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第43話:回復術師は披露する

 ◇


 リリアが俺たちのパーティ——『レジェンド』に仮加入して二日目。

 昨日はご飯を食べて寝るだけということで、今日からが本番だ。


 俺やリーナもパーティを追い出されたからこそわかることだが、リリアは自分の価値を過小評価しすぎている。

 だから本加入してもらうためにも、正当な自己評価に改めてもらう必要がある——という目的で早速サンヴィル丘陵の奥地を再び訪れた。


「リリア、魔物を50体倒してくれるか? 俺たちはここで見てるから」


「……へ? 無理!? 絶対無理よ!」


「え、なんで?」


「だって、劣等紋だし……力不足だし……昨日見てくれていたのよね……?」


「もちろん、『今すぐに』とは言ってないぞ。ちゃんとやり方は教える——というより、気付いてもらうつもりだ。大丈夫、今日中にはなんとかなるだろう」


「今日中って……そんな……」


 悲壮な顔をするリリア。

 困らせるつもりはなかったのだが、ここは一つお手本を見せておくか。


「じゃあ、同じ劣等紋のリーナが出来ればちょっとは固定観念を吹っ飛ばせるかな。……ということで、やってくれるか?」


「任せてください! 昨日は最後までできませんでしたし!」


「ハハ……すまん」


 ナチュラルに嫌味を言えるようになるほどには打ち解けた……というか。

 もしかするとリーナ自身が自分の価値を改めた結果なのかもしれない。

 いや、その両方か。


「手前のエリート・アンテロープでやってみますね!」


 そう言って、リーナは昨日と同じように剣に魔力を流し、魔物に襲いかかる。

 昨日よりも大分動きが洗練されているように感じた。


 デキる冒険者は身体を動かさずともイメージトレーニングでメキメキ力をつけていくと言われる。

 リーナもその類なのかもしれない。


 鋭い剣捌きでクリティカルヒットし、魔物は即死。

 脱力し、ドン——と倒れた。


「これでいいですか?」


「ああ、なかなかのものだったぞ。また腕を上げたな」


「ユージにそう言われると嬉しいです!」


 笑顔のリーナと、感心する俺。

 そして——


「え、ええええ!? う、嘘……たった一撃で!? Aランクパーティがこんなにすごいなんて思わなかった。私にはやっぱり……」


「いやいや、リーナも昨日までせいぜいCランクとかそのくらいの実力だったぞ?」


「嘘よ! そんなの絶対嘘に決まってるわ!」


「嘘じゃないって、まず俺の話を聞いてくれ」


 やれやれと俺は嘆息し、リリアが持つ武器を指差した。

 俺が目をつけていた五本の矢を同時に発射でき、物理的な矢を必要としない特殊武器だ。


「これ、なんて呼べばいいのかわからないが——自作だよな?」


「ええ。既存の弓をベースにして練金術を使ってみたの。これなら軽いし攻撃力が低いのをカバーできる……と思ったけど、見ての通り大したことがないわ」


 本来の練金術は薬草などの素材を合成してポーションを作ったりといった地味な仕事で、武器や防具を作るのは鍛冶職人の仕事。仕組み的には魔法を使った加工を施しているのだろう。


 多分だがリリアには武器作りのノウハウがないだけで、加工技術としては手先でできる限界を遥かに超える精度がある。


 それを、ちょっと示してみよう。


「それも考え方次第だと思うけどな。例えば——こんなのとか?」


 俺はアイテムボックスから壊れたロングソードを取り出した。

 これは昔使っていたEランク冒険者向けの激安武器。刃こぼれしてしまってからはずっと封印していたが、鉄屑としてはまだ役に立つ。


 リリアの練金術を直接見たわけじゃないし、同じことはできないだろうけど、多少は真似られる。

 『解析ヒール』で剣の素材・性質などあらゆる情報を取り入れ、『改変ヒール』でその形を変える。


 そして、パッと思いついた強そうな武器をイメージ。

 弓よりもっと小型。矢ではなく、もっと安定して風を突っ切れる弾丸。その弾丸を秒速100発のペースで連射できるような機構を創造する。


「——よし、こんなもんか。名付けるとすれば、『魔動短機関銃マジック・サブマシンガン』。ま、ちょっと見ててくれ」


 俺は近くに他の冒険者がいないことを確認し、適当に遠くの魔物に照準を合わせる。


 ガガガガガガガガガ!


 とけたましい音を響かせ、数千発の弾丸が魔物を襲った。

 一発当たりの攻撃力は大したことがないし、回復術師が作ったものだと精度に限界がある。

 とはいっても、ちゃんとそれなりの物には仕上がっているので——


「ユージすごいです! この一瞬で魔物がほとんど倒されてます!」


「と、まあこんな感じだ。俺だとこのくらいの性能にしかならないが、リリアならもっと良い物にできるんじゃないか?」


「なんで私と同じこと……それも私より凄いことができるの!?」


「ま、それは回復術師だからかな? でも、本当に俺だとこの辺が限界だよ。今、横から見ててリリアなら何かピンと来たんじゃないかなーと思ったんだが、どうだ?」


「確かに……ちょっとアイデアが出てきたかも。ユージと同じもので、もっと精度が高いものよね。構造ももう少し改良の余地がありそうだわ」


 そう言いながら、手に持った武器を一度解体し、新たに整形していく。

 そうして、リリアが集中して練金術を始めることおよそ十分。


「やっぱり、俺の目は正しかったようだな」 

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