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第64話:回復術師は悪夢を見る

 書類が雑多に置かれた広い空間。

 見たこともない魔道具の数々。

 文字すらも見たことがないものだが、どこか懐かしさを感じる。


 外は陽が落ちきって真っ暗であるものの、俺が座っている白い照明に照らされた部屋は明るい。

 時計は、俺が知っているものと同じ造り。時刻を確認すると、二十三時三十分。


「これは、夢か?」


 魔王と戦った際、かなりの魔力を使ってしまった。

 魔力が枯渇すると数日は精神状態が一時的に不安定になることがあるという話は聞いたことがある。


 だとすれば、この夢にも納得がいかないわけでもない。

 しかし——なんでこんなに懐かしい気がするんだろう。


 一度も見たことがない場所で、奇妙な堅苦しい黒衣装を着て、誰のものかわからない魔道具に囲まれている。

 それなのに、ここにいるのは間違いなく俺なんだという意識が揺らぐことはない。


 ふと、目の前にある箱型の魔道具に映った映像を覗き込む。

 何か文字が書かれているが、大半は読めない。しかし、ほんの一部分だけ、くっきりはっきり理解できた。


「伊藤祐司……?」


 ユージって、なんとなく俺の名前と似て……。


 その瞬間、回復術師としての俺を飲み込むように膨大な言葉が流れ込んでくる。


 ——仕事……打ち合わせ……資料作成……納期……残業……。


「ああああああああああ!!!!!」


 頭を抉るような実態のない攻撃。

 ダメだ、意識的に何も考えないようにしないと、押し潰される。


 火球……! 回復ヒール


 魔法を使おうとしてみるが、何の変化もない。

 クソッ!


 絶望したその時——


「ユージ……起きてください!」


 健気で可愛らしい、どこかで聞いたことのある声。


「ユージ、ユージ! ねえ、聞こえる!?」


 まただ、また聞こえる。今度は、別の誰か。

 

「ユージー、起きてよ!」


 今度は、人外の声……。

 しかし、三者三様の声を聞いていると、不思議と安らぐというか、居場所を思い出した気がする。


 そうだ、これはただの夢——

 声の主たちに意識を極限まで集中させた瞬間、視界がブラックアウトした。


「————っ⁉︎」


 目が覚めると、見慣れたサンヴィル村の宿の中だった。

 夜が明けて間もないようで、微かに部屋に明かりが差している。


【『魔眼』を獲得しました】


 『神の声』を聞いた時と同じような、頭の中に直接語りかけるような無機質な声が聞こえた。


 魔眼……?

 聞いたことがない言葉のはずだが、どこかで聞いたような、そんな気がする。


 ————————————————————

 ◆ステータス

 名前:ユージ

 ジョブ:回復術師

 Lv.50

 経験値:11500/11700

 ————————————————————


 回復魔法を使うのが自然とできるように、『魔眼』というスキルも俺が使おうと思えばすぐに使えるようだった。


 空中に浮いた奇妙な文字列が俺の視界に入った。

 

 名前、ジョブ、レベル、経験値……よくわからないが、俺に関しての情報を反映しているのだろうか。


 寝起きの頭でそんなことをぼんやりと思っていると、馴染みのある声が聞こえてきた。


「ユージが起きました! 大丈夫ですか⁉︎ めちゃくちゃうなされてましたけど……」


 反射的に、『魔眼』の使用を止める。


 今まで見えていた奇妙な文字は視界から消えた。


 声をかけてくれたのはリーナだが、俺の周りにはリリアとシロの姿もあった。

 そうか、あの時の声はこの三人だったか。


「大丈夫だ。変な夢を見てただけだし……って、びしょびしょだな……」


 まるでお漏らし後の現場である。

 ベッドのシーツが汗でびっしょり濡れており、寝巻きもまるで水を吸った雑巾のよう。


「あまりにも苦しそうだったからみんなで起こしたの。それに、汗で風邪ひいても大変だし……」


「そうだったのか……ありがとう」


 前のパーティ——デス・フラッグではこんな風に気遣ってもらったことはなかったから、みんなの優しさが胸に染みる……。


「ちょっとシャワー浴びて着替えてくるよ。あっそれとシロの散歩もだな」


 今朝はシロにも心配かけちゃったし、いつもより長めに付き合うとしよう。

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