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4. 召喚の間のリュウ

「痛ってえ」

 とっさに少し頭を上げる。

「うーん」

 気が付くと、はいつくばっている。

 光に満たされた視界は、少しずつ薄暗くなっていく。なんか固いものの上だ。膝に痛みがある。軽く見ると、周りの床が、不思議な模様を描いて光っている。

「まるで魔法陣だな」

 ちょっとして光は収まり、視界は暗闇へ。さらにしばらくすると、目が暗いのに慣れてきた。

 ゆらゆらとする光に、手をついた床が見える。継ぎ目があって、少しざらざらしている。これ、石だな。


 周りの様子をうかがう。顔を横に向ける。俺の子供部屋よりだいぶ広そうだ。端の方は暗がりになっていて、よく見えない。顔を上げる。少し高くなったところに、かがり火がいくつか焚かれている。

 真正面、壇の上に、2つの人影があって、こちらを見下ろしている。一人は見るからに高そうな服、大きな体格、長い黒ひげ、そして頭の上には金色に輝く王冠。

 もう一人は初老で、長い服を着て、手にはやたら分厚い本を開いている。

 これ、石造りの建物、かがり火、そしていかにも王様と魔導師って感じの人が壇上に。テンプレのファンタジー世界かよ。

 異世界転移という言葉が頭をよぎる。


「※※※※」

 声が響くけれど聞き取れない。

「※※※※※※※」

 なにやら話し合っているけど、内容分からん。ダメだ、日本語じゃない。

「※※※※※」

 異世界転移してるとして、言語チートは無しか。言葉が通じないのは辛いな。


 とりあえず、立ち上がって話しかけるか。って、駆け付けてくる足音、そのまま押さえつけられる。そうだな、さすがに王様の前でいきなり立つのはまずいか。再び体を低くすると、首筋に今まで感じたことのない感触。

 ふと手をやると、頭から頬に沿って、流れるように……。

「これ、髪だな。それもかなり長い」

 見るとそれは銀色で、透明がかっている。

「そうみたいですね、リュウさん」

 IFがささやきかけてくる。

「てことはもしかして」

 腕に目をやると、ほっそりとして透き通る白さ。うーん、胸の感覚は変わらないけど。

「声はだいぶ高くなってる。声変わり前みたい」

 これはもしかして、もしかすると。


 さっと、一人の人が出てくる。魔導師って感じの人。俺の前に立つと、複雑な呪文を唱えること数分、最後に香水のようなものを振りかけられる。王様っぽい人に一礼して引っ込む。


 壇上から話しかけられる。今度は聞き取れた。

「そなた、名前はリューでよいな」

「そうです。いえ、はい、リュウです」

「現代、21世紀の日本出身」

「はい、その通りです」

 王様、魔導師と向き合って大きく頷く。

「おお、成功だ。見事に勇者を召喚できた」

「ってことは、思った通り」

「異世界転移、勇者召喚ですね、リュウさん。夢に見た」

 IFの嬉しそうな声。宙に浮かぶIFと目を合わせる。

「体はハーフエルフで妖精を連れている。これは魔力も強大だろう」


「俺、勇者なのか! 本当に勇者なのか! 選ばれたのか!」

 興奮と、軽い混乱。それが少しずつ収まるとともに、嬉しさがこみ上げてくる。

 

 この世界で、チートを手に入れて、俺TUEEE、無双するんだ。レベル制とか、スキルとかあるのかな。ステータス画面ってどうやって開くんだ? あわよくば、ヒロインたくさん落として、○ー○○作るんだ。


「勇者リューよ、さっそく今回の召喚の目的を伝えよう……」

「王様、なんでしょう、クエストは」

 目、キラキラしてると思う。こんなに心躍るんだもん。

「魔王の討伐に行ってほしい」

 うん、テンプレ。でどんなギフトあるんだろ。

「魔王城は、ここから南に1か月ほど行ったところに広がる、死の森にあるのだが」

「で、どのようなルートで、どのようなパーティとスキルがもらえるんでしょ?」

「スキル、というのはよく分からぬが。装備と行程は、これからそなたの適性をみて話し合って決めよう」

 あれ、案外テキトーな世界だな。

「して、これから続く儀式だが……」

 とりあえず、なんだか眠くなってきた。あくびを噛み殺す。

「勇者殿はお休みになりたいか」

 うん、昨日の朝からずっと起きてる。あ、この体ではさっきからだけど。

「勇者殿を承客の間へお連れせよ」


 これまたテンプレみたいな格好の召使に連れられて着いた部屋は、豪華としか言いようがない。

 天蓋付きの、キングサイズのベッド。迷わずダイブ! 予想通り、けっこうふかふかだ。どこか湿ってて、少し動くとちくちくするけど。そんなことより。

「これで、今までのつまらない生活にはおさらばだ。これから、新しい世界で、血沸き、肉躍る冒険が待ってるんだ!」

 楽しみ。今までの生活が馬鹿みたい……。ん、でも、美佳……。いつも、抜けた俺を見守ってくれた。今頃どうしているのだろうか。寂しくしてないか、心配してないか。やっぱり、親友がいない、置いてきてしまったっていうのは心残りがある。

「リュウさん、私がいますよ。この世界には、新しい生活が待っています。前を向いていきましょう」

「そう、だな」

 それでもやっぱり物思いしてしまう。

 眠れない。あまりに静かすぎるのだ。石造りの建物、厚い壁に遮られているからだけではない。道路を走る車のタイヤ音がないのだ。カーテン越しに差し込む街灯の明かりもない。灯火が消されると真っ暗だ。恐怖と無力感を感じる。昔の人が幽霊とか考えたのもわかるかも。


 が、そこは俺。少し眠気がやってくると、一気に眠りへ落ちていく。

「うん、よく寝るぞ」

 上掛けにもぐり込んだ。


 という訳で、現代から異世界に勇者召喚された高校生リュウと、現代に飛ばされてしまったハーフエルフのリュー、二人の物語です。リューとリュウのお話が交互に展開します。原則、タイトルに偶数番号がついた、「リュウ」とつく部分が異世界でのお話、奇数番号がついた、「リュー」とつく部分が現代日本でのお話です。異世界では現代人のドタバタ劇、現代では異世界人の見た現代風刺で行けたらと思います。異世界転生を読みたい方は偶数番号を、現代風刺を読みたい方は奇数番号を読めば楽しめる作品を目指します。

(初めての試みなので、両方読まないとダメかもしれません)

 よろしくお願いします。


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