三次元アクションゲーム!!
いっけなーい。遅刻遅効!!(申し訳ない)
「それではテラちゃん、地上都市に行きましょうか」
「タイトお兄さん、わたし、その前にギルドによりたいんだけどいい?」
喫茶店を一歩出れば多くの人目に晒されるのだから、そこはもう舞台と呼んで差し支えない。
従って、私とタイト2は示し合わせたようなタイミングでそれぞれが己に課した役割を演じ始める。長い付き合いなので、こういったお互いのプライベートとの切り替えのタイミングも心得たもの。
現在の設定は地上都市に行きたい迷子の幼女と道案内する騎士のお兄さんだ、と思う。打ち合わせはしていないので、タイト2との認識には若干のズレがあるかも知れないが。
ちなみに、こうしたシチュエーションでは手を繋ぐのが鉄板の演出ではあるのだが、ロールプレイとは言え、男と手を繋ぐ趣味などお互い持ち合わせていない、だろう。
なので、第二案として、騎士の後をちょこちょことついて行く幼女という構図を採用している。
「ギルド?そういえばテラちゃん、何か用事があるみたいな事言っていたね。タイミング的に考えて、チュートリアルダンジョンのクリア報告とかかな?」
「うん。だからお兄さんは少し待っててね」
「うーん、テラちゃん。どうせならお兄さんと一緒に行こうか。お兄さんもギルドに丁度用事があったんだ」
ん?この言い方ですと、タイト2も一緒にギルドに入るみたいに聞こえるのですが。確かあそこは個人スペースでしたよね。
「でもお兄さんも私もプレイヤーだから、一緒だとダメなんじゃないの?」
「あぁ、個人スペースの事ですね。あれは正しくはプライベートスペースと言って、パーティメンバーなら一緒に入れるんですよ」
「ふーん。そうなんだ」
「はい、そうなんです。だからお兄さんとテラちゃんで、パーティを組みましょう。やり方は分かりますか?」
えーと、確かさっき喫茶店を出る前に交換したパーソナルを表示して、パーティ申請ボタンを押せば出来たはずですよね。
《タイト2 様にパーティ賛成を送信しました》
「えと、これであってますか?」
《タイト2 様がパーティ申請を受諾しました》
「うん。大丈夫だね。じゃあ準備できたしささっと用事を片付けちゃおうか」
――天空都市 ラストル・ギア 中央第一ギルド
(入るのは)数時間ぶりのギルドは、もう日が傾き始めた時間帯というのもあって、ダンジョン帰りらしきNPCの冒険者がかなりの人数見受けられた。
受付も相応の人数が並んでいるので、私は一人でちょこんと最後尾に並ぶ。
タイト2はと言うと、ギルドに入るなり「お兄さんは向こうのマスターに用があるんだ。冒険者の人達はみんないい人ばっかりだし、テラちゃん一人で列に並べるよね?」と言って、私が首肯するなりさっさと飲食スペースの雰囲気のあるマスターと話しに行ってしまった。態々一緒に来た意味よ。
故に、なぜか良い匂いのする紳士なおっさん達に囲まれている状態のひとりぼっちの幼女の図が完成した。
微妙に事案では?
並んでから少し経つ頃には、周りのおっさん紳士どももちょーっと決まりが悪いのか、ちらちらそわそわしだし、一、二分経つ頃にはそろって「嬢ちゃん、先に並んで良いぜ」と言って順番を譲ってくれた。
中身(19♂)と外見が一致していれば譲られることも無かったと思うと申し訳なくて、「でも順番は守らないと」とあくまで幼女らしく遠回しに断ってみたものの、寧ろそれがダメ押しになったみたいで。
「譲らなかったらおじさん達がギルドの怖ーいお兄さんに怒られちまう」と余計に気を遣わせてしまい、結果として並んでから三分あまりで順番が回ってきてしまった。
「えぇっと、テラちゃんで合ってたよね?ここに来たって事は始まりの門はクリアしたって事で良いのかな?それとも何か分からないことでもあったのかい?」
という経緯があって、現在私は再び受付の爽やかお兄さんに相まみえているわけだが、どうにも私はこのお兄さんに少々苦手意識がある様で。
記憶にあるそれよりも3割増し見えるにっこにっこ笑顔が若干のトラウマッ!!
