第67話:回復術師は稽古をつける③
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そんなこんなで、クラインさんに魔法を教えることになってしまった。
クラインさんは王国最強の魔法士で、俺は回復術師。
立場が逆なような気がするのだが、気にしたら負けだ。
まあ、俺にとっても咄嗟の魔法のコントロールは未だに苦手なので、教える過程で何か新しい気づきがあるかもしれない。
そう考えれば悪い話ではなかった。
あと、実はこれは報酬も出る。
一日で金貨十枚……十日分の生活費だから、かなり割りの良いバイトではある。
思いきり魔法を使える場所でなければ稽古はできないので、闘技場に移動したのだった。
「練習であまり目立っても仕方がないので——」
「おっ、中央区画が空いてるじゃねえか! ユージ、ラッキーだったな!」
「……いつもは埋まってるみたいな言い方ですが」
「人気の場所だから埋まってると思うぞ。なぜか俺が行くといつも空いてるんだが」
多分、目立つから誰も使ってないんだろうなぁ。
やれやれ……。
本当はただでさえギルドマスターに稽古をつけるという目立つことをするのに、目立つ場所でやりたくはない。
しかし、依頼の発注者であるクラインさんがそこでやりたいというのだから、ここでやらざるを得なさそうだ。
俺たちが中央区画に移動すると、周りがザワザワとし始めた。
「ユージとギルドマスターが上がっていくぞ!」
「まさか、また決闘を見られるのか⁉︎」
「うおおおおおおおおお!!!!」
案の定の反応ではある。
しかし、これなら決闘じゃないと分かれば興味をなくして帰ってくれるかもしれない——という期待もできそうだ。
——と、思ったのは一瞬のことだった。
「今日は決闘はしねえぞ! しねえが、なんと! 俺がユージに魔法のレクチャーをお願いした! 見ていきたい奴は見ていきやがれ‼︎」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「あのユージの魔法が明かされるのか‼︎」
「これは楽しみすぎるぞ! 来て良かったぜ‼︎」
どうやら、こっちの方が盛り上がってしまったようだった……。
「あ、あのユージ……頑張ってくださいね」
「私も陰ながら応援しているわ」
「シロもその辺で見てるー」
「……ああ、応援サンキューな」