表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/21

7. リューと世界史の教科書

「おふざけはやめて勉強しなさい!」

 言われて、2階の自室に駆け込む。

 まずいことしちゃったみたい。

「おふざけって言われたよね」

「これから、いろいろな分からないことを聞いていくのは難しそうですね」

 勉強しなさいと言われたし、この世界について勉強しないといけないのは確かなのだけれど。いきなり何を勉強すればいいんだろう。寝室でしばらく歩き回った後、机に向かう。


 昨日目についた四角いものが目に入る。手に持ってみると、ぱらぱらとめくれる。中にはびっしりと文字が書き込まれている。光沢があって光っているけど、これ紙だ。ってことは、これは本かな。

 表紙を開いて、本文1ページ目を読む。


「――――、――――、――?」


 だめだ、読めない。くねくねした文字と、四角っぽくて複雑な形の文字が交じり合って並んでいる。a,b,c,…のアルファベットで書かれた僕の知っている文字とは大違いだ。

「これ、読むの苦労しそう」

 ん、よく思い出してみると、この世界は文字で溢れてる。さっき見た、父親の男の人が持っていたねずみ色の紙、そのわきに置いてあった色とりどりの紙の山、みな文字でいっぱいだった。そして、この部屋にある大量の本。

 この世界では文字が読めることが当たり前みたいだ。しかも、この世界の常識を聞くことはできない。そうなると、書物を読めるようになってそれで勉強するしかないのか……。

「けど、こんな複雑な文字、僕には無理だよ」

「あきらめないでください」

「どういうこと?」

「この本、仕掛けがあります。まず、この本の文字は一文字一文字が独立しています」

 うん、確かに。


『21□□○□○○、□□□□○、……、□○○○○?』


「『、』で意味の区切り、『。』や『?』『!』で一文の終わりです。『?』まで、意識して目で追ってみてください。最初は指でなぞって構いません」

 ええと、やってみよ。左から右に指でなぞって、と。


“21世紀に生きる、現代□□の我々にとって、歴史を学ぶ意義は何だろうか? What is the significance for contemporary □□’s us, living in 21st century, to study the history of the world ?”


「わ、文字が浮かび上がってきた! もしかして、よく知った文字で書かれた言葉に翻訳できる?」

「そうみたいですね」


「次、浮かび上がった文の“□□”の部分、これは固有名詞、地名や人の名前です。分からない単語は翻訳されません。今度は意味が分からなかった部分を読みます。また紙に書かれた文を見てください。文字を意識しながら、一単語、一単語に区切っていきます」


『21世紀に』“21世紀に in 21st century” 

/『生きる』“生きる live” 

/『現代』“現代の contemporary age” 

/『日本の』“□□の □□’s” 

/『我々にとって』“我々にとってfor us”

/……。


「文全体の訳で、文字が浮かんでこなくて”□□”になった部分と、単語で区切って読んだときのまだ知らない単語、ここでは、『日本の』”□□’s”が対応しています。つまり、ざっと読んで大まかな意味を取り、次に部分を区切って読んでいって、分からなかった単語、『□□』という言葉や文字を、書物の他の部分を読むなりして意味を調べて」

「改めて、全体を読んでみる……と」

「この『日本』というのは、今私たちのいる国の名前です」

「分からない単語が複数並んでいて、区切れなかったときは?」

「表紙の文字で試してみましょう」

 表紙には3文字、大きく字が書かれている。


□□□


「3文字あります。文字を意識して」


『世界史』


「3文字を区切ってみます。まずは前1文字と後ろ2文字に」


『世』“□” /『界史』“□□”


「次は前2文字と後ろ1文字に」


『世界』”世界 world” /『史』“歴史 history”


「くっつけてみましょう」

「『世界の歴史』って意味かな」


“the history of the world= 世界史 the world’s history”


「一度意味が分かった単語は、一単語として浮かび上がります。もちろん、文字を意識して区切って読めば、各々の意味も分かります」

「便利な本だね。さっそく他の部分でも試してみよ、っと」

 本の右上を見る。


『高等学校世界史教科書』


『世界史』“the world’s history”は分かるから、


『高等学校』”□□□□” /『世界史』“世界史 the world’s history” /『教科書』“□□□”


まず文字数の少ない方から区切ってみよ。


『教科書』


を、


『教科』/『書』


っと。で『書』は、


『書』“書くこと to write; 文字 letter, character; 本、書物 book; 書道、カリグラフィー calligraphy”


