第60話:回復術師は見守る
◇
そして翌日——
俺たちは正式にギルドから依頼を受けて、大商人の護衛依頼に就いていた。
もともと護衛対象の商人には二人の護衛が付いているし、商人には事前になにも伝わっていないから俺たちは陰から見守るだけなのだが。
商人が自分で付けている護衛は正直見掛け倒しで、大した戦力にはならないだろう。あれは金をケチってるな。冒険者風の格好をさせた一般人である。多少の抑止力にはなるだろうが、さすがにあのレベルならゼネストたちでも護衛が弱い事を見破るだろう。
俺たちとしては行動に移してくれないとラックのペナルティを解除できないので、実のところ好都合なのだが。
ちなみに護衛を任されるにあたり、大商人の名前を聞いたのだが、忘れてしまった。
大商人の事をどうでもいいと思っているわけではないのだが、俺はどうでもいいことを忘れてしまう癖があるのだ。ちょっと困りものである。
「ユージ、いつ来るんでしょうか……?」
「さあな。次の場所で仕掛けてくるんじゃないか? ちょっと人通りが少ないところになるし」
俺は『探知』を使って、ゼネストたちの動きを逐一観察している。
当然ではあるが、商人が巡るルートを知らないらしく、様子を伺っているようだ。
ちなみに俺は付いてきているが、動きがあったときは全て二人に任せるつもりでいる。
よっぽどのピンチになれば介入するが、二人だけに任せられる貴重な機会だ。なるべく手出しはしたくない。
「あっ、一人近づいているわ! やるつもりかしら」
「予想通りだな。もう少し待って、商人の護衛が殴られたタイミングで助けに入るんだ。いいな?」
「はい!」
「わかったわ!」
程なくして、商人の護衛の一人が不意打ちでゼネストのパーティメンバーに殴られた。
そして、一斉に『デスフラッグ』のメンバーが襲いかかる。
一瞬にしてもう一人の護衛も戦闘不能——
このタイミングでリーナとリリアは出発した。
「フハハハハ! 大商人、命が惜しけりゃ金目のものを置いていけ!」
「ひ、ひいいいいいい……い、命だけは……!」
「さーて、どうするかなぁ……? こんな目立たねー場所に来たのが運の尽きだったな! ああ命だけは助けてやろう! 金目の物を置いていけばな!」
「ヒュー、ゼネストの兄貴かっくいー!」
「おいアルク、ふざけてんじゃねえ!」
「わ、わかった……! 荷物はぜ、全部やる……だから命だけは……」
「へっ、それも俺の気分次第だ。もしどこかにチクリやがったらただじゃおかねえからなっ!」
そう吐き捨てたと同時に——
シュババババババ!!!!
『デスフラッグ』の全員に怒涛の勢いで魔弾が降り注いだ。
リリアは上手く魔動短機関銃を使いこなして、致命傷にならない程度に傷を付けていく。
大商人やその護衛に当たらないよう絶妙なコントロールも忘れていないところがさすがである。
不意をついての攻撃により行動不能になったところを、リーナが拘束した。
リーナには短剣を持たせているので、彼らも暴れることはなく次々と拘束された。
「な、なんだああああ!? い、意味わかんねえ! なんでこのタイミングで……!」
「ア、アニキ……やっぱりラックの野郎が……グソォ!」
「あいつを血眼になってでも見つけておくべきだった! こんなはずじゃなかったんだ! 俺の計画は完璧だった!」
負け犬が何か言っているが、もう全て終わった。
全員が縛られた後、俺も姿を現した。
ラックとヘルミーナもひょっこりと出てきた。
「ユ、ユージィ……くそ、またてめえか! このカスが! 許さねえ、絶対許さねえ!」
「くそォ、やっぱりラックのチクりっすね……! てめえも覚えておけよ!」
「ぼ、僕はなにも悪い事をしていない! ゼネストさんたちが悪事に手を染めようとしてたから……当然のことじゃないですか!」
「正義マンぶってんじゃねえぞ! いい加減にしろ……痛っ!」
「ま、そういう文句は留置所で言ってくれ。その後牢獄でしっかり反省するんだぞ」
「グ、グソォォォォ……」
その後、近くに控えていた衛兵を呼びつけ、見事に全員お縄となった。
「良かったな、ラック。これでお前のペナルティは免除、晴れて騎士団員というわけだ」
「騎士団員とは言っても、私の下で修行の身だけどね」
「ヘルミーナが面倒を見るってことだろ? なかなか良いところあるなお前」
「べ、べつにそんなつもりでしたわけじゃないわ。たまたま良い人材を見つけたから声をかけただけよ」
「さてどうだかな」
そんなやりとりの後、今日の主役であるリーナとリリアの二人を労った。
「お疲れさん。なかなかの手際だったぞ。良い自信になっただろ?」
「ほとんどユージの指示のおかげみたいなところあったけどねー」
「でも、ちょっと自信になりました! 私は縄で縛っただけですけど!」
「こういうのはチームワークが大切なんだ。Cランク相当くらいとはいえ、それなりの経験がある冒険者をたった一人で何人も拘束するのは簡単じゃない。上手くやったと思うぞ。もちろん、リリアの功績も大きいことは間違いない」
「えへへ……嬉しいです」
二人に俺抜きで依頼を成功させたという体験をさせてやれたのは大きい。
ま、多少動き出しが遅かったりと反省点はあるのだが——そんな反省は後でやればいいだろう。
ふっと肩の力を抜いた瞬間——
ドオオオオォォォォン!!!!
大爆発を起こしたような轟音が聞こえてきた。
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