18.リュウと魔法スキル
18.リュウと魔法スキル
いつも通りの豆スープと固いパンの夕食を済ませると、俺はベッドに入る。
「今日もいろいろあったなあ」
IFがささやきかけてくる。
「そうですね、リュウさん。今日は眠りましょう」
「そいやさ、何か忘れてる気がするんだよね。何だっけなあ」
何かが頭の片隅に引っかかったまま、俺は眠りに落ちていく。
「リュー、リュー、起きてください」
お姉さんの声が聞こえる。またか、というこの朝のサイクル。
お姉さん、だんだん声が大きくなってくる。
「リュー!」
「今日は月曜、また仕事の日ですよ」
「うーん、分かってる」
「分かっていたら起きてください!」
眠い目をこすりながら起き上がる。
「今日はまた訓練ですよ」
着替えを持ってきてもらって着替えると、いつも通り食堂へ。豆の味しかしない薄いスープを飲みながら考える。
「今日は何が待ってるんだよ全く」
「何か言いました?」
「いやさ、せっかく異世界に来たんだから、走り込みとか筋トレとかだけじゃなくてさ。ほら、剣術でエイやとか、魔法でパッとかできないかなーって」
まあ、そう都合よくはいきませんよねー、と言いかけたところで、伝令の兵隊さんやってくる。
「大魔導師様がお待ちだ。至急」
お、これはもしかして?
お姉さんと兵隊さんに連れられて、大魔導師が待つ部屋へ。連れられてきたのは、勇者召喚に使われた部屋だ。いつか見た白ひげの大魔導師が口を開く。
「リューよ、これから魔法適性の試験を始める」
お、お、お。
「本来なら、魔法適性は小さい頃から鍛えながら見ていくのだが。今回は王国秘伝の適性付与魔法を使う」
てことは、つまり。
「どんな魔法適性があるか一発で分かる。そして同時に使えるようになる」
キタコレ、魔法スキル鑑定ってやつじゃないですかwkwk
「適性付与魔法は高度な魔術ゆえ、王国きっての魔導師陣で行うぞ」
どんなスキルが引けるんだろ、期待で胸が膨らむ。
一人の若い魔導師のお兄さんが出てくる。
「それではリューよ、魔法陣の中に立って」
俺が中央に立つと、魔法適性付与が始まる。
「グラント・リュー・スキル・ファイヤ!」
「グラント・リュー・スキル・アイス!」
うん、炎とか氷とかの魔法を使えるようにする魔法かな。
「効かぬの」
あれ、基本的な魔法が使えない? バンバン魔法スキル使えるようになるんじゃないの? いや、けど、本当に役に立つレアスキルは後から出てくるじゃないか、テンプレだと。
「グラント・リュー・スキル・ウィンド!」
ブラスト、ブライトネス、ダークネスと続くけれど、魔導師の顔は変わらない。
「グラント・リュー・スキル・サンダー!」
うーん、何回目の呪文だろ、魔導師のお兄さんだいぶ疲れてきたみたい。息が上がってる。
「グラント・リュー・ヒール!」
ふと、体が軽くなって疲れが取れる。効いた! ヒールって、ええとなんだっけ、そうだ治癒魔法だ。体力の回復とかできるやつ。使えるスキルじゃん、いいね。俺、白魔導師様だ。
見上げると、魔導師のお兄さん、まずそーな顔してる。
「こら、間違えているぞ。『スキル』が抜けているではないか。回復魔法をかけてどうする」
ちょっと待った。さっきまでファイヤとかサンダーとか言ってたよな。そのとき「スキル」つけ忘れてたら、俺、丸焼けになってたのかよ!
疲れ果てた魔導師のお兄さんが引っ込んで、別の魔導師に交代する。
「グラント・リュー・アイ・オブ・イーグル」
「グラント・リュー・アーム・オブ・ベアー」
うん、次は動物の特徴か。いいやつ引きたいな。
なかなか効かない。いや、そろそろ何か来ないの……、
「グラント・リュー・ペインフル・バック・オブ・ミュール」
ん、なんだか体の感覚が変わった気がする。
「あ、効いちゃった」
「効いちゃったって、お兄さん、心の声が漏れてるよ。その前にミュールって何さ」
大魔導師が言う。
「ラバ。馬とロバを掛け合わせてできた中間種のことだな。重い荷物を長時間運べる。加えて、粗食にも耐える生き物だ」
「てことは、俺、重い物も軽々運ぶ怪力を手に入れたのか!? やり、けっこういいスキルじゃないか」
「いや、軽々、というのは違うな。重さはしっかり感じる。背中や足が壊れなくなるだけだ。粗食に耐えるというのも、小食でも動けるというだけで、腹が減るのは変わらん。ついでに、頭脳はロバに似て、少々愚鈍になる」
「おい! なんて魔法かけてくれたんだ!」
「口ごたえするあたり、頭脳はあまり変わっておらんようだの」
「バカにするな!」
「馬でも鹿でもないからよいだろう」
「そういう問題じゃない!」
「さて、そんなことはさておいて、魔法適性付与を続けるぞ」
その後もスキル鑑定は続くけれど、どれもいい反応がない。
ふらふらになったところで、体育教師が入ってくる。
「大魔導師様よりお聞きした。リュー、ラバの適性付与魔法がかかったようだな。さっそく、能力を伸ばすための訓練を組んだ。明日の朝から私が稽古をつけるぞ」
日が落ちて、自室への帰り道、頭の中は嫌な予感でいっぱいだ。そう、体育教師が訓練ってことはお察しだよ。
翌朝、中庭で待っていたのは、予想通り……。
「土嚢を背負って持久走だ。中庭100周、そのあと、腕立て、背筋、腹筋それぞれ1000回ずつだ!」
「なんで魔法のトレーニングが持久走なんだよー!」
背中に食い込む土嚢を背負い、俺は中庭を走り続ける……。
作者マイページには完結済みの作品があるので、よろしければそちらも読んでいただけると幸いです。