43日目〜46日目:私の四日間奮闘
ツーデイズどころではない、怒涛の4日分まとめになります。
43日目:火曜日
六時間目は自習で、学祭の準備に使っても良いと言われた。クラスの皆は大興奮。こういう人たちが、残業を嬉々としてやるタイプの社会人になるのだろう。
各々がなんらかの作業に取りかかっていると、学祭委員のアキラ先輩が、学祭について書かれたプリントを持ってやってきた。
「一日目と二日目に何があるのかと、どのクラスが何をやるかをまとめたプリントだ。変更点があるクラスは、今週中に教えてくれ」
「はーい」
アキラ先輩の妹でもあるココさんが、元気よく返事をする。兄妹仲は良好なのだろうか。
プリントを配り終え、そのままアキラ先輩は出て行った。
プリントに目を通すと、一日目は土曜日で、各クラスの演し物と希望者が出演する音楽ライブがある。
軽音楽部や吹奏楽部だけではなく、歌ったり演奏したいタイプの青春な人達も出てくる。見に行くかどうかは自由だけど、先輩はどうするだろうか。
二日目は日曜日で、継続して各クラスの演し物と、閉会式ならぬ閉祭式がある。両日とも午後四時に終了ということになっているが、守られる気配は薄い。
メイドは交代制だし、メイド喫茶に参加しない時間は先輩と回るのに使おう。
今日から一人で帰らないといけないし、バイトも無いし、残ってやるような作業も無い。前までの私なら、ゲームができると喜んでいただろうけど、今は単純に寂しい。
朝はいつも通りキスをしたし、ちゃんとログボは終わっている。けれど、やっぱり物足りない。先輩のスマホはまだ故障中だから、電話もできないし。
「クグルちゃん、なんか元気ないねー」
「ココさんなら、どうして私が元気ないのかわかりますか」
「えー、私はテレパシーとか使えないけど」
観測者のココさんならわかるかと思ったけれど、そうか。あれは先輩の固有スキルか。
44日目:水曜日
「マスター、今更なんですけど店名の『Venti』って由来はなんですか?」
「え……。まさか、訊いてくださるとは……」
マスターに学祭のことを話す前に、ふと気になっていたことを訊ねた。店名の由来を訊くのは、マスターと仲良くなってからじゃないとダメ、という話を聞いたことがある。
「Ventiはですね、イタリア語で『20』という意味なんです……。私の苗字が『二十』なので……それが由来です」
「なるほど。教えてくださり、ありがとうございます」
「いえいえ……」
マスターの苗字を初めて聞いた。バイトをしている身としてどうかとは思うが。
「この流れで言うのもなんですが、学祭にVentiの珈琲とアップルパイを出したいのですが」
「……学校側はなんと?」
「許可は得ています。利益は全てVentiに支払う、という条件で」
「宣伝に……なりますよね」
「なると思います」
「私が……学祭に参加しても大丈夫ですか……?」
「問題ありませんよ。むしろ、資格を有している方が監督になってくださると、大変ありがたいです」
同じ道具と食材を用意しても、同じ味は出せないだろうし。マスターが直々に作ってくださるなら、それが一番だ。
「えっと、土曜日と日曜日でしたっけ……。その日はお休みにして、学祭に専念します……」
「よろしくお願いします」
「はい……頑張りますね……!」
快諾してくださったマスターは、笑顔で厨房に消えていった。
それから、今日もそれなりにお客さんが来たけれど、先輩は来なかった。
先輩に、キスだけじゃ物足りないですとか言ったら、押し倒されそうだし言わないけど。
45日目:木曜日
自分のクラスで出す味を知っておきたい、とココさんとその取り巻きがVentiに来店した。
仮にもクラスメートを、心の中とはいえ取り巻きと表現し続けるのも悪いだろうか。
必ずココさんの右手側に居るのが五十右さんで、左手側に居るのが左々木さん。三人の名前があまりにも上手く繋がるのは有名な話。
因みに五十右さんは右目が、左々木さんは左目が隠れる髪型をしている。
