ない話だが。
去年までは初詣と神に誕生日を祝ってもらうためにきちんと神社に行っていたのだが、今年は職場近くの謎のお地蔵さんを拝んで年を越そうとしている。え、なぜ職場の近くかって?それはね、金属加工のお仕事の途中に息抜きのために、作業着にコートをひっかけてちょっと出てきただけだからですよ。
あの社長、自分が請け負った仕事のくせに「僕にも家庭があるから~」なんて言って先に帰ってしまった。確かに俺には家庭も彼女もないのでお仕事押し付け放題ですもんね!放電加工機でチ〇コ斬ってやろうか。※チョコです。
遠くで除夜の鐘が響きだした。生憎俺は煩悩を持ち合わせていないので、ただの音でしかない。
少し早いが俺はお地蔵さまに手を合わせて、お願いをすることにした。
「今年こそ可愛い女の子とご縁がありますように。いや本当、お願いしますよお地蔵さん!神様のとこに何十年も頼んでるのに全然聞いてくれないんで、本当にお願いします!」
これは煩悩ではなくピュアな希望である。こちとら割と壮絶な中学時代から実質男子校の工業高校を出て、40~50代のおっさんしかいない町工場に就職という出会いが皆無の人生を送っているのだ。これは煩悩ではなくもはや信仰に近い崇高なる願いなのだ。
「あ、できれば巨乳で!」
ゴーーーーン、と除夜の鐘の音が響いていたが、俺の気持ちは変わらなかったので、くしくも煩悩でないことが証明されてしまった。
「俺も女の子と一緒の学園生活を送りたかったな」
誰かに愛されるためなら世界だって救ってやってもいい。あくまで可能な範囲で。
そのとき、お地蔵様の目が光った気がした。
轟っと、鐘の音と異なる音が近づいていた。
一瞬、車のライトに照らされた気がした。
――――――世界が暗転した。
視覚情報が途切れ、かろうじて残っていた聴覚が108回目の鐘の音を聞いた。
栄主 公人30歳、童貞です。(魔法使いになりました。)
―――――
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―――
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―
「あなたが導艇の魔法使いですか?」
「誰が童貞の魔法使いじゃ……い」
目が覚めると目の前に可愛い女の子がいた。しかも巨乳。
よくある西洋ファンタジーの女剣士のようなコスプレをしているが、残念ながら元ネタは分からない。一つ言えるのは、ゲームの世界に出てきても違和感がない整った容姿をしているからか、まるでその服装で日常を生きているかのように似合っているということだ。
「違いましたか?」
「え、いや、あの…………はい、童貞です」
不安そうに首を傾げながら美少女に質問されたら、俺は銀行口座の暗証番号でも正直に話してしまう男だ。
「やっぱり!そうだと思ったんです!」
「やっぱりって……そう見えますか」
「はい!奇妙な格好に特徴的な顔立ち、どこからどうみても導艇の魔法使いです!」
変な格好で不細工だから童貞に違いないと。確かにピンクの髪と虹彩という現実にはあり得ないウィッグやカラコンを着こなしている貴方からすれば、俺なんてミジンコだろう。
「あの、不躾なお願いなのは重々承知しているのですが、何か魔法を使ってみてくださいませんか?私魔法使いに初めてお会いしたので」
この女の子初対面なのにめちゃくちゃ煽ってくるな!
「しょうがないな、今から君に魔法をかけるよ」
「え、私にですか」
「大丈夫、怖くないから。1,2,3(パスッ)」
台詞とともに鳴らした指は気の抜けたかすれた音しかならなかった。挫けずに俺はきざったらしい仕草で彼女に手を伸ばす。
「君に恋の魔法をかけたよ」
「すみません、よくわかりません」
この女の子初対面なのに容赦ないな!
