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47日目:七夕、晴れ(後編)

七夕デート、後編です。

 Ventiを後にした私たちは、手を繋いで街の中をブラブラと歩いていた。まるで腹ごなし。


「七夕といえば、夜が本番だよねぇ」

「天の川とか見えないですけどね」

「中途半端に明るいからねぇ。やっぱり北海道に行くべきかなぁ」

「梅雨も無いですしね」

「夏休みにさぁ、北海道に行くって言ったら……一緒に来てくれるぅ?」

「えっ、そんな極大イベントが待ってるんですか」

「まだわかんないけどねぇ」


 私は、小学校の修学旅行で東北に行って以来、別の県には行ったことがない。

 先輩と一緒なら、何処にでも着いていくつもりだけど、お金は足りるかな。往復の飛行機代ってどのくらいだろう。


 夏休み期間だと料金が高かったりしそう。ホテルとかも高そう。でも先輩と遠くに旅行するなんて、行かない手は無い。


「他に、夏休みの予定って何かありますか」

「おばあちゃんに会いに行くのと、君と夏祭りに行くのと、海にも行きたいなぁ」

「ふふ、大忙しですね。そういえば、私のことをおばあちゃんに紹介したいと前に言ってましたよね」

「うん。日程が合いそうだったら一緒に行きたいなぁ。なぁんにもない田舎だけどね」

「詳しく決まったら教えてください」


 私の予定は先輩の予定みたいなものなので、合わせる気しかないけど。先輩が絡むことのない予定ってなんかあるかな。


 全てが先輩を中心に回っているなんて、ログインボーナスどころじゃないな。普通は運営(わたし)ユーザー(先輩)にイベントを提示しないといけないと思うけど。


「話を戻すけど、七夕といえば夜だよねぇ」

「まだ昼ですよ」

「だからぁ、夜まで時間つぶそうよ。天の川とか見たいもん」

「だから見えませんって。……いや、場所によっては見えるかもしれませんね。田舎みたいなものですし」

「それまで、どうやって時間を……あ、ホテルとか」

「お断りします」

「じゃあ、君の家とかは?」


 最初に無理な提案をして、次に本当に通したい案を出すテクニック。ドア・イン・ザ・フェイスというやつだ。


 譲歩されると、自分もそれに報いたくなるのが人間というものらしい。確かに、2回目の提案は断りにくい。


「……別に構いませんけど、えっちなことはしませんからね」

「しないよぉ。キスはしたいけど」

「キスなら良いですよ」


 ログボに関係なく、キスをいつでも許容できるようになったなんて、考えてみると凄いな。これは成長なのか、進歩なのか。


 あまり深く考えないようにしよう。先輩がしたいことが、私もしたいだけ。そう、ただのそれだけ。


「それじゃ、駅に戻ろっかぁ」

「はい」


 こうして、星が見える時間まで、私の家で時間を潰すことになった。個人的におうちデート大好き派なので、なんの問題もない。


 麦茶とか作っておけば良かったかな。


―――――――――――――――――――――


 夜の6時半。変わらず天候は良好で、綺麗な星空が広がっている。


 夏の空気の匂いに交じる、先輩の匂い。少しだけ涼しいけど、まだ半袖でも問題ない。


「織姫と彦星に当てはめるとしたら、ボクが彦星かなぁ」

「私がネコだからですか?」

「さらっとすごいこと言うねぇ。いや、ボクは一人称が『ボク』だし」

「先輩の方が髪が長いし胸も大きいから織姫、って言われたら嫌じゃないです? 外観や一人称なんかで、男らしさとか女らしさを決めるのはナンセンスですよ」

「やっぱり君のぉ、そういうところが好きだなぁ」

「恐縮です」

「まぁ、君が攻める時もあるもんねぇ。ほら、あの日だって」

「ダメですよ先輩、それ以上は凍結します」

「この世界ってSNSだったのぉ?」


 なんて会話をしながら、なるべく暗くて高いところを目指す。肆野展望台でも良いけど、あそこは徒歩で登るのは少し大変そうだ。


 電車で別のところに移動することも提案したけど、先輩は肆野が良いと言うので、こうして歩いている。


 多分、喋りながら一緒に歩くのが良いのかな。というか、そうであってほしい。


「なんだか、自然と展望台に向かってません?」

