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12. リュウと礼拝所

 うーん。目が覚めた。

 まだ暗いな。今日は日曜だし、もうちょっと寝ていても文句は言われないでしょ。二度寝の準備。

 ドンドン、荒っぽく扉を叩く音がする。召使いのお姉さんが入ってくる。

「お目覚め下さい」

「なんで? 日曜でしょ」

「日曜だからです」

「日曜は労働の日じゃないんでしょ」

 この会話、どっかであった気がする。

「日曜は礼拝の日です。朝から正午まで礼拝です」

「こんな暗いうちから起きてお祈りかよ」

「もう遅すぎるくらいです。王宮中の人々が集まるので、礼拝堂に入って並ぶのに時間がかかります」

「分かった。準備すりゃいいんでしょ」

 お姉さん、礼拝用の服を持ってきている。上質だけど華美じゃない服、礼装っていうのかな。着替えさせてもらう。

 食卓のある部屋へ向かう。お祈りを唱え、目を開けると、この世界3度目の豆スープ。ほんとこればかりかよ。文句を言っていたら間に合わないので急いでかき込む。


 お姉さんに連れられて、長い廊下を歩いていく。今日の移動はけっこうな距離がある。王宮の端にある礼拝所に着いた。大きな建物だ。だいぶ人が集まっている。中に入るともう満員だ。

「俺の席は、っと」

 前の方に進もうとすると、お姉さん、俺を引っ張って、後ろの席に座らせる。

「俺、勇者じゃないのかよ。特別席」

「陛下が一緒に祈るこの礼拝所に入れるだけで特別なのですよ。召使いや従僕達は長い間持ち場を離れることはできないので、各所の別の礼拝所で祈ります。人は神の前に平等といいますがこれは仕方ない」

「有名無実じゃないか。だったら王様は玉座の間の近くに礼拝所作って拝めば政務の時間が取れていいだろ」

 痛いところ突いちゃったかな、お姉さん苦い顔をする。無視される。

「リュー様に恥をかかせる訳にはいきません。礼拝は神聖で間違ってはならないものです。わたくしが横で説明しますので、周りを真似て同じ動作を。そのための隅の席です」

 ならしかたないなあ、と周りを見回す。壁に目が行く。様々な絵や言葉が書かれている。教義を説明する、いわゆる宗教画ってやつだ。視線を前に移す。礼拝堂の前面には絵も字もない。ただ、木でできた、大きな円形の輪がかけてあるだけだ。

 こういうところって、色鮮やかな絵や像があったり、金銀宝石で飾られていたりするもんじゃないの? どっかに説明ない? あった。


“ただ天の窓に向かって祈れ、汝の主はその向こうにあらせられる、そこに世俗の富は要らぬ”


 なんかよくわかんないなあ。お姉さんの方を見ると解説してくれる。この国の教えだと、神様以外に祈りを捧げてはいけない。偶像を作って拝むことは禁止。聖職者はいるが聖人はいない。

 神様が地上をのぞくという「天の窓」をシンボルとして、その向こうの神に祈るんだそうだ。「天の窓」を完全さの象徴でもある円で表すことは問題ない。ただし、富める者も貧しきものも救われることを示すため、金銀を使うことは禁じられている。

 ずいぶんと厳しいんだな。


「陛下のおなり」

 声が響き渡る。その場の全員が一斉に膝立ちになる。俺も頭を垂れ、視線を下に向ける。向けながらも、周りを参考にするふりをして、ちょっとだけ見回す。王様が家臣を従えて進んでいく。やっぱし偉い人は最後に社長出勤なんだな。じろじろ見ちゃいけない、再び視線を戻す。

 王様が席に着いたところで礼拝の合図。

「跪いて、祈りの言葉を3度唱え平伏します。終わったらまた跪いて祈りの言葉を唱えます。これを何度も繰り返します。祈りの言葉は……」

 お姉さんに教えてもらったけれど覚えられない。見よう見まねでなんとか繰り返す。

 石の床に跪くわけだから膝が痛い。かなりキツイな、このお祈り。


 やっと終わったところで今度は説法だ。

 聖職者は壇上には上がらず、式典とかでよくある、いわゆる司会者席にいる。

 説法の内容は、謙虚に、欲望に打ち克ち、節制に努めることの大切さ、祈りの大切さ、教えに基づいて生き、それを実践するやり方などなど。

 だんだん眠くなってくる。聞き飽きたと壁画を見回し始めたところでお姉さんに肘鉄食らう。容赦なしのガチの強さだ。前に向き直る。

 差し込む光が強くなってきたところで説法が終わり、皆の膝立ちの中、王様が退出する。

「疲れた。こんなの毎週やるの?」

「そういうことを言わない。私たちにとって、教えに生きること、その中でも祈りを捧げることは特に重要なのです。飢え、病、戦乱、明日を迎えられないかもしれない理不尽だらけの世の中で、信じられる絶対がある。それだけで、希望、幸福、天からの祝福なのですよ」

「そうなの? 元の世界だと無宗教って答える人、かなり多いけど」


 お姉さん、ふらっと姿勢を崩す。慌てて近寄って支える俺。お姉さんにお説教されることはあっても、助けるのなんて初めてだよ。なんとか立ち上がって言う。

「信じるものがない……。異世界は想像の及ばないところのようです」

 こちらこそカルチャーショックだよ。中世には宗教が全てを支配したというけれど。まさか、「無宗教」で卒倒されるとは思わなかった。この世界、想像が及ばないよ。


 直近2部分では、教えについて取り上げました。この部分は、特定の宗教を信じる人、または信じない人、および信条としての無宗教の人を誹謗中傷する意図で書いたものではありません。

 何よりもお祈りという異世界人を通して、信仰に生きていた中世と、そことの比較から見えてくる現代を描くためにあえて最初の方に持ってきました。

 21世紀、現代の社会でも、教えや信条を巡って、論争あり、紛争あり、社会問題ありです。そして、教えが強力な社会規範となっている地域も多々あります。現代風刺を謳う以上、避けられないテーマです。そして、近いうちに――いや、現在もうかもしれませんが――日本に住む人、議論しなくてはならなくなるでしょう。この物語でも再度取り上げることになると思います。

 なろうでよく登場する「神」も、ちょっと考えて、ほんの少しリアリティ出すだけでこういうことになるわけです。では、我々物書きは教えやリアリティをもつこういった存在を描くべきか。ボールはこのあとがきを読む読者の手にあります。なろうで突き詰めることはおすすめしませんが。

 ではお前はどうかと問われると。異世界人の目を通した空気を読まない馬鹿者を続けることをここに宣言します。


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