「勉強不足で申し訳ございません。もう少し、火を起こしたり、水を出したりといった分かりやすい魔法はありませんか」
「あー、そういうのね。先に言ってよ、困っちゃうなあ。えーと、じゃあ水なんてドバーっと出しちゃおうかな」
冷や汗ならただいま滝のようにでていますけど。
こうなったらいい年になるまで患っていた思春期特有の妄想、通称中二病の発作を起こして、盛大に場を白けさせて許してもらおう。
大げさに右の掌を宙に掲げ、左手で無意味に顔を覆う。芝居がかった声を作り、ルビまで完璧に覚えている妄想の産物、インチキ呪文を唱えた。
「さあ水遊びの始まりだ(Activate Water Elements)。この手に溢れんばかりの激流を少々(Set Medium-high Volume)。あたり一帯綺麗にしてくれ(Target : Wide Range)。【ぶちかますぜ大洪水】」
【ぶちかますぜ大洪水】は「伸ばされた掌の先から25mプールが一瞬で貯まるレベルの大量の水を勢いよく生成し、前方の空間を一掃する使い勝手のいい範囲攻撃」(という設定)だ。「ちょっとした木や岩ならなぎ倒し、目の前の空間を更地にする威力」がある(と想像している)。
そして目の前ではその想像が現実と化していた。
俺は茫然と、特に意味もなく掲げているだけのはずだった右の掌を見た。たった今、詠唱を終えた瞬間、妄想の中で俺がイメージしていた通りのエフェクトが走った。「伸ばされた掌の先から25mプールが一瞬で貯まるレベルの大量の水を勢いよく生成し、前方の空間を一掃する使い勝手のいい範囲攻撃」が現実で俺の右の掌から出た。「ちょっとした木や岩ならなぎ倒し、目の前の空間を更地にする威力」があった。
「うわ、ナニコレ、なんか出た。えぇー、これ大丈夫なのか。病院行った方がいいのかな」
病院でお医者さん相手に『30歳童貞なので魔法が使えるようになったみたいで、掌から水がいっぱい出せます。』と説明する自分を想像する。いや精神科か手掌多汗症手術紹介されて終わりですわ。
「すごいです!物質生成系は魔術だとB級以上の高難度技術なのに、こんな大量の水を一度になんて!あ、もしかして生成ではなくて、召喚されたんですか?」
今しがた起こった現象に対してドン引きしている俺に対して、興奮こそすれ驚きはしていない彼女。距離が近い。
「え、えーとそうそう。俺、すごい、魔法使い」
混乱しつつ美少女に詰め寄られれば、とりあえず全肯定しながら周囲に目をそらすしかない。童貞は至近距離で美少女と目を合わせると、動悸・息切れ・不整脈の症状を訴えた後に恋の病を発症してしまうのだ。病気は予防が大事。
そらした視線の先に広がる周囲の風景へ意識を向けて、ようやくおかしい事態に気が付いた。そもそも俺はコンクリートの建物に囲まれたアスファルトの道路の上にいたはずだ。それがなぜこんな原生林の奥地のようなところにいるのだ。道路は土の地面に、ビルは大木に代わり、お地蔵さん?だけが記憶と今の共通点だ。
記憶を辿っていく。年明けの除夜の鐘を聞いて、お地蔵さんの目が光った気がして、振り返ると光に包まれた。あれはトラックのヘッドライトか?え、もしかして俺トラックに轢かれて死んだ?ここは死後の世界か?もしくは明晰夢というやつか?
「危ないっ!」
そのとき黙り込む俺を怪訝そうに眺めていた彼女が、突如俺の肩を抱き転がった。やったぁ!初めて女性と抱き合った!やわらかい!いいにおい!ここは天国だったんだね!!もうなんでもいいや!!!