こう、なんだろう。この人の所為で今の幼女ロールを選択することになったからだろうか。言いがかりに違いないがトラウマってそんなもんだろう?
あと、あれだ。この人、凄い私の事を下に見てくるんだよ。
あぁ見下してる、とかそういう意味じゃなくて、よく言えば相手に合わせた対応、悪く言えば子供扱い。しかもかなり過剰気味で、もう少し下がれば赤ちゃん言葉とか使ってきそうなレベルで。
「うん、ゴールまで行けたよ」
だがしかし、『私』が内心でどう思って言いようと『テラ』として表に出してはいけないのだ。とは言え、少々笑顔が硬くなってしまったのは見過ごして欲しい。
「そっか~。テラちゃんはこんなに小さいのにクリアできて偉いね~」
突然ですが『忍耐』って有名な七大罪と並び称される七美徳に数えられるほどに尊いとされるものなのですよ。
かくゆう私も幼少の頃より親や先生方から「我慢できて偉いね」と褒められることも多くてですね、忍耐には多少の自信があるんですよね。はは。
Cut!!!!
《報告が完了しました》
《ギルドの貢献度が上昇しました》
《貢献度が上昇すると、ギルドと連携している店舗での割引サービス、ギルドが管理する『門』の入場許可、一部職業の上位職の条件解放、などの様々な恩恵があります。
貢献度は各『門』のクリア報告、ギルドで受けられる依頼書の達成などで獲得できます》
――天空都市 ラストル・ギア 教会前広場
私がゴリゴリと精神をすり切らしている間に自分の用事をさっさと済まし、『開闢の門前に集合』とメッセージだけ残して行きやがったタイト2を追いかけギルドを後にする。
あのストレス地獄から解放されても、衆目がある限り幼女の皮を被らなければいけないのがロールプレイヤーの辛いところ。本当は今すぐ何かにこの気持ちを叩きつけたい衝動に駆られているのだが、そう言う訳にもいかないのだ。
表面上はにっこりスマイルを浮かべてはいるものの、心なしか足が重い気がする。
いつもより体感時間が長かった広場までの道のりを歩ききり、開闢の門に近づいていく。
「やぁやぁテラちゃんどうしたんだいそんなに暗い顔して。何か良くない事でもあったのかい?」
開闢の門の周囲に展開された個人スペース、改めプライベートスペースに入るなり門を背にして立っているニヤニヤと歪んだ美形顔が一つ。
私は無言で助走を加えた右ストレートを敢行する。身長差がありそのままでは顔面に届かないのでジャンプもおまけに付けている。
しかし相手も伊達に長い付き合いをしていない。予想をしていた反応なのだろう。私が地面を蹴り飛び上がった直後を狙って左足を軸にした横ステップで躱しに入る。
だがしかし、私だって考えなしに突っ込んだ訳ではない。思考入力でアイテム欄を操作し使っていなかった左手にヒノキの棒を出現させ、勢いのまま投合する。ただしタイト2ではなく数メートル先にある開闢の門に向けて。
振り抜いた手の反動を利用して空中で前方に半回転。ヒノキの棒が開闢の門にまっすぐ当たった瞬間を狙って足場にし、再びタイト2に接近。
今一度固めた拳をこちらを見て唖然としているタイト2の顔面に勢いよくぶつけてやると、タイト2は無様に後頭部で地面と熱いキスを交わし、私はカレイに着地を決める。
☆快・感☆
かなり良い手応えを感じる一撃ではあったが、都市内部ではいくらボコボコにしても1ダメージしか食らわない仕様になっている上、それも一瞬で回復するので、実際は派手にすっころんだだけだったりする。
「イテテ、何ですかいきなり。私は何も悪いことなどしていないというのに」
その証拠にタイト2は数秒もせずにケロッとした顔で起き上がって来た。序でに、演技っぽい口調で悲劇の主人公みたいな台詞を吐く元気もある様だ。
「むしゃくしゃしてやった。後悔はしていない」