「あれ、そうだったぁ?」

「まぁ良いですけど。7時くらいまでに到着すれば、天の川が見れそうですね」

「楽しみだなぁ」


 展望台に続く坂に到着し、車って本当に便利なんだなぁと思いながら先輩と登る。勿論、手を繋ぎながら。


「ヒアさんの運転で登ったのが、20日目のログボでしたよね」

「1ヶ月くらい前ってことかぁ」

「それがもう七夕ですよ。月日が経つのは早いですね」

「ログボ実装から、毎日が楽しすぎて大変だよぉ」

「ふふ、やっぱり人生にログボは必要でしたね」


 先輩の人生に足りないものを、満たすことができているなら嬉しい。私に足りないものも、先輩が満たしてくれている。


 ところで、厳密には私たちには何が不足しているんだろう。深く考えようと思ったところで、先輩が言葉を紡ぐ。


「やっぱり、ボクの人生に足りなかったのはログボだったんだよ」

「私の人生に足りなかったものも、ログボで満たされた気がします」

「あはぁ。最終回みたいだねぇ」

「まだまだ終わりませんよ。少なくとも、先輩の卒業式までは」


 欲を言えば、それから先も一緒に居たい。


 それを実現するには、私は恋というものを理解しないといけない。

 それとも、未完成で不確かなこの気持ちでも、先輩は受け取ってくれるだろうか。


「そろそろ頂上、展望台だねぇ」

「ちょっと疲れましたね」

「降りることを考えると、また疲れるね」

「それは、後で考えることにしましょう」


 展望台に到着し、あの時と同じ看板が視界に入る。


 星を見に来ている人が居るかと思ったが、車も人も見当たらない。星を見るなら、もう少し後という判断だろうか。


 街の方を見ると眩しいので、反対側の空を見上げる。天の川は東の方にあるんだったかな。


「天の川ってどれぇ?」

「んー。あ、あの白いモヤみたいなやつですよ」

「え、あれが天の川なのぉ?」

「8月の方が見えやすいらしいですよ」

「そうなんだぁ。じゃあ、夏休みにまた見に来ようよ」

「良いですよ。なんだかロマンチックですね」

「ボクは結構好きなんだぁ、星を見るの」

「そうなんですか」

「おばあちゃんの住んでるところは、星がよく見えるからさぁ」


 何も無い田舎とは言っていたけど、何処なんだろう。


 夏休みを利用して会いに行くということは、多分遠いんだと思うけど。加木(くわえぎ)より遠かったらどうしよう。


「では、夏休みにおばあちゃんに会いに行った時に、星を見ましょうよ」

「うんっ」


 満面の笑顔が、日の沈んだ薄暗い闇の中でもはっきり見える。可愛い。

 星や月に負けない眩さ。本当に可愛いなぁ。可愛さと美しさがカンストしている。チートかな。


「先輩。キス、しても良いですか」

「えー。君の部屋でいっぱいしたのにぃ?」

「良いじゃないですか。キスはカンストしないですし」

「そうだねぇ。ボクは大歓迎だよぉ」


 大歓迎なのに、えーとか言うのはなんなんだ。いじわるか。可愛いから良いけど。


 この前とは反対側、街が見えないところでキスをする。

 暑いとも寒いともいえない、初夏の空気が私たちを包む。ぼんやりとした天の川も、特に思うところの無い織姫と彦星の伝説も、先輩と過ごす日々の前では霞む。


「先輩。明日からは忙しいんですよね」

「うん。もしかしたら、朝のキス(ログボ)も厳しいかも?」

「そんなに忙しいんですか」

「学祭前だから、第二理科準備室の鍵を一旦返さないといけないんだぁ」

「なるほど」


 防犯的な意味合いだろうか。あそこに不良とか溜まったら困るもんね。まぁ、普通に考えたら先生がちゃんと管理していないといけないんだけど。


 明日からログボが休みなら、次に会う時は学祭だろうか。さっきも思ったけど、なんだかあっという間だ。


「それじゃ、帰ろっかぁ」

「はい。駅までご一緒しますよ」

「ありがとぉ」


 登りよりは楽だな、と思いながら、また先輩と手を繋いで坂を降りる。


 もし、いつか私が免許を取ったりなんかしたら、先輩を乗せて来たいな。

2019年、最後の投稿となりました。2020年もよろしくお願いします。

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