「グリーンスライムですね。先ほどの魔法に反応して寄ってきたのでしょう。木の上から獲物めがけて落ち、包み込んでしまう不意打ちが得意な厄介なモンスターです。初撃さえ避けてしまえばあとはどうとでもなるんですけどね」
先ほど俺がいたところに緑色のゲル状の生物がボトリと落ちていた。俺は、いや現代に生きる日本人ならその存在は知っているはずだ、現実にはいないゲームの中の存在として。
俺は転がった拍子に助けてくれた彼女に覆いかぶさる態勢になっていた。地面についた両手の間にあるピンク色の頭を出し抜けに触った。平素なら色々な思考がよぎってそんなことはできなかっただろうが、この時の混乱と焦りから突拍子もない仮説を確かめずにはいられなかったのだ。
はたして、彼女の頭にウィッグの存在は確かめられず、さらさらのピンクの髪はどうみても地毛だった。次に彼女の頬に触れ、瞳をじっと覗くもコンタクトレンズはつけていなかった。
「あっ、あの。そんな急にじっと見て、どうかしましたか……」
彼女が何か言っているのも耳に入らず、俺はありえない仮説が次々に支持されることに焦っていた。ピンク色の地毛と瞳の美少女に、魔法に、スライム。
「あ、あうう」
なぜか覚悟を決めた顔で目をつぶる彼女を尻目に俺はスライムに向き直る。最終確認をしよう。今のところ最もあり得ないのは先ほどの俺の黒歴史魔法が発現してしまったことだ。それさえなにかの間違いであれば、まだ別の可能性も考えられる。
「火遊びにご用心(Activate Fire Elements )。」
右手を胸の前に差し出すとそこに赤い光が集まった。
「火傷じゃ済まない大火事を(Set Midium-high Volume)。」
光から炎へ姿を変えるそれをぐっと握りこむ。
「お前にぶつけりゃ大満足(Target:Hit Object)。【燃え尽きろ大炎上】」
手中のエネルギーを感じつつ、掌底を繰り出すように握った炎を射出した。【燃え尽きろ大炎上】はこぶし大の火の玉を相手に飛ばし、対象にぶつかった瞬間爆発、相手を燃やし尽くす魔法という設定だ。いや、設定ではない。もはやそれが現実として目の前に広がっていた。
プスプスと黒焦げになったスライムだった塊が目の前に転がる。勢いで殺してしまったが割と大きいサイズの生物?を殺してしまい罪悪感がわく。いや肉や魚を食べているのだから今更不殺を掲げないけど、自分の手で命を終わらせるのはたとえそれが生き物かわからないスライムでも抵抗があった。ただしゴキブリは容赦なく殺す。
現実逃避をしようと脇へ逸れる思考を頭振って飛ばす。
ここは科学と資本主義の現代日本ではない。派手なビジュアルの美少女が帯剣し、魔法が飛び交う異世界だ。現実を認めよう、どうやら俺は異世界に転生してしまったらしい。
置いてきた元の世界に思いをはせる。愛する人が待つあの世界へ俺は帰らなければならない。俺を生んでくれた両親……はもう死んでいる。育ての親……とは絶縁した。学生時代の友達……とはもう10年単位で連絡を取ってない。愛する恋人……もとから存在しない、存在したこともない。会社……もう恩義は十分返しただろう、むしろ俺が残した仕事で社長が困る姿を想像するとせいせいする。
……………………あれ、帰る理由が特にないな。
「よしっ、この世界で俺は生きていく!」
幸いこの美少女の反応を見る限り、俺の魔法は優れているらしいし、なにかしらの働き口はあるだろう。最初は苦労するだろうが、こちとら10代にホームレス生活だって経験がある、なんとかなるさ。
「それなら私と一緒にトゥアル魔術学園に通いましょう。異世界から来られたエースさんは、この世界のことをよくご存じないでしょうし、エースさんならきっと優秀な魔術師になれますよ」
俺が決意を固めている間に起き上った美少女は服を払いながら魅力的な提案をしてきた。なぜかこころなしか顔が赤い。そして俺が悩みながら出した異世界という結論をさらりと肯定されてしまった。
「いやでも、この年で学校って……」
「ふふっ、お父様みたいなことを言いますね。年長に見積もっても15歳くらいですよね」
確かに居酒屋では年齢確認、深夜に出歩けば補導される童顔ですが、すみません30歳(童貞)です。
ちなみにこの美少女が実はここら一帯を領地とする貴族の娘で、この後俺は彼女の屋敷で世話になることになった。彼女はあの日、世界を導く魔法使いといわれている導艇の魔法使いが現れるという神託を受け、あの場にいたようだ。彼女の家に伝わる史実として俺以外にも何人か異世界人の存在は認められていたようで彼女の家には簡単に受け入れてもらえた。ただし、異世界人の存在は一般には知られていないようなのであまり吹聴しない方がいいらしい。
その後、トゥアル魔術学園に入学するまで俺は彼女の家でこの世界の常識や、自分の魔法について調べていった。なるほどあのお地蔵さんは俺の願いを叶えてくれたらしい。巨乳の美少女との学園生活が始まろうとしていた。
基本的に物語を考えるとき、私は映像でイメージするのでどんな場所・ビジュアル・動きなのか想像しているのですがそれをすべて描写しているとすんごい文量になるので何を描写するのか、ということに悩んでいます。
みなさんはどんな描写が欲しいですか?ちなみに私は小説を読むときは台詞しかしっかり読んでません←