第71話:Sランクパーティ、脱獄を企てる②
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昼休みの後もしばらく独房の中で刑務作業を行う。
夕方には労働が終わり、自由時間だ。
自由……とはいえ、ゼネストをはじめ『デスフラッグ』のパーティメンバーは全員が独房に収監されている。
他の囚人と話すこともできないため、専ら読書をするか、部屋の中で軽い筋トレをするくらいしかできない。
外に出られる昼休み以外は本当に退屈。
しかしそんな日々の中でも、一日に三度は心休まるタイミングがある。
それは——
「八九九番、飯の時間だ」
「ういっす」
監獄に備え付けの差し入れ口からトレイに乗ったスープとパンが入れられた。
食事はほとんどバリエーションがなく、毎日がこの組み合わせだ。
栄養も十分とは言えない。
スープの味は塩辛いだけで壊滅的。
当然、一般の囚人には不評……そんな粗末な料理をゼネストたちが心待ちにするのには、一つ理由があった。
「ありがてえ……また脱獄に一歩近くんだからな」
誰にも聞こえないほどに小さな声でそう呟き、スープの一部を鉄格子にかけた。
スカーレット刑務所の各房には、換気用の鉄格子がついている。
この鉄格子を目立たない形で取り外し、隙を見て外に脱出。
そして刑務所の外に出ようというのが『デスフラッグ』の脱獄作戦だった。
問題は、どのようにして角房の鉄格子を外すか——
大掛かりな道具を持ち運ぶことはできないし、かといって簡易な道具では太い鉄格子を切断することはできない。
そこで目をつけたのが、毎日の食事で出されるスープだった。
スープというよりは、スープに含まれる塩分が狙いである。
鉄格子の接続部分は経年劣化で脆くなっている。
そこにスープの塩分を使って鉄を腐食させ、さらに脆くなったところを腕力で取り外す。
看守も鉄格子から抜け出すのは想定外なため、夜の見回りが終わった直後に抜け出せば脱獄の発覚を遅らせられる。
やや時間がかかってしまう作戦だが、そもそも入獄当初は監視体制が厳しい。
房の外に出た後が勝負なので、今すぐにというのはどちらにせよ難しい。
もう少しで監視体制がやや緩くなるという看守同士の噂話を得ている。
ゼネストたちは、その時を待っている——