「はぁぁ全く。困ったものですねぇ。
しかし、今回も私の負けですか。覚えてませんが通算にして50敗くらいですか?」
「覚えてるだろ。54敗だよ。今回も俺の勝ちだな」
タイト2と知り合ったのは2年ほど前なのだが、その当初から今回の様な勝負は時折行っていた。勿論今回とは逆に、こっちが煽ってタイト2がふっかけてくるパターンも同様に。
戦績は54勝と12敗。我が軍は圧倒的だな。
「それにしても相変わらず凄い運動神経していますね」
「自粛中もイメージトレーニングは欠かさなかったからな」
「もっと私に花を持たせてくれても良いんですよ?」
「悪いが俺の辞書に『手加減』なんて文字はない、知ってるだろう?」
「でしょうね」
閑話休題。
「で、その『地上都市 パライゾ・ギア』ってのにはどうやって行くんだ?」
「あぁ、地上都市にはそこの開闢の門から行けますよ。ギルドでチュートリアルクリアの報告をした後なら解放されているはずです」
「ほーん。開闢の門って『My Gate』に行くとき以外に使うんだな」
「えぇ、かなり頻繁に。天空都市は広いですから、近いところにはないですけど、少し遠くまで行くと所々に似たような広場がありまして、そこはこの開闢の門から飛べるワープゾーンになってるんです。
勿論向こうにも開闢の門のレプリカが設置してあるので相互に飛べます。
地上都市も開放した後に広場が利用可能になりました」
空を飛んでるハズなのにその様子が今までかけらも見れなかったぐらいにはこの天空都市は広い。だからいずれは何かしら移動手段が与えられるとは思っていたが、既に使用可能になったならシステムメッセージで知らせて欲しかったな。
まぁ遠出する様になったタイミングで伝える手はずになっていたのかもだけど。
「ん?解放する前はどうしてたんだ?」
「近くの森に通じた門があるのでそこから。何だったらそっち使います?」
「いんや、先輩方の恩恵に預かるとするよ」
「ふふ、でしょうね。じゃあ行きましょうか『Gate』」
「『Gate』」
タイト2は手元に鎧と同じ白銀の『鍵』を、私はいつの間にか淡いピンクにカラーリングされていた『鍵』を、出現させた。
その鍵を開闢の門に向けると、いつも通りの黒い穴と数十はある行き先のリストが表示される。
私は一瞬早く光になって消えていくタイト2を横目に『地上都市 パライゾ・ギア』の文字を選択したのだった。
『握った拳を相手の顔面にシューート!!
超、エキサイティン!!
三次元、アクションゲーム!!』
これ入れるか迷った。迷った末に一部をきりとってタイトルにするに留めました。
ちなみに、このけんかっぽいのは、相手のストレスを発散させてあげる、という優しい理由もあったりします。
8話に喫茶店の名前を追記しました
喫茶店「ユヌ プティットゥ ポーズ」です
フランス語でちょっとしたひと休みという意味らしいので、ちょい高級感もでてるし丁度良いかなと
戦闘用メニューだとヒノキの棒は装備欄に名前が載りますが、通常メニューだとアイテム欄にも記載されます。今回はあくまで装備ではなくアイテムとして出現させており、STRの+1補正も適用されません。
あと、町中では特殊な状況下に無い限りステータスが全員レベル1並に落ちます。触れただけで全てが壊れてしまう悲しい化け物になってしまうので。これがなければレベル3のテラにレベル60、それもVITが高い騎士系統の職業に就いているタイト2にダメージを与えられません。
『忍耐』七美徳に数えられる時もあるし、数えられない時もある。
しかしこの世界の片隅にでもちょこんと載ってさえ居れば『そうだ』と言っても嘘にはならないのですよ。
受付お兄さんとの会話は正しき前例に従い大部分をCut!!ですね。
え?読みたい?
san値が削れますが良いんですか?