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50日目:学校祭二日目〜練羽祭の終わり〜

学校祭編、完結。

 泣いてるのか笑っているのか、よくわからないけどめちゃくちゃ可愛い顔で焼きそばとたこ焼きを頬張る先輩。

 こういうのって、特別美味しいわけではないのについ食べてしまう。お祭りでもそうだけど、雰囲気って最高のスパイスだ。


「ねぇ莎楼。また名前呼んでぇ?」

「……また今度で良いですか」

「えぇー? 一回やったら何回やってもいいじゃん。実績解除じゃん」

「トロフィー獲得ですか。折を見て、たまになら言いますよ」

「えへへ。名前を呼ばれて嬉しかったの、初めてだったからさぁ」

「そうなんですか」

「うん。センパイがカサってあだ名を付けてくれたから解決したけどねぇ」


 名前を呼ばれたくないのって、どういう理由だろうか。

 以前に、私には名前を呼んで欲しいと言っていたから、てっきり呼ばれるのが好きなんだと思っていた。

 もしかして、親から貰ったものだから嫌なのかな。だからヒアさんからあだ名を付けてもらった、とか。


「私は、先輩に名前を呼ばれるの大好きです」

「ボクもあんまり名前を呼ばないもんねぇ」

「それは、どうしてなんですか?」

「だってぇ。あんまり名前を呼ぶとさ、どっかに行っちゃいそうな気がして」

「なんですか、それ」


 でも、名前を呼ぶのが特別なことって認識は理解できる。自分のものなのに他人の方が使うもの、って海外のなぞなぞであったな。


「そういえば、夏休みの日程を考えてみたんだけどぉ」

「お、細かく決めたんですか?」

「いや、そこまで詳細は考えてないんだけどね。七月中におばあちゃんに会いに行って、八月に北海道に行こうと思ってるんだけど」

「旅行申請を出さないといけませんね」

「お金とか大丈夫ぅ?」

「任せてください」


 貯金を全額下ろせば、足りなくはないだろう。あと、何か不要なものとか売って足しにしようかな。


「今から楽しみで仕方ないよぉ。早く夏休みにならないかなぁ」

「今週の土曜から夏休みじゃないですか」


 あんなに遠く感じていた学祭が、もうすぐ終わる。更に夏休みは目前。楽しいイベントの応酬に、頬が緩むのを止められない。

 北海道に行くからというより、先輩と行くのが楽しみだ。大切なのは、何処に行くかではなく誰と行くかだと思う。


『えー。その場で皆さん聞いてください』


 駐輪場近くのスピーカーから、校長先生の声が流れる。


『あと三時間ほどで練羽祭も終わる。明日は海の日で休み、明後日は今日の分の振替で休み。片付けは水曜日に時間を用意しているので、気にせず帰ってくれ』


「閉祭式はしないってことですかね」

「校長らしいねぇ」

「明日と明後日のご予定は?」

「明日は普通にバイトで、明後日は暇だよ」

「では、火曜日は空けておいてもらって良いですか」

「いいよぉ。楽しみにしてるねぇ」

「ありがとうございます」


 空になった容器を捨てるために立ち上がる。先輩の分も受け取り、屋台の近くにある水色のポリバケツに捨てる。

 振り返り、座っている先輩の元に戻る。


「残り時間、どうしよっか」

「私は、先輩と一緒ならなんでもいいですよ」

「えへへ」


 はにかみながら、私の手を握って立ち上がる先輩。可愛い。


「それでは、校内に戻って適当に見て回りますか」

「さんせーい」


 学祭が終わるまでの間、先輩を独り占めできる喜びを噛み締める。

 私のクラスは、打ち上げとかやるのかな。誘われることは無いだろうけど。


―――――――――――――――――――――


「かんぱーい!」


 誘われてしまった。しかも来てしまった。

 断るつもりしかなかったのに、ココさんに強引に連れてこられてしまった。まぁ先輩は先輩でクラスの打ち上げに行ってしまったし、別に良いけど。


「ほらー、どんどんお肉焼いていかないと」


 一番右端に座る私の左隣が杯さん、向かいに左々木さんとココさんと五十右さんが座っている。

 一応、話しやすい人という配慮だろうか。五十右さんと左々木さんはなんとなく気まずいけど、それをココさんに気取られるわけにもいかない。


「そういえば杯さん、メイド服ってどうするんですか?」

「持って帰ってもいいよ。素材の費用は学校の予算だし」

「そう、ですか」


 どうしよう、持って帰ろうかな。おうちデートの時に着たりしたら、先輩は喜んでくれるだろうか。

 あわよくば、先輩にも着てもらいたい。


「あー、クグルちゃん。先輩のこと考えてたでしょー?」

「えっ、はぁ? そんなことありませんけど?」

「そーいう顔もするんだね」

「やめてくださいよ、からかうの」

「ごめんごめん」


 どんどんお肉が焼けていく。それを皆、箸で取っていく。人が育てた肉を食べるのは少し申し訳ない気もするが、私も食べよう。


 排煙が間に合わないのか、煙が充満していく。それでも皆、楽しそうに歓談しながらお肉を食べている。

 あまり会話したことのない声と、普段聞き慣れない笑い声が煙の中で響いている。それをぼんやりしながら、なんとなく耳に入れる。


「茶戸ちゃん、先輩と楽しく回れた?」

「はい。……杯さんは、誰と回ったんですか?」

「名前を言ってもわからないと思うよ、一年生だから」

「なるほど」


 私も先輩と回ったわけだし、そんなに珍しいことではない。私は後輩と関わりがないけど。

 部活も委員会もやっていないと、後輩と接点を持つことなんて中々ない。それでも、先輩とは仲良しだけど。


「ココさんは、五十右さんと左々木さんと回ったんですか?」

「うん。来年はどうなるかわかんないけど、ねー」


 そう言って、左右を見るココさん。五十右さんは少しビクッとして動揺している。左々木さんは動揺を見せず、焼けたカルビを口に運んでいる。

 私も反応しないようにしないと。いや、ココさん相手に隠し事が通用する自信は無いけど。


「今から来年のことなんて、考えたくないですよ」

「先輩がいないもんねー」

「あのですね、なんでも先輩を中心に考えているわけではありませんから」

「怒ってる?」

「怒ってはいません」


 なんでもお見通し、みたいなところが少し不快。私と先輩のことに、あまり踏み込まないでもらいたい。

 私の心が狭いのだろうか。自分自身が他人に踏み込まないから、それを他人にされるのが嫌なのだろうか。軽く自己嫌悪。


「あ、そろそろ終わりの時間だね。お金集めるよー」


 ココさんが皆からお金を集めて、打ち上げは終了となった。

 飲みかけのジュースを一気飲みして、席を立つ。まだ終電に間に合いそうだ。


「それでは、お疲れ様でした」

「お疲れ様ー。今日は来てくれてありがとうね」

「……いえ、こちらこそありがとうございました」


 少し怒っていた自分に、また自己嫌悪してしまう。今度、ココさんともう少し話してみよう。


 お店を出ると、まだ微妙に空が明るかった。随分と日も長くなり、夜なのに肌寒くないところも夏を感じさせる。

 もう少しで楽しい夏休みが始まる。学祭が終わっただけで、まだまだ夏はこれからだ。


「次はどんなログボにしようかな」


 夜空を見上げ、煌めく星と、煌々と照らす月を眺める。

 家に着いたら、先輩に電話してみようかな。そして、さりげなくまた名前を呼んでみよう。どんな反応をするか、今から楽しみだな。

これにて、個人的に『第一部』だと思っている部分が終わります。『第二部』もよろしくお願いします!

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