幼女の皮を被った……
予想外に反響があったので。急いで
――天空都市 ラストル・ギア 教会前広場
《プレイヤー名 テラ がログインしました。チュートリアルを行いますか?》
ログインが完了し、まず目に入ってきたのは二つ。正面の立派な作りをした白い教会と、右上のシステムメッセージ。
次に目に入るのは、自分の居る場所をぐるっと囲むようにして建てられている、RPGならではの武器や防具、道具屋から始まり、食料品を扱う店や、変わったところではマッサージまである多種多様なショップ類。
アイコンの見えないNPCの方々や、アイコンのあるプレイヤーが入り交じって大変賑わっている。
それから、広場の中央。丁度ログインした時に背中を預けるようにして建っていた、巨大な門。よく見てみると微妙に浮いているので建つという表現はおかしいかも知れないが。
これがホームページやゲームのホーム画面で描かれていた『開闢の門』、ですかね。まぁ今は取り敢えずチュートリアルの方を先に片付けてしまいましょうか。
《ではナビゲーションを開始します》
ナビの開始と共に、視界の左下の方に赤い『!』マークが表示が。そこに意識を向けると、今度は視界の八割方がメニュー画面によって圧迫される。
補足しておきますと、歩きながら開いてしまえば事故が起こりそうなレベルで視界が塞がっていますが、何も問題はありません。
こちらも大抵のVRゲームには搭載されている機能なのですが、このメニュー画面を開いている間は強制停止、或いはオートウォークモードに切り替わるので事故の心配が無いのです。
ちなみに、このメニューは思考入力できる型なので、操作に慣れさえすれば視界には表示させずに操作することも可能です。
《こちらがメニュー画面です。パーソナルの編集やアイテムの管理、お知らせの確認にログアウト、運営への報告などもここから行えます。更に詳しい説明は必要でしょうか?》
「いえ、進めて下さい」
今度はメニュー画面の左上にあるパーソナルの欄が赤く光る。
意識を向けると、メニュー画面に重なるようにウィンドウが展開された。
《こちらの画面ではパーソナルの編集が行えます。パーソナルはプレイヤーの第二の顔とも言える物ですので、しっかりと入力することをおすすめします。更に詳しい説明は必要でしょうか》
パーソナルは、プレイヤーネームと称号、自分のアイコン(デフォルトは無装備無表情のアバター)、所属団体、簡単な自己紹介などの欄が表示されている、プレイヤーの名刺みたいなものです。
フレンド登録の際に交換する必要がありますし、パーティを組んだときに、パーティメンバーのパーソナルを見ることも可能(非公開設定にもできるが、信用が落ちる)だという話です。
また、NPCに対する身分証名書の代わりにもなるのだとか。
ちなみに、一部有料ですが追加オプションでかなり自由にいじれるので、人によってはかなり個性を出せるそうです。
これについては、大事な物なのでじっくり文面を考えたいですし、一反後に回して次に行きましょうか。
「続けて下さい」
《メニューの説明は以上です。視界右下に表示したミニマップの案内に従い、中央第一ギルドを目指して下さい》
ピコンというSEとともに右下にミニマップが追加された。いくらかズームアウトできるようだが都市の広さに比べてかなり近めのマップだ。この広場を覆うか覆わないかというぐらいの表示域で、まぁそれでも半径300~500mはあるだろうから十分何だが、う~ん微妙なところ。
ただこれはキャラの成長と共に広がる仕様なので、レベル1でこれなら十分ではある。
中央第一ギルドの場所は最初に正面に見えた教会の真後ろ。中央から徒歩にして3、4分のところにあった。ギルド内は共有ではなく個人スペースになっているようで、入り口から入っては消え、いきなり現れ、をみていると「おぅげぇむ~」って気分になる。分かりづらいか。
――天空都市 ラストル・ギア 第一中央ギルド
《ギルドの受付で簡単な説明を受け、登録しましょう》
中に入ると、意外な事にカフェといっても通じるようなお洒落な雰囲気の空間が広がっていた。
直裁に言ってしまうならば、もっと雑多でぼろっちい内装をイメージし、期待してすらいたのだが。
飲食スペースでくつろいでいる客達はいかにも冒険者、という様ながたいの良いおっちゃん達だが、その飲む動作、食べる動作は決して粗野ではなく、寧ろ気品すら感じる……いや気品は流石に見間違いですかね。
ともかく、他のVRゲームや創作物と違って野次馬上等けんか大上等! という感じではないようだった。
ところで私は、こう見えて気になったことは直ぐに誰かに聞く、或いは軽く調べるなどして取り敢えずの答えをださないと落ち着かないタイプなのですが。
今回も、まぁ流石に当人達に「あなた方はもっと馬鹿騒ぎする様な方々だと思ってました」など言えるはずもないので、いや勿論実際にやるならもっとオブラートに包みますがね。
その辺りを心得ていそうな受付の爽やかお兄さんに、登録ついでにそれとなーく聞いてみる事にしましょうか。
「あ」
受付に近づいて、あの、と声をかけようとしてはたと立ち止まる。受付のお兄さんは外見幼子の私が緊張しているとでも思ったのか、どうしたのかな~? と、言いながらにこにこ顔でカウンター越しにこちらを覗いている。
ですが今はそれどころでは無いので、お兄さんには今暫く待っていて貰いましょう。人差し指をつんつんしながらもじもじしてればそれっぽく時間は稼げるはずです。
さらににこにこしだしたお兄さんを横目に思考を巡らせる。
最初の発言が肝心です。ここで今後のキャラが決まると言って良い。幼女キャラでいくか、素の状態、所謂TS男キャラっぽく行くか、今の状態、ニュートラルキャラで行くのか。
それぞれデメリットとメリットを上げていきましょう。
まず幼女キャラは、一番面倒くさい型ですね。比較的冷めた感じの男子高校生としては夢溢れる若干人見知りの女の子を演じるのは難易度が高い。ただ逆に言えば、演じるという目的に一番沿うのはこの型。
次にTS男キャラですが、これは圧倒的に楽でボロを出しにくいというメリットがあるものの、上になぞらえて言うなら、演じるという目的に一番沿わないのがこの型。
そしてニュートラル。男女どちらが話しても違和感がない現在の口調。多少幼女にしては大人びているという若干のデメリットはありますが、ボロもある程度は出にくく、普段と口調が違うのである程度演じる経験にもなっている。
悩んでいる内にお兄さんがしびれを切らしたのか、いつの間にかカウンターを出て来て、私の目の前で視線を合わせるように屈んでいた。
「何か用事があったんじゃ無いの?」
集中していてお兄さんの行動には気づいていなかったので、主観的にはいきなり目の前にニコニコ笑顔があった形だ。
急な展開に多少なりともテンパってしまった私は咄嗟に。
「あ、あの、えと、とうろく、する」
幼女の皮を被ったのだった。
ビザはお持ちですかぁ?
未熟な故に入れられなかった描写設定。
1、天空都市 ラストル・ギアは数百万人のユーザーを想定した作りになっているのでかなーり広いです。東京まるごと一個入るくらいに。それ故に教会前広場(中央広場)からは外を都市の外周が見えることは無く、一見普通の街と変わりません。だから主人公が空中都市から下を覗いて「あぁすげぇ浮いてるよ~」とか「見ろ、人がゴミのようだ~」とかならなかったのはそういうことです。
あと描写はありませんが、開闢の門周辺の10m
程も混雑が予想されるためギルド内部と同様に個人スペースになっております。本当は描写入れたかったんですけど力及ばず。
いつかこのコーナーがなくなり新コーナーが始まるまではお付き合いを。