第69話:回復術師は稽古をつける⑤
トリガーを引くようなイメージで、クラインさんの魔力を誘導し、氷柱弾を発射する。
「うおおおお……‼︎ こ、これはすごいな……!」
クラインさんが声を漏らす。
氷柱弾は観客がいない場所に飛んでいき、着弾した。
ドゴオオオオンッッッ‼︎
『解析』によれば、これまでクラインさんが放っていた威力の二〜三倍。衝撃も凄まじいものだった。
空気がビリビリと振動し、氷の破片がまるでガラスのようにパラパラと舞う。
俺が魔力を操作こそしているが、これはクラインさんのポテンシャル。魔法士なら誰でもこのくらいの魔法が使えるわけではない。
これまでの地道な努力による基礎と本人の才能があってこその賜物だ。
「す、すげええええええええ……‼︎」
「あの一瞬でギルドマスターの魔法をあそこまで強くしちまうなんて……!」
「限界を突き詰めたギルドマスターの力をさらに引き出すとは! ユージ……さすがすぎるぜ!」
俺たちを見守る観客たちの評価も爆上がりのようだった。
俺はあまり目立ちたくないんだけどな……。
やれやれ、と嘆息する。
「ユージ……まさか、俺はまだこれほどの余力を残していたとはな……」
「自分ではなかなか気づけないものですよ」
「うむ。しかしユージはその若さで……天才って言葉で片付けたくはねえが、そうとしか言えねえな……」
「身に余る言葉ですよ」
確かに俺は力こそ手に入れたが、経験ではとてもクラインさんには敵わない。
決闘で勝ったから、単純な攻撃力で上回っているから、どんな時でも無敵……なんていう自惚れは俺にはないのだ。
だからこそ、これは本心からの言葉だった。
「ふっ、本当に謙虚なやつだな、ユージは」
「いえ、そんなことは……」
「ありがとう、ユージ。いつの間にか俺は自分の限界を決めてしまっていたようだ。この歳からでも、まだまだ上を目指せる。それがわかったよ」
クラインさんは少年のように目をキラキラさせていた。
「ええ、それなら俺も良かったです」
「しばらくユージに教えてもらった魔力の使い方を練習するとしよう。完全に身につけたら、また決闘を頼むぜ」
「……き、機会があれば」
正直、こんなに目立つところであまり決闘なんてやりたくないのだが……断れなさそうな雰囲気だった。
それにしても、クラインさんもこの技術を覚えたところで俺と決闘しても勝てないことはわかっているだろうに。
かつては王国騎士団最強と呼ばれ、今は王国でも有数の都市に発展したサンヴィル村のギルドマスター。
こんな大それた肩書を持ちながら、負け試合を公開しても良いと考えるとは……。
一時的な恥よりも、大きな収穫があることを確信しているからこそできるのだろう。
まったく、この人からは底知れぬバイタリティを感じるな……。
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