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第47話:Sランクパーティ、落ちぶれる

 ◇


「俺たち『デスフラッグ』はSランクパーティであるにもかかわらずこの二日間、カスみたいな仕事で燻ってきたが、それも近々終わりにするぞ。俺たちの真価はこんなもんじゃねえっ!」


 薄汚い馬小屋。

 ギルドからペナルティとして一年の冒険者資格の停止処分を言い渡された八人。冒険者一筋で活動してきた彼らにとって悪夢だった。


 斡旋された日雇い仕事はキツい肉体労働。納得し真面目に取り組んだ彼らだったが、仲介料として報酬の半分をピンハネされ、残った報酬も『諸々の経費』として差し引かれた。残った金額は雀の涙ほど。


 ——いわゆる、タコ部屋というもの。


 八人で一日稼いだ金額はたった金貨1枚。二日で2枚だ。

 劣悪ではあるものの必要最低限の住環境と食事は用意されているので死ぬことはないが、既にストレス値は限界を超えていた。


 冒険者であれば多少ギルドがマージンを引くことがあっても、これほどアコギなことはやらない。

 報酬の金額だって良い時なら一件で桁が二つくらい違う。


 現在の人材評価としてはゼネストたちに与えられた仕事は適正なものだったが、一時の成功体験が築きあげたプライドは巨大だった。


「さすが俺たちのアニキっす! しかし、どうやって……?」


「うむ、それなんだがな。毎年この時期になると、この村をある大商人が訪れるらしい。故郷がこの村らしく、確実だって話だ。ある筋の話によれば、今年は明後日がその日。そこで仕掛ける!」


「あっ、さっきアニキが村人脅してたのそれだったんすね! 胸ぐら掴んですげー迫力でしたぜ!」


「黙れアルク! 俺は脅してなどいない! れっきとした取材だ!」


「す、すんません……」


「ということだから、お前ら、明後日はわかったな? これを聞いた以上裏切りは絶対に許されねえからな!」


 ゼネストはパーティメンバーを一人ずつ凝視する。

 彼らも当然ゼネストが言わんとしていることはしっかり伝わった。


 たった一人を除いては——


 六人のパーティメンバーが拍手する中、一人だけ理解が及んでいないものがいた。


「おい新人! てめえちゃんと分かってんのか!」


「す、すみません! あの……大商人が来るということはわかったんですが、そこで何をするつもりなんでしょう? 商売の交渉とかですか……? あんまりお金ないのにどうやるのかなぁとか思っちゃって……ハハ」


「バッカやろーが!」


 ゼネストは怒号を上げ、新人——ラックに拳を振るった。

 ラックの身体が吹っ飛び、馬小屋の柱に衝突する。


 ゴン!


「……ってて、すみません。ボク頭悪くて」


「反省しろ! その上でてめえの緩い頭でも分かるようにハッキリ教えてやろう。明後日、大商人がこの村に来る。そのタイミングで襲って金を奪う。そういうことだ!」


「え、それって犯罪じゃ……」


「んなこたぁ言われなくても分かってんだよ——!!」


 ゼネストはチッと舌打ちし、


「これだから世の中を知らねえガキは使えねえ。てめえの選択肢は『はい』と『はい』しかねえんだよ! わかったか!?」


「そ、そんな……で、でもそんなにお金持ちの商人なら護衛とか……」


「俺たちはSランク冒険者だ! 腕も、装備も桁が違う! 護衛がいようと関係ねえっ」


「べつにそんなことしなくても装備があるなら売るとか……」


「俺たちの誇りを売れってのか!? それに、襲撃が成功して高飛びした後すぐ冒険者に戻れなくなっちまうだろ! ちったぁ頭使え!」


「すみません……僕の勉強不足で。そ、それより高飛びするんですか!?」


「おうよ。さすがにやっちまったらこの国でもう冒険者なんてやれねえからな。でも別の国なら話は別だ。俺たちの過去は帳消しになり、実力が正当に認められるようになる! 今回の襲撃はそのための資金集めだ」


「そんなバカげた……それに、この国にもう戻れないなんて……」


 そんなラックの声をかき消すように、アルクが期待をあらわにする。


「さすがアニキっす! 有象無象とは見えてる世界が違うっすね!」


「頭の良いアルクは理解が早いな。こいつと違ってな!」


「光栄でっす!」


 アルクの一声で気分を良くしたゼネストは、ラックのもとを離れて自分の寝床で横になった。


「お前ら、こんな生活は明日で終わりだ。俺がこの手で終わらせてやるよ。新天地で幸せになろうぜ」


「ゼネストのアニキ……ううっ、俺どこまでもついていきます!」


 この場で完全にゼネストを信奉しているのはアルクだけだったが、他のメンバーも覚悟を決めた瞬間だった。

 ただし、ラックを除いて——


 ただ一人、無茶苦茶な作戦に賛同できなかったラック。

 皆が疲れからイビキをかいて騒がしく寝静まる中、バッチリと目が冴えていた。


 本当に、ついていって良いのだろうか——

 ラックは一生罪を背負っても良いと思えるほどゼネストを信頼していない。


 二度とこの国に戻れないということは、故郷に残してきた家族と会えなくなるということ。

 それどころか、家族に迷惑をかけてしまうことは必至。田舎ということもあり、狭いコミュニティの中で悪評が広まれば、村八分になってしまう可能性も否定できない。


 いや、十中八九そうなるだろう。

 自分だけの問題ではないのだ。


「もうダメだ。ついていけない。……逃げよう」


 ラックは誰にも聞こえないくらいの小さな声で呟いた。

 どこまで逃げられるかわからない。逃げてどうするかというプランもない。

 でも、覚悟を決めてからの行動は早かった。


 全員が寝静まったことを慎重に確認して、置き手紙を残した。

 手紙の中身は——


 『もうついていくことはできません。今までお世話になりました。——ラック』


 ムクっと起き上がり、そっと……そっと馬小屋の出口へ進む。キィという扉の開閉音にビクつきつつも、不思議と足が竦むことはなかった。


 月明かりに照らされ、真の意味で脱出したラックは、晴々とした気分だった。

 とはいえ、これはスタートに過ぎない。


 まず、目先の課題としては——


「とにかく、見つからないように身を隠さなきゃ……」


 そう呟き、ラックは闇に紛れて馬小屋を離れたのだった。

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