姉妹でもないのに、その徹底したスタイルには感服する。三人並んだ時に、右・中心・左とわかりやすくするためなのだろう。
「ご注文は」
「私はアップルパイとブレンド。二人は違うやつの方が調査っぽくなるかなー」
「じゃあ、セイナはグラタンとミルクティーにする。シオリは?」
「ウチは、おまかせサンドイッチとカフェオレにするよ」
「かしこまりました」
五十右さんは一人称が名前で、左々木さんはウチって言うのか。今まで周りに居なかったな。
すごく個人的な話になるけど、一人称が名前の人が少し苦手。
厨房に居るマスターに注文を伝えると、三人と会話していても良いと言われたので、ちらっと三人を見る。
本当に仲が良さそうで、私がわざわざ話の輪に入る必要も無さそうだ。
「クグルちゃーん、またお話しようよ」
「いいんですか、五十右さんと左々木さんが居るのに」
「へー、ウチらの名前知ってるんだね」
「いや、流石にクラスメートの名前くらいはわかりますって」
卒業後も覚えていられるかは怪しいけど。
あんまりココさんと仲良くしていると、この二人に後ろから刺されそうで怖い。傍目から見ていると、友だちともちょっと違う関係に感じるというか。
自分が先輩とそういう関係だからかもしれないけど、そういうのが少しずつわかるようになってきた。方法はわからないけど成長している、普通に学校生活を送れるレベルまで。
「お待たせしました……」
「おー、この前はアップルパイを食べなかったから気になってたんだよねー」
「セイナはお店でグラタン食べるの初めて」
「ウチは喫茶店に来ること自体が初めて」
三人は、揃っていただきますを言って料理を口に運ぶ。
いただきますを言う人に悪い人はいない、というのが持論。
「めちゃくちゃおいしーじゃん!」
「これ、学祭でまた食べちゃうかも」
「ウチも。ねぇ、ココのアップルパイちょうだいよ」
「いーよ。じゃあサンドイッチちょーだい」
「セイナのグラタンも食べてよ」
仲良さげに盛り上がっているので、静かにそれを見ることにした。学祭当日に、他のみんなもこうやって盛り上がってくれると嬉しいな。私が作ったわけじゃないけど。
しかし、人が仲良く楽しそうにしているのを見ていると、なんだか先輩の顔がチラつく。
この現象の名前を、誰か教えてくれないだろうか。
46日目:金曜日
「あっという間に週末ですね」
「ちゃんとボクの出番あったぁ?」
「毎朝、第二理科準備室でキスをしてはいたんですけどね」
先輩が喋るだけで、やっと出てきましたかって気持ちになる。やっとも何も、一応毎日お話はしているんだけど。
「キスだけじゃ物足りないよねぇ」
「同感です」
「じゃあ、明後日はデートしよ」
「良いんですか?」
「うん。明日は遊べないし、来週はラストスパートで忙しいしさぁ。せめて日曜だけでも遊びたいのだぁ」
「先輩欠乏症に陥っていたので、大変ありがたいです」
「あはぁ。面白いことを言うねぇ」
先輩に横っ腹をつんつんと突かれる。ちょっとくすぐったい。
指はどんどん上に向かい、お腹、胸を経由して頬まで到達した。
「なんですか、太ったかチェックですか」
「このくらいのやわらかさがクセになるけどなぁ」
「それ、褒めてます?」
ひたすらに頬をぷにぷにした後、先輩は私の唇に優しくキスをした。朝だというのに、既に気温が高いこともあり、普通にキスしただけで私は沸騰寸前になる。
キスをしながら、先輩の髪を撫でる。心做しか、少し伸びたように思う。なんて、毎日会っているのに、親戚のおじさんみたいなことを思ってしまった。
「それじゃあ、また明後日ねぇ」
「はい。あ、そういえばスマホは直りましたか」
「今日の帰りに取りに行く予定だよぉ」
「そうですか。では、その時にでも適当に連絡ください」
「わかったよぉ」
一緒に第二理科準備室を出る。
室内よりは涼しく感じる廊下を歩きながら、日曜は学祭前最後のデートだろうか、とか、参反町で買ったワンピースを着るにはまだ早いよな、とか考えている内に教室に到着していた。
よし、今日も頑張ろう。
次回、学祭前の最後のデート。の予定。




