第51話:回復術師は自慢する
◇
「……ということだ。あの調子で成長すればそのうちギルドマスターも敵じゃないだろう。お前ら本当に惜しい人材を逃したもんだな」
リリアを追放した元パーティメンバーたちの前で、俺はリリアを自慢していた。
もちろん、ただ単に自慢するのが目的じゃない。さすがの俺もそこまで腐った性格はしていない。
決闘を終えたリリアが戻るまでの足止め——時間稼ぎだ。
「なんで……なんでよ! 劣等紋のカスがどうして! 話が違うじゃない!」
「あいつ、ずっと私たちの前で実力を出し惜しみしてたのね! ふざけんじゃないわよ!」
明後日の方向に怒りをぶつけるリリアの元パーティメンバー。
これだけでもなかなかに滑稽で面白いのだが、ここからが本番だ。
「ユージ、どうしてこんなところに……!?」
「戻ってきたか、お疲れさん。ま、見ての通りだ」
「見ての通りって——」
リリアは状況を掴めていないらしく、動揺していた。
ま、確かに不審に思うのも無理はない。俺だって知らないうちにリリアがゼネストと会っていたら疑問符が浮かぶだろうしな。
でも、いちいち説明してからよりこっちの方が早い。
「ね、ねえリリア? この前は私たちもちょっと悪かったわ! 許して? ね?」
「な、何よ……急に気持ち悪い」
「その上で、リリアはこの男に騙されているの! だっておかしいでしょう? 絶対に何か裏があるのよ! 多分、おそらくなんらかの狙いがね!」
「おかしいって……?」
「ほら、色々あるじゃない。私はずうーっと見ていたからわかるの。ピンと来たのよね。この男は怪しいわ!」
黙って聞いていれば散々言ってくれるじゃないか……。
しかしこの程度の言葉でリリアが騙されるとも思えないのだが。
必死でパーティにすがり付いていた昔ならともかく、今は客観的に考えられるだろう。
「そう、だからあなたは私たちのパーティに戻ってくるべきなのよ! リリアが戻ってくるなら歓迎するわ! ——いえ、ぜひ戻って来なさい!」
「…………え、どうして? ユージは怪しくなんてないし、全然力になれない私を大事にしてくれたわ。ユージだけじゃない、リーナだって。どこかのパーティとは違って」
「そういうことらしい、残念だったな。リリアは戻らないみたいだ」
俺はリリアの頭にポンと手を触れ、
「正解だよ。その判断を絶対に後悔させない」
「ユージ……」
まさか、ここまで思い通りに事が進むとはな——
リリアは元パーティで虐げられていたことをずっと心の隅で気にしていた。
どんな形であれ、『戻ってこい』という言葉はリリアにとって大きい。
クラインとの決闘で少し落ち込んでいたのは間違い無いだろうが、客観的に前のパーティが欲しがるほどの冒険者に成長しているという確信で中和できたはずだ。
上手く引き出せてよかった。
「なんで……なんでよ! アンタ、『リリアを私たちに返す』って言ってたわよね!?」
「うん?」
これから温泉に行こうかと思い、背を向けた瞬間に後ろから怒号が飛んできた。
はぁ、逆ギレか。
俺はため息をつきながら振り向く。
「ユージそんなこと言ってたの!?」
「ん、まあ似たようなことは言ったな。俺は人を見る目はあると思ってるし、リリアが戻るとは微塵も思ってなかったけど」
「え、それってどういう……!?」
「俺のパーティは無理に囲い込まないし、言いたいことはハッキリ言える環境を目指してる。リリアの意思を尊重するし、もし戻りたいなら喜んで送り出す——そういう意味で『リリアが戻りたいというなら俺は止めない』と言っただけだ。何を勘違いしたのか、都合の良いように解釈されていたみたいだが」
「何よそれ!? じゃあ、アンタはリリアが戻らないと思ってて言ったわけ!?」
「うん、その通りだ。やっと理解してくれたか」
「卑怯よ……っ! 私たちを弄んだのね!」
「勝手に勘違いしたのはそっちだろ?」
意図的にそう認識するよう誘導したのは事実だが、もともとリリアを追放したのはあちら側。
多少騙すような形になったとしても、おあいこだろう。
というか、リリアがあのパーティで受けた傷を考えればこの程度ならお釣りがくる。
「ぐぬぬ……許さない……絶対に許さない!」
「覚えておきなさい、ユージ……それにリリア! 絶対に後悔させて、地獄に落としてやるわ!」
口汚い言葉で罵ってくる二人。
そんな脅し文句を言ったところで何も変わらないのに……。
「好きにすればいいんじゃないか? できるもんならな」
「私はただ強いからユージについていったわけじゃない。最初は……私を認めてもらえたのが嬉しかったのがきっかけだったけど……今はそれだけじゃない。ユージだからついていくの。勘違いしないで! ユージのためなら死ねる! どんなに引き止められても戻らないわ!」
俺の言葉に重ねるように叫ぶリリア。
パーティを去ることはないと思っていた俺だが、これはちょっと意外だった。
ちょっとむず痒い気持ちだ。
「リ、リリア……そんなに思ってくれてたのか」
「えっ……あーっ……今のは聞かなかったことにしてくれるわよね……?」
かあーっと顔を赤くするリリア。
よほど恥ずかしかったのだろうか。
「いやいや、バッチリ聞こえたし忘れられないぞ。なるほど、リリアはそんな風に思ってくれてたのか」
「なるほど、リリアはそういうことなのですね。これはこの後、根掘り葉掘り聞くので覚悟しておいてくださいね!」
「か、勘弁して、お願い……!」
盛り上がる俺たちと、ぶつけようのない怒りを抱えるリリアの元パーティメンバー。
突発的な再会はこれにて終わりを迎えた。
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