第38話:回復術師は眺める
◇
翌日、依頼を受けに冒険者ギルドに向かっているところ——
「あっ、もしかしてあれが噂の……」
「っていうことは連れているアレがフェンリルか!?」
「……にしてはあまり強そうじゃないけど」
いたるところから俺の噂話が聞こえてきた。
不思議と話しかけてくることはないが、道行く人が遠巻きに俺たちを眺めてボソボソと話している。
もともとフェンリル出現の噂は流れていたので、混乱を鎮めるためにギルドから正式に経緯を説明したらしい。そこで俺の名前を隠すことはできず、周知の事実になったという流れだ。
「有名人になっちゃいましたね」
「俺としては目立ちたいわけじゃないんだけどな。まあ、こんなに注目されてるのも今のうちだろ。村の中ではシロもこの姿だしな」
俺の隣をトコトコと歩くシロを見ていると、まだ眠いのか大口を開けてあくびをしている。
なかなか可愛い。
これが神話にもなるほどの魔獣とは誰も思わないだろう。
ガチャ。
ギルドの扉を開けると、なぜか普段より人が多かった。
いつものこの時間なら多くてもせいぜい2〜3組のパーティが依頼を物色しているのだが、今日は5パーティほどの人数で賑わっている。
とはいえ依頼の数にはまだ余裕があるので、掲示板を覗いて良い感じの依頼を探した。
「今日はこれにしておくか」
掲示板から依頼書を剥がして、受付へ持っていく。
いつもの受付嬢が俺たちに気づいたらしく、頭を下げてきた。
「おはようございます! 朝から『レジェンド』の話題で持ちきりですね!」
「おはよう。まあ、レジェンドだけが注目されて肝心の劣等紋の部分があまり目立ってない気がするけどな。気にせずいつも通り依頼をこなすよ。これを頼む」
——と言いながら、依頼書を受付台の上に置いた。
「分かりまし——ってあれ? Bランク依頼ですか?」
「そうだけど、何か問題あったか?」
「いえ、ユージさんたちならてっきりSランクの依頼書を持ってくるものかと……。今日は新しい依頼も入りましたし」
「本当はSランクの依頼を受けたいんだけど、パーティのランク的に無理なんだ。この前のフェンリルの件はギルドマスターの特例ってことで行けたけどな」
「ああー、そういえばそうでしたね。私が言うのもなんですけど、形式的ですねぇ」
「ま、安全な狩場も日帰り旅行気分で結構楽しいもんだよ。それに、言ってもあと二回だしな」
なんで受付嬢と雑談してるんだろ? と思いつつ十数秒待っていると、ギルドの印が押された詳細な依頼書を手渡され、受注することができた。
「今回は緩い依頼ですが、頑張ってくださいね!」
実力が認められるとここまで扱いも変わるのか——と初対面の頃を懐かしく思いながら、ギルドを後にした。
◇
俺たちが受けた依頼は、サンヴィル丘陵の奥地。
初めてリーナと出会ったのはソロで戦いやすい入り口の部分だったのでCランク相当の狩場だったが、奥に進むとより魔物が強くなりBランクパーティ向けの場所がある。
入り口にはアンテロープなどの弱い魔物が集中していたのに対して、ここではエリート・アンテロープなど上位の魔物が犇いているとのことだ。
魔物の見た目が似ているのでCランク冒険者でもなんとかなりそうだと勘違いする者が後を絶たないが、別個の種類だと考えた方が良い。
この辺一帯の魔物を五十体倒してくるのが今回の依頼の内容だ。
なのだが——
「他のパーティがいるみたいですね」
「だな。ちょっと離れた場所に移動するか」
と言いながらも、ついつい他の冒険者を眺めてしまう。
地域に合わせた戦い方というものがあるので、参考にできるものがあればどんどん取り入れるというのが俺のスタイルだ。
先に狩場を使っていたのは、三人組の女性パーティ。
一人目は剣士で、二人目は魔法士。三人目は……いまいちよくわからない。
見たことのない武器を使っている銀髪の少女がいた。
無理やりカテゴライズするとすれば弓だが、魔弓士の戦い方ではない。
五本の弓を同時にセットし、連射している。威力はそれほどでもないが、アイデアとしてはなかなか面白い。
しかも村で普通に売っている鋼鉄製の矢ではなく、魔力で一時的に整形したもの。魔物に衝突した瞬間にダメージだけを与えて消滅する。
あんな技を使う魔弓士は見たことがない。
「どうしたんですか? ユージ」
「いや、なんでもないよ。ただ、ちょっと面白い戦い方をしてるなと思ってな」
「変わった武器を使ってるあの子ですか?」
「そう、アレを上手く使いこなせればすぐにSランクまで上がってくるだろうな」
「ユージが言うならそうなんでしょうけど……苦戦しているみたいです」
「それは今だけだよ。冒険者の序列なんて一年で大きく変わるしな」
Bランクの依頼だからと少し気を緩めていた部分があったが、どこにでも面白い人材はいるもんだな。
できれば俺たちのパーティに引っ張りたいところだが……まあ、それはさすがに無理か。





