第55話:回復術師は話し合う
◇
「着替え終わったわ」
「分かった、じゃあ俺が服を着るまで目を閉じていてくれ」
「ええ」
当然だが、ヘルミーナが着替え終わったことを確認してから俺も浴場を上がった。
男同士なら一緒に出て普通に着替えれば良いのだが、非常に面倒臭い。
……というか、バレたらどうなるんだこれ?
多分俺が女湯に入ってたら大問題になりそうだが、逆だと問題ないのだろうか?
だとしたら理不尽な気もする。……まあ、今はどうでもいいか。そもそも俺にそういう趣味はないし。
「じゃあ、出るぞ。俺が周りに誰かいないか確認するから。俺が指示するまで出るな。いいな?」
「分かったわ」
やれやれ、なんで俺がこんなことをしなければいけないのか……とため息をつきつつ、垂れ幕を潜って脱衣所の外へ。
すると、目の前に人影がいた。
どうしようか……と思ったのは一瞬。その相手を見て冷や汗が流れた。
「げっ、なんで二人してこんなところで待ってるんだよ!? 向こうの待合室で待っててくれって話だっただろ!」
「その前にユージには確認しないといけないことがあったので!」
「そうよ。まずは白状なさい」
「な、なんだよ……なんで怒ってるんだ……?」
怒られるようなことをした覚えはまったくないのだが……。
しかし、このままだとヘルミーナに指示を出せない。そうすると、ずっと中に取り残されてしまう。
「そ、そうだ! 詳しい話は待合室で聞く! だから、先に行っててくれ!」
「一緒に行けばいいじゃないですか」
「ユージ、私たちに何か隠してるわよね?」
ギク!
隠しているといえば隠しているが……。
っていうか、なんで俺が詰められなきゃいけないんだ!
「俺はちょっと脱衣所に忘れ物をしてきたんだ。……ハハ、そういうことだから、先に待合室にだな……」
「私たちがここにいると都合が悪いのですか?」
「い、いや決してそんなことは……」
「脱衣所の中が怪しいわね! もうネタは上がってるのよ! どうせ黒髪の泥棒猫を隠してるのよね!」
「は、はあああ!?」
嘘だろ! なんでバレてるんだ!? しかもなんで二人が怒ってるんだ!?
俺の頭の中はクエスチョンマークで埋め尽くされていた。
リリアが垂れ幕を潜り、脱衣所の中へ。
「あっ、見つけたわ! もういい逃れはできないわよ? じっくり聞かせてもらうから!」
「私、この人見たことあります……! 確か、ちょっと前にギルドの前で……」
……カオスな状態だった。
二人がどこをどう勘違いしているのかすら分からない。
誤解を解くのは骨が折れそうだ……。
「はぁ……面倒なことになったわね……」
ヘルミーナも深く落ち込んでいるようだった。
もとはと言えばお前のせいなんだけどな。
この後重々しい空気の中待合室へ移動し、地獄の詰問を受けるハメになった——
「なるほど、つまりユージが温泉に浸かっていたら、たまたま数日前に会った綺麗な女性が中で待っていて、背中を流してもらって鼻の下を伸ばしていたということですね。わかりました」
「違うって! かなり悪意がこもった解釈してないか!?」
「概ねその通りだけどね。あなたも正直に言った方が潔いと思うわ」
「ヘルミーナは俺と同じ立場な!? 絶対勘違いしてるだろ——!」
俺たちの様子を、シロは白目で眺めていた。シロだけに……ってか。
はあ、どうしてこんなことに……。
ん……?
そう言えば、そうだ。
よくよく考えれば、なんで?
「ちょっと聞きたいんだが、なんで二人は俺がヘルミーナと一緒にいたことを知っているんだ?」
素朴な疑問だったのだが——
「そ、それは……ユージには関係のないことじゃないですか!」
「いやいや、関係大アリだろ? 話を逸らすわけじゃないが、辻褄が合ってない気がするぞ?」
するとリリアがちょっともじもじし始めた。
「み、見たの……」
「見た……!? どうやって? 二人とも女湯にいたんだよな!?」
「ユ、ユージが大声出してたのが聞こえてきたから、心配になって、露天風呂の壁をよじ登ったのよ! それで、そこのヘルミーナって女と仲睦まじくしているのが映ったの!」
「あのなぁ……それ一応ルール違反だぞ……?」
「それに関しては私にも非があるわ。でも、話の論点はユージとヘルミーナの関係よ! わ、私は別にユージのことが好きで、取られたくないとかそういうのじゃないけど、仲間として気になるじゃない!?」
うん、それはちょっと思ってたんだ。
確かにヘルミーナが男湯にいたこと自体は問題だが、俺は結婚しているわけでも、交際している彼女がいるわけでもない。
それなのになんでこんなに詰められなきゃいけないのか……と。
なるほど、たとえ好意がなくてもパーティメンバーとしては異性関係を隠すのは良くないということか。
俺とヘルミーナは間違いなくそんな関係ではないのだが、今後そういうことがあったら反省を生かすとしよう。
「ああ、実は……俺の方でもそれは話したかったんだ」
「そうなの……?」
「ユージ、誤魔化さないでくださいね?」
「もちろんだ。ヘルミーナ、悪いが、二人に説明を頼めるか?」
「……ええ、任せて」
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