盤外編:世界の中心で愛を眺める
クラスの中心人物の視点でお送りします。
この世界は、自分が観測しているから存在している。
いや、何も高尚な哲学の話をしようとしているわけじゃないよ。学生のほとんどが一度は罹患する思春期特有の病でもないし、ごく普通で当然の話をしているだけ。
自分が見ていない場所でも誰かの物語は進んでいるし、行ったことのない国も存在している。知らない何十億もの人だって生きているし、歴史上の人物だって恐竜だって実在したはず。
そんなことは百も承知で、だから私──中心が言いたいのは、この世界の主人公は自分だってこと。
だから、他人の人生の主役は自分ではないことを弁えているし、この世界がフィクションではないことも理解している。
でも、だからこそ他人の物語を眺めていたい。敢えて例えるなら、この世界は小説で、私が読者。いや、だから例えだって。
わかってるよ。人間は紙の上のインクなんかじゃないし、私を楽しませるための役者でもない。
仮に、そうまた仮の話になるけどさ、自分が培養液の中に浮かぶ脳髄ではないって断言できないでしょ。
この世界はシュミレーションではないなんて、証明できないわけでしょ。それでも私はこの世界を認識しているから、それでいい。
「ココさん、どうしたんですかボーッとして」
「ん? ごめんごめん、何をどこから話そうか悩んでたー」
学校祭の片付けをしながら、話がしたいと言ったクグルちゃんと会話をする。てっきり嫌われてると思ってたから、ちょっとだけ安心。
人の恋路を邪魔する奴が、なんらかの動物の類に蹴り殺されても致し方ないとは思うけども、私はクグルちゃんの邪魔をしたいわけじゃないんだよね。
でも、世界は物語で私は主人公で読者です。なーんて言うわけにもいかないしなー。完全に痛い人だと思われちゃう。
「別に、何もかもを話す必要はありませんよ。観測者を自称する貴女のことですし」
「んー。じゃあ正直に話すけどさ、私は主人公でクグルちゃんは登場人物なんだよね。勿論、私の世界の中でだけ」
「それは当然じゃないですか。私の人生の主人公は私ですし、ココさんはその世界の登場人物です」
話が早い。今までこんな一瞬で飲み込んでくれた人、いなかったよ。流石、今一番面白い物語の主役。
そんなクグルちゃんは、紙で作った飾りを手で細かく千切りながら、ゴミ袋に入れている。ちゃんと手も動かして偉いね。
「読者が物語に登場するなんて、観客が舞台に上がるなんてダメだよねー。わかってはいるんだけど、つい」
「私の人生はまだ発展途上で、完結した小説でも完成した舞台でもありません。だから、ココさんが登場することは変ではありませんよ」
「すごいねー、そんなに私に合わせて話せるんだ」
「別に凄くないですよ。ココさんの発言が変だとは思いませんし」
遠慮や気遣いじゃない、本当に私の発言を普通だと思っている声色と表情。恐るべし。
「でも、最近はちょっと出しゃばりすぎたかなって反省してるんだよー。今朝も先輩のこと怒らせちゃったし」
「単純に、相性が悪いんだと思います」
なるほど。他人に深入りしないクグルちゃんと、深入りされたくない先輩はベストマッチってわけだね。
与えられた情報だけで物語を楽しむのも観測者の務め。あまり探り入れたりしないように気をつけよう。
「それで、私と話すことはこれで全部ー?」
「いえ、世間話とかしましょうよ。ココさんに読まれてばかりなので、今度は私が読みます」
「私の物語なんて、面白くもなんともないよ」
「クラスの中心人物で、私みたいな人にも分け隔てなく接するという時点で面白いですよ」
「あはっ、何それー」
「他人の物語を楽しむのも良いですけど、自分の人生も楽しんでくださいね」
他人の物語を楽しむのが私の人生だと思っていたけど、改めてそう言われると思うところがあるね。
でも、しばらくは楽しませてもらうよ。完結するのを見届けられないのは残念だけど、先輩が卒業する展開までは読めるし。
「楽しんでるよー。私はとっても人生を謳歌してる」
「だと思いました。でも、私に深入りするのは構いませんが、私と先輩の物語には介入しないでくださいね」
「はーい。いくら女でも、百合の間に挟まろうとするのは有罪だもんね」
「それはちょっとわかりませんが」
間に挟まりたいわけでも、入りたいわけでもないんだけどね。
話が落ち着いたところで、シオリがメイド服を持ってやって来た。そういえば持って帰るかどうかってハカリちゃんに訊かれてたな。忘れてたよ。
「ココー。メイド服どうするって計が言ってるよ」
「じゃあそっちに行くねー。そんじゃ、また後でねクグルちゃん」
「はい。ありがとうございました」
「こちらこそー」
クグルちゃんは、随分と素敵な笑顔ができるようになったね。それも先輩のおかげかな?
ココは悪い子じゃないんです……(二回目)。




