19. リューと焼き魚と再びお風呂と
19. リューと焼き魚と再びお風呂と
「ご飯ですよ」
母親に呼ばれて1階に下りるよ。今日も香ばしい匂いがする。パンとは違う香りだね。どんな料理だろ。
ええと、テーブルの上に並ぶのは……お魚だ! きれいに焼き目がついて、お皿に載っている。故郷の村でも、近くの川で魚を釣ることはあったけれど、たまにしか釣らないご馳走だったよ。海に近いところだと、よく魚を食べると聞いたこともあるけれど。
さて、テーブルの上には、尾頭付きが、1匹、2匹、3匹。
「一人1匹!」
こんなに獲っていなくなっちゃわないの? って思っちゃう。川魚だと、この大きさのは、淵に1匹くらい、大きくなるのに時間もかかるから、何もない日のために3匹も釣ったら、あっという間にいなくなっちゃう。
「こんなにたくさん、それにとっても大きい」
不思議そうな顔をする母親。あ、そうか、前も食べたことあるんだった、この体の前の持ち主は。
「ええと、今日のは」
あわてて付け加えるよ。「今日は何かの記念日?」という一言は急いで飲み込む。きっと昨日の鶏肉と一緒で、この世界だと、こんなお魚も普段から食べるんだ。
「豆アジじゃない。今日のは小さめよ。いつもスーパーでこれくらい買ってくるでしょ」
え、いつもこんなに買ってくる? スーパーが何かは分からないけど、買い物をする場所なら、たくさんの人が買うんだろうな。こんな数どうやって釣ってるんだろう。
とりあえず置いておこう。これ以上話したら、また、この世界の「あたりまえ」を聞いちゃう。
「はは、そうだね」
その場を取り繕うよ。
「いただきます」
3人で手を合わせて食べ始める。さっそくお箸で身をほぐす。すっと箸が入る。前の世界でよく売っていた干し魚と違って、とっても柔らかい。口に運ぶよ。ふわふわ。クセのない味。噛みしめると、かすかに甘い。塩が振ってあって、いい香り。とっても美味しい。
食べ進めていくよ。お魚、少しぐちゃぐちゃになっちゃう。お箸が上手く使えないんだ。この体の前の持ち主、お魚は食べ慣れてなかったな、不器用だよ。
さて、身を食べ終わったら今度はワタ、内臓だよ。骨をよけながら箸を進める。うーん、苦い。けど美味しい。ご飯に合うね。
「そんなに急いで食べて。小骨があるから気をつけなさ……え!?」
「なに?」
内臓をすっかり食べ終えて、ご飯を飲み込みながら答える。次は小骨だね。
「骨、ワタ」
「ごめんなさい、ワタは食べられたけど、背骨は固くて食べられなかった。もったいない」
「残さないの?」
「!?」
目が飛び出しそう。貴重なお魚、こんなに栄養があるものを残すなんて。よく見ると、父親も母親も、骨はきれいに残している。
少し考えてみるよ。そっか、このあとよく煮て、干して、すりつぶすんだね。故郷の村でも、お祭りのご馳走の魚の骨は、後でそうやって食べてたもの。
「いつも苦いって言って捨ててたじゃない」
そんな、え、え、え、食べられるものを。
「びっく……」
言いかけて止めるよ。これ以上驚いてたら、またお昼みたいなことになっちゃう。
「あはは、たまにはね。苦さは大人の味っていうから試してみた。やっぱり苦いね」
さて、お互い落ち着いてきて、食事も終わったところで、
「リュウ、今日も早めにお風呂入っちゃいなさいよ」
「え!?」
お風呂って、あのたくさんのお湯の、だよね。あの量のお湯、また準備したの? 固まっちゃう。
「早く。冷めちゃったら、ガス代もったいないでしょ」
そりゃそうでしょ。「ガス」が何かは分からないけど、この世界には炎魔法はないから、あんなにたくさんのお湯を沸かすには燃料代かかりそう。薪にしたら何抱え分にもなるよ。まあ、炎魔法使う方が、魔力を消耗するから高くつくけど。
急かされてお風呂へ。途中シャリアに声をかけられる。
「リュー、一度自室へ戻って、替えの下着と、寝間着を」
言われるままに、替えの服を持ってくるよ。
脱衣所で服を脱いだら、引き戸を開けて、温まった浴室へ。浴槽の蓋を開けると、
「……。」
昨日と同じだけのお湯が湯舟にいっぱい。手を入れてみるよ。温度も昨日と一緒だ。シャンプーと石けんで体を洗って、シャワーで泡を流して湯舟へ。
ちゃぷん、今日も体を浸すよ。温かい。気持ちいい。たっぷりのお湯の中、一日の勉強と、スマートフォンを見つめるのとで凝り固まった体がほぐれていく。
「はあ~」
目を閉じて、心地よさに浸る。
もう少し、って思うけど……。お湯、冷めてきちゃった。母親、まだ入ってなかったよね。これ以上冷ましちゃいけないや。蓋を閉めて、浴室から出るよ。
新しい下着に着替えながら、シャリアに話しかける。
「そういえば、この下着、昨日お風呂に入ったとき替えたばかりだよね。また洗うの? 大変そう」
「大丈夫ですよ。それより、体が冷めないうちに、早く着替えちゃってください」
頷いて着替えを済ませて、廊下で肩にとまったシャリアに話しかける。
「ねえ、2日も続けてこんなぜいたくな生活していいの? この家は貴族でも地主でもないんだよね」
「しー。静かに。父親、母親に聞こえますよ。自室に戻りましょう。続きはそれから」
「う、うん」
なんだかもやもやした気持ちのまま、階段を上っていくよ。