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6. リュウと宮廷の朝

「リュー様、リュー様」

 呼び声が聞こえる。

「うーん」

 眠い。

 体を揺さぶられる。

「お目覚め下さい」

 はあ、とあくびをしながら目を開ける。

 うん、まさにテンプレって感じのかわいい召使いさんが俺を起こしてくれている。

「お支度を」

 起きると、別の部屋、衣裳部屋に連れて行かれる。着替えさせてくれるそうだ。そういえば、昨日はお着替えを、という声も無視してベッドにダイブしたんだった。

 鏡の前に立たせられる。ずいぶんと小さくて古びた鏡だけれど、俺の顔が映る。服を着替えさせられながら目に入る。

 鼻は高く、顔立ちはくっきりしている。長く伸ばしたストレートの銀髪は、朝日を浴びてキラキラと輝く。見慣れた顔よりだいぶ子供に見えて、中性的な感じがする。肌は透き通るような白、目は金、妖精みたい。美しい、の一言だ。もっとくっきりした鏡で見たい。

「かわいいなあ」

 新しい俺の体なんだけどね。


「リュー様、もう少し早くお目覚め頂かなくては。わたくしが怒られてしまいます」

「ごめん」

 この世界の朝は早いみたいだ。

「朝食をご用意しています。ご案内します」

 再びきれいなお姉さんに連れられてしばらく、扉を開けると天井の高い広間に出た。けっこう大きめのテーブルに椅子が並んでいて、人が座っている。俺の席は、うん、端の方に見つけたぞ。さっそく椅子に座る。


 さーて、並んでいるのは、っと。ちょっと厚めのパンとスープ。スープにはやたらとたくさん豆が入っている。え、これだけ? いや、きっとフランス料理のフルコースみたいに、次々運ばれて来るんでしょ。

「いただきます!」

 食べ始めようとして視線に気づく。同時に食べ始めた人、指を組んで、なにやらお祈りをする仕草。そうだよね、ここはナーロッパ、食事の前はお祈りしないと。指を組んで、それっぽい言葉を唱える。

 さて、まずパンに手を伸ばす。手に持ってかじりつこうとして再び視線を感じる。うーんと、そうそう、西洋だと正式な席じゃパンにかぶりついちゃいけないんだっけ? あ、正式な席じゃなくてもか。ちぎって口に運ぶ。だいぶぱさぱさしている。焼いてからどれくらい時間経ってるんだろ。

「このパン、焼いたのいつ?」

 側に立った召使いのお姉さんが答える。

「昨日の朝です」

「普通こういう世界って、焼き立てのパンが出てきて、素材の味うめー、ってなるんじゃないの? しかも俺勇者だよ」

「あの、異世界からの勇者なのでご存じないかもしれませんが。パンを焼くには高い温度と、大量の薪が必要です。そのため、パンは、毎朝火を起こして、王宮全体の分を一度に焼きます。それを王様、高位の貴族と順番に食べてゆき、翌日、残りを臣下の方や、場合によってはわたくしたちが頂きます」

「てことは、おかわりは」

「ございません」

「そこを何とかって言ったら」

「下働きの者達は、街のパン屋から買いだめした雑穀パンを食べますが」

「いつのやつか分からない、っと」

「そういうことでございます」

 じゃ、しゃーない。つぎは豆スープ。スプーンが置いてあったから、それを使って食べる。さすがにスープに口付けちゃまずいよね、それくらい分かる。

「薄っすい」

 なんだ、豆の味しかしないじゃないか。

「塩、それからダシ」

「塩は十分入れてあります」

「もっとほしいな。まさか塩は高いからとか言い出すんじゃ」

「その通りです。塩は塩山でしか取れません。採掘は地下深く、常に落盤の危険がつきまとう命がけの仕事です。しかも塩山は隣の国にしかなく、かなりの高額で、少量しか売ってくれません」

「で、なんで具は豆だけなの?」

「体を作るのに必要な栄養を取るには、豆で十分だからです。寒い北の大地で育つ作物は、麦、雑穀、豆、少しの野菜。これくらいしかありません」

「栄養の偏りが原因の病気とか、かなり多いんじゃ?」

「飢えるよりはマシです」

 ひどい食料事情だ。

「せめて卵くらいないの?」

「卵ですか? ニワトリは一日1個しか卵を産みませんから、近郊で毎朝とれる卵の数は決まっています。それを、王様、貴族と……」

「分かった、言わなくていい。順番に分け合うんだろ。ってことは、醤油をかけた目玉焼きが欲しいとか言っても」

「醤油が何かは分かりませんが……。塩味の調味料をご所望ということでしたら……」

「うん。予想ついた」

「王宮では豪華な食事が出されたという記録があるかもしれませんが。他国の使節や賓客があったときは見栄を張って豪華な料理を用意するからです。普段は民にも分からないように節約しているのです。王宮だからといって豪勢な食事をしていたら、民は飢えてしまいます。特に私たちのような小国では」

 節約ってレベルじゃねーだろ、と思いながら、なんか満足しない朝食を終える。

 けどさ、足りないと思ったけど、この体じゃはち切れそう。そうだよね、この体、普段はそんなに食べてなさそう。きっと胃袋縮んでるんだ。


 ぐるる、腹が鳴ってくる。ですよねー。体に物入れたんだからもちろん……。

 ふと思い立つ。昨日はきっちりと着付けられた儀礼用の服で、しかもそのままベッドダイブして寝たから確認できなかったけど。この美麗な顔と華奢な体。もしかしてT*、いや百合百合できる体になったんじゃ。そしたらヒロイン集めて……。この機会に確かめよう。いや、嫌でも見るし。期待に胸が膨らむ。いや、物理的には膨らんでないよ。


 召使いさんが壺を運び去る音を後ろに聞く。

 しょんぼりだ。俺の淡い期待は脆くも崩れ去った。

 ただの栄養不足からの発育不良だった。だよね、この、がながなの体ならあり得なくはなかった。まあ、そう上手くはいかないもので。


「さて、今日は土曜ってことだし、部屋に戻ってまた一寝入りするか」

「それでは、午前の講義と訓練を」

「え、今日土曜日だよね」

「はい、土曜日です」

「なんで訓練するの?」

「土曜日だからです」

「土曜日は休みでしょ」

「異世界では分かりませんが。土曜日は平日、労働の日です。労働がないのは礼拝の日、日曜だけです」

 さっそく訓練の師範がいるところへ、と連れて行くねーちゃん。俺の表情を読み取ったのか言う。

「召使い、従僕たちは、毎日働いています。交代で休みを取ることはありますが。動物を飼う農場に休みはありません」

 暗い廊下を歩いていく。訓練なあ、最初にチート能力もらえればよかったのに。ほら一気に技とか使えるようになるやつ。そんなの無しで、それどころか土曜日も仕事と訓練とか。

 俺、けっこう大変な世界に来てしまったみたいだ。


 今回はやたらと労働の話が出てきました。この小説書いてる作者、そういうお前は毎日働いているのかと言われると、ゲフンゲフン。

 文中に「ナーロッパ」という単語が出てきましたが。ゲームとかで知っているヨーロッパっぽい世界観に、作者の少ない知識をくっつけて、作者と読者で何となく共有する、「なろう」の小説によくある世界観を指す言葉だそうで。

読者の皆様、勘がよい。

この話、舞台はもちろん、ナーロッパ!


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