第43話:回復術師は披露する
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リリアが俺たちのパーティ——『レジェンド』に仮加入して二日目。
昨日はご飯を食べて寝るだけということで、今日からが本番だ。
俺やリーナもパーティを追い出されたからこそわかることだが、リリアは自分の価値を過小評価しすぎている。
だから本加入してもらうためにも、正当な自己評価に改めてもらう必要がある——という目的で早速サンヴィル丘陵の奥地を再び訪れた。
「リリア、魔物を50体倒してくれるか? 俺たちはここで見てるから」
「……へ? 無理!? 絶対無理よ!」
「え、なんで?」
「だって、劣等紋だし……力不足だし……昨日見てくれていたのよね……?」
「もちろん、『今すぐに』とは言ってないぞ。ちゃんとやり方は教える——というより、気付いてもらうつもりだ。大丈夫、今日中にはなんとかなるだろう」
「今日中って……そんな……」
悲壮な顔をするリリア。
困らせるつもりはなかったのだが、ここは一つお手本を見せておくか。
「じゃあ、同じ劣等紋のリーナが出来ればちょっとは固定観念を吹っ飛ばせるかな。……ということで、やってくれるか?」
「任せてください! 昨日は最後までできませんでしたし!」
「ハハ……すまん」
ナチュラルに嫌味を言えるようになるほどには打ち解けた……というか。
もしかするとリーナ自身が自分の価値を改めた結果なのかもしれない。
いや、その両方か。
「手前のエリート・アンテロープでやってみますね!」
そう言って、リーナは昨日と同じように剣に魔力を流し、魔物に襲いかかる。
昨日よりも大分動きが洗練されているように感じた。
デキる冒険者は身体を動かさずともイメージトレーニングでメキメキ力をつけていくと言われる。
リーナもその類なのかもしれない。
鋭い剣捌きでクリティカルヒットし、魔物は即死。
脱力し、ドン——と倒れた。
「これでいいですか?」
「ああ、なかなかのものだったぞ。また腕を上げたな」
「ユージにそう言われると嬉しいです!」
笑顔のリーナと、感心する俺。
そして——
「え、ええええ!? う、嘘……たった一撃で!? Aランクパーティがこんなにすごいなんて思わなかった。私にはやっぱり……」
「いやいや、リーナも昨日までせいぜいCランクとかそのくらいの実力だったぞ?」
「嘘よ! そんなの絶対嘘に決まってるわ!」
「嘘じゃないって、まず俺の話を聞いてくれ」
やれやれと俺は嘆息し、リリアが持つ武器を指差した。
俺が目をつけていた五本の矢を同時に発射でき、物理的な矢を必要としない特殊武器だ。
「これ、なんて呼べばいいのかわからないが——自作だよな?」
「ええ。既存の弓をベースにして練金術を使ってみたの。これなら軽いし攻撃力が低いのをカバーできる……と思ったけど、見ての通り大したことがないわ」
本来の練金術は薬草などの素材を合成してポーションを作ったりといった地味な仕事で、武器や防具を作るのは鍛冶職人の仕事。仕組み的には魔法を使った加工を施しているのだろう。
多分だがリリアには武器作りのノウハウがないだけで、加工技術としては手先でできる限界を遥かに超える精度がある。
それを、ちょっと示してみよう。
「それも考え方次第だと思うけどな。例えば——こんなのとか?」
俺はアイテムボックスから壊れたロングソードを取り出した。
これは昔使っていたEランク冒険者向けの激安武器。刃こぼれしてしまってからはずっと封印していたが、鉄屑としてはまだ役に立つ。
リリアの練金術を直接見たわけじゃないし、同じことはできないだろうけど、多少は真似られる。
『解析』で剣の素材・性質などあらゆる情報を取り入れ、『改変』でその形を変える。
そして、パッと思いついた強そうな武器をイメージ。
弓よりもっと小型。矢ではなく、もっと安定して風を突っ切れる弾丸。その弾丸を秒速100発のペースで連射できるような機構を創造する。
「——よし、こんなもんか。名付けるとすれば、『魔動短機関銃』。ま、ちょっと見ててくれ」
俺は近くに他の冒険者がいないことを確認し、適当に遠くの魔物に照準を合わせる。
ガガガガガガガガガ!
とけたましい音を響かせ、数千発の弾丸が魔物を襲った。
一発当たりの攻撃力は大したことがないし、回復術師が作ったものだと精度に限界がある。
とはいっても、ちゃんとそれなりの物には仕上がっているので——
「ユージすごいです! この一瞬で魔物がほとんど倒されてます!」
「と、まあこんな感じだ。俺だとこのくらいの性能にしかならないが、リリアならもっと良い物にできるんじゃないか?」
「なんで私と同じこと……それも私より凄いことができるの!?」
「ま、それは回復術師だからかな? でも、本当に俺だとこの辺が限界だよ。今、横から見ててリリアなら何かピンと来たんじゃないかなーと思ったんだが、どうだ?」
「確かに……ちょっとアイデアが出てきたかも。ユージと同じもので、もっと精度が高いものよね。構造ももう少し改良の余地がありそうだわ」
そう言いながら、手に持った武器を一度解体し、新たに整形していく。
そうして、リリアが集中して練金術を始めることおよそ十分。
「やっぱり、俺の目は正しかったようだな」





