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第21話:Sランクパーティ、ブチ切れる

 その頃、ユージを追い出したSランクパーティは、ギルドから受けた依頼をこなすためサンヴィル霊園を訪れていた。


 村から離れた場所に設けられた霊園。遺骨の引き取り手がいない罪人が祀られた特殊な場所である。

 長年管理されていないため、墓はボロボロになってしまっている。


 死者の魂が魔物を呼び寄せ、活性化させた。

 サンヴィル村としては新たに罪人の墓を建設したいのだが、そこに住む魔物が邪魔であり、その駆除をギルドに依頼した。そして引き受けたのが、ゼネスト率いるパーティだということだ。


「アルク、そっちだ!」


「うおおおおっ!」


 飛び出して来た骸骨の魔物にアルクが剣撃を繰り出す。


 ガキン!


 しかし、Sランクの魔物はそう簡単には倒せない。とんでもなく硬質なタイプだった。

 とはいえこのタイプの対処法も彼らは心得ている。


「くそっ!」


 キンキンキンキン!!


 何度も繰り返し同じ部分を叩くことにより、徐々に柔らかくしていくのだ。

 その間、もちろん攻撃を受けることもある。


「うああああ!! 血っ……回復術士! 治してくれ!」


 前衛のアルクは、魔物の爪に肩を抉られ、血が吹き出していた。

 痛みに耐え、苦悶の表情を見せながらも屈することなく立ち続ける。

 それは、回復魔法に対する信頼からだった。


 後ちょっと我慢すれば、すぐに傷が癒えて万全の状態になる。

 ——そうアルクは信じていた。

 アルクだけじゃない。パーティリーダーのゼネストを含め、全員が本気で信じていた。


「お、おい! 聞こえないのか! 回復術士! ヘルミーナ、お前だ! 早くなんとかしろ!」


 なかなか消えない痛みに苛立ちを覚えたアルクは声を荒らげた。

 しかし新たに加わった回復術士ヘルミーナから返って来た言葉は——


「そんなにすぐに癒えるわけないでしょう? そもそも、戦闘中に回復魔法をかけられる回復術士が世界で何人いると思う? 無理な要求をしないで頂戴」


「はあ!? ユージはこのくらい簡単そうにこなしてたぞ! そんなわけねーだろうが!」


「その通りだ! この程度のこともできないなら高い金を払って回復術士を雇った意味がない! ちゃんと仕事しろ!」


「「「「そうだそうだ!」」」」


 ゼネストや、他のパーティメンバーも同調した。


 ヘルミーナは深くため息をつき——


「それなら、どうしてその回復術士を追い出したの?」


「それはあいつが劣等紋で無能だからだ! 俺たちの腕はSランクとして十分だったが、あいつが足を引っ張ってたんだ!」


「これは病気ね……」


 そうこうしているうちにも、ダメージはどんどん蓄積していく。

 耐えられなくなったアルクは薬草を液体にしたもの——生命力ポーションを次々と浴びるように飲んでいく。

 それでもダメージ量が多すぎたため、ゼネストと代わる代わるスイッチしていくことでなんとか耐え凌いだ。


 後衛の魔法士や魔弓士たちがジリジリと魔物の生命力を削っていき、十五分もの時間を要して、ようやく骸骨の魔物の討伐に成功した。


「嘘だろ……これをまだ何十体と相手にするってのか!? どう考えても赤字だ! やってられん!」


 ゼネストはそう言い、怒りをヘルミーナにぶつける。


「お前なんかクビだ! 役立たず! とんでもない無能を拾った!」


「私だってこんなパーティこれ以上ごめんだわ。命がいくつあっても足りない。回復術士のせいにしたいみたいだけど、他のSランクパーティがこの程度の魔物に十五分もかけることはありえないわ。どう考えてもあなたたちの火力不足だわ」


「俺たちのせいだってのか! ああ!?」


「そうよ。どんな有能な回復術士に助けてもらってここまでドーピングしてたのか知らないけど、あなたたちの適正ランクはせいぜいBランク。無理してAランクってところかしらね」


「舐めた口聞きやがってこのクソアマ! さっさと失せろ。二度と姿を見せるな」


「本当に抜けて良いのかしら?」


「減ったら足すだけだ。なんの問題もない。お前程度の回復術士なんて代わりはいくらでもいるんだからな!」


「そう……見つかるといいわね」


 ヘルミーナは呆れたようにゼネストを見つめ、同情した。

 そして、小さく呟く。


「可哀想な人たち……」


 こうしてヘルミーナが去った後——


「今回はさすがに依頼達成は不可能だ、キャンセルする。その代わり数日後には新しく今度こそ優秀な回復術士を補充して、さらに高ランクの依頼に挑む! 今日の分は次でまとめて取り返すぞ!」


「さすがゼネストの兄貴! しくじっても挫けないの尊敬するっす!」


「しくじってねえ! 遠回りしただけだ、何も問題ない!」


 威勢のいいことを話すゼネストだったが、彼を含め全員が忘れてしまっていた。


 ヘルミーナが王国屈指の手練れの回復術士であることを。


 そして気づかなかった——


 ユージはおろか、ヘルミーナほどの回復術士を見つけるのは簡単ではないということを。

 仮に見つけたとしても、彼らの能力がまったく足りていないということを。


 たった一人の力に頼りきり、驕りを捨てられなかった結果、ゼネスト率いるパーティ一行は取り返しのつかない結末を迎えることになる。

 

夜の更新です!

今日はがんばりました……!

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 王国屈指の手練れであってもヘルミーナさんまだ「回復術師」にはなれていないんですね。 回復術の専門家って事はおそらく聖の紋章なんでしょうが、主人公みたいに回復術師になって上限解放したら紋…
[一言] ヘルミーナが主人公のパーティーに加入しないのかな? このクズパーティーの崩壊はもう少し先かな?
[一言] 崩壊ゼネストパーティーお金なくなる犯罪犯して奴隷にしても役に立たない!
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