「意味が確定できないときは、複数の訳語が浮かんできます」


 これをヒントに、2つの言葉の意味の組み合わせを探るわけだ。

 けれど、あれ、どうしたって無理だ。『教科』の意味が分からない。

「『教科』と『書』、2つ合わせてテキストブックtextbookって意味です」

 うん。聖職者の学校とかで使うっていうやつだ。

 次、先頭の部分。


『高等学校』


 区切って、


『高』“高い high” /『等』”等しい equal; など and so on” /『学校』“学校、学び舎 school”


 で、前半は、『高等』で一単語かな。「高い等しさ」じゃ意味をなさない。


『高等』“上級の high level”


 じゃ、『高等学校』は、「上の水準の学校」かな。


『高等学校』“□□□□”


「あれ、一単語にならない」

「リューが『そのもの』を知らないからです。くっつけてできた単語が指す『そのもの自体』を知らないと、一つの単語としては認識されません。ついでに、くっつけて作ろうと思った単語が存在しない場合も。そのものを知るのが第一、つまり、この世界のことを知らないといけない。本だけじゃダメということです」


「さらに言うと、ここにことわざ辞典っていうのがありますね。いわゆることわざや慣用句が典型ですが、単語の組み合わせや、文中での使い方で、思ってもみない意味になってしまうことがあるので注意です」

「シャリア、よく知ってるね」

「ええ、リューが1階で驚いて走り回ってる間に試しておきました」

「そ、そうだね。短時間でやったにしては詳しすぎるレベルだけど」

 ああ、文字が読めてよかった。隣村の聖職者のお兄さんには感謝だなあ。日曜にお祈りに行くと、午後、子供たちに字を教えてくれたんだった。木の枝で地面に書いて。a,b,cから始めて、簡単な言葉を順番に。最後は聖典もちょっと読ませてもらった。「文字を読む」ということそのものができなければ、この便利な本も使えなかったからね。

 お兄さん、今頃大丈夫かなあ。魔王軍の襲撃を逃れて、生き残っていてほしい。


 さて、改めて。世界史の教科書を読んでみよう。骨が折れそうだけれど。

 まず、前書き。“21世紀に生きる、現代日本の我々にとって、歴史を学ぶ意義は何だろうか?”

 本の最後、奥付を読む。”202X年X月X日発行” つまり、今僕がいるのは「日本」という国で、時代は21世紀、こちらの暦で202X年ということらしい。

 本の末尾の方も読んでみる。「『地球』“terra”規模の課題に立ち向かうために、我々は、……」 つまり、この世界は「地球」という。

 最後の方は分量の割に内容が濃い。最初から順を追って読まなきゃダメみたい。

 改めて、先頭から。最初の方は、僕らの世界じゃ想像もできないような昔のこと、次は遺跡の絵が並ぶ。うん、苦痛。飛ばし読み。


 ぱらぱらとページをめくり続け、見たような街並みを見つける。何となくだけれど、首都の街並みに似ている。見慣れた様式の絵も。教会に描いてあったのとそっくりだ。

 時代を見ると、「中世」となっている。国名なんかはだいぶ違うけど、生活様式は僕らの世界と似たような感じ。僕らの世界の歴史だと、「中世」は4000年くらい続いてることになっている。対して、こちらの世界は、っと。この本長い、もう年表!

 ルネサンス、近世、近代、そして現代と、時を追うごとに、科学技術が進歩し、歴史の動きが加速して……。

「で、科学技術の発展の結果が、今見てきた、ぜいたくで、へんてこりんな生活だ」

「そういうことですね」


 本から目を上げる。気が付けば背中が痛い。太もももしびれている。そりゃそうだ。おぼろげにしか意味のつかめない、知らない言葉の本を、何時間も動かず座りっぱなしで読んでたんだから。元の世界だと動いて働き続けるのが普通だった。ずっと同じ姿勢で座っているのって疲れる。

 休憩しよ。正午くらいじゃないかな。立ち上がって、歩いて、伸びーー。うん。ちょっと良くなった。

 階下から大きな声。

「お昼ですよ」

 ん、わざわざ言う?

「そうだね」

「そうだね、じゃありません!お昼ごはん準備したから、早く下りてきて食べなさい」

「また食事があるの!」

「何とぼけたことを! 早く……」

「ごめんなさい!」

 お腹いっぱいだよ、と思ったけれど。触ってみるとぺこぺこだ。この体は一日に何回も食事を取るのが当たり前みたい。そりゃこの体型にもなるよ。

 うん、我慢できない。僕は階下に下りていく。


 なぜ異世界から来た人物への翻訳が英語なのか。理由は簡単、作者は英語しかできないからです。いや、英語も十分できるかと言われるとあやしいですが。

 本当は、主人公は俗ラテン語っぽいナーロッパの古い言葉を話しています。あれ、1か所だけ、翻訳先の言語が違うところがありますね。まあ気にしないで行きましょう。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