3日目:サタデー・デート・フィーバー(後編)
3日目の最後は、いつもより長くなっちゃいました。
例えば、都会の若い女の子が競って食べるような、巨大なわたあめだとか、溢れんばかりのクリームを巻いたクレープや、食欲をそそるとは言い難いカラフルなパンケーキのお店は地元にはない。
先輩のお気に入りのパフェがあるファミレスや、カラオケ、チェーンの牛丼屋やラーメン屋はあるが、お世辞にも映えるとは言えない。ファミレスのパフェはかなり美味しいけど。
一応、電器屋や服屋、本屋などもある程度は揃っており、この街で一通りのことは済ませられる。
「先輩、今日はどこに行くんですか」
「うーん。君に会いたかっただけで、特にどこに行きたいとかは考えてなかったんだよねぇ」
「それは光栄ですが、このまま街を歩くというのも……」
「そうだねぇ。まだ春風が冷たいしねぇ」
「あ、ゲームセンターに行ってもいいですか」
「いいよぉ。君の好きなゲームがあるのかな?」
「そういうわけではないのですが、一緒に写真を撮ったりとか、冷静に考えたら別にいらないぬいぐるみを本気で取ろうとしたりとか、そんな感じのことがしたくて」
「あはぁ。青春っぽいねぇ」
私の好きなゲームはオンラインのRPGかFPS系なので、ゲームセンターに足を運ぶことはほとんどない。しかし、別にゲーマーでなくても来るのがゲームセンターという場所だ。
「着きましたね。最近は来てなかったのですが、音とか光がすごいですね」
「そうだねぇ。なんだか若さを感じないコメントだけど、確かにすごいねぇ」
「そうだ、先輩。土曜日なので、同級生にばったり会うかもしれませんが、どうします?」
「どうもしないよぉ? 休日に、女の子が2人で遊ぶのは普通じゃないかなぁ」
「すみません、めちゃくちゃ意識しすぎました」
そうだ。女子校生は、同性同士で手を繋いで歩いたり、おはようの意で胸を揉んだり、めちゃくちゃ顔を近づけて2人で自撮りしたり、お揃いの服で街を練り歩いたり、そういう行為をする生き物だった。何も特別ではないのだ。
男子が同じようなことをしていたら、確実に付き合ってるだろって思うようなことも、何故か女子は仲がいいね、で済むのだ。
「あはぁ。じゃあ、もっと恋人に見えるようなこと、しよっかぁ」
「待ってください、今の私のキャパで受け止めきれるやつですかそれ」
「大丈夫だよぉ、Rは15だから」
「なるほど、それならなんとか」
モンスターを討伐するゲームや、ピュアな恋愛をするゲーム、大勢の敵を薙ぎ倒すゲームと同じようなものだ。可愛い先輩からリアルでされるという点を除けば、全然大した対象年齢ではない。
「じゃあまずは、こうやって指を絡めてぇ」
「恋人繋ぎじゃないですか」
「抱き寄せてぇ」
「うわっまた抱かれちゃってるじゃないですかやわらかっ」
「キャラおかしくなってるよぉ」
「取り乱しました。ちょっとキャパオーバーです」
「ふふ。ピュアだねぇ」
「先輩はあれですか、慣れてる感じですか」
「いやぁ? お付き合いとかはしたことないよぉ」
指を絡めたままで、私のことを抱きしめながら、先輩は意外な事実を明かした。
美人で優しくて胸の大きい先輩が、交際経験が無い。そんなことあるだろうか。戦国武将だけど人を殺したことはありません、くらい信じられない。
「交際経験なし、ですか。それで私のことが好きとか、ちょっとよくわからないのですが」
「何もおかしくないよぉ。君は視点がフラットだから好きなんだぁ」
「……と言うと?」
視点がフラット。胸がフラットという自覚はあるが、視点は初めて言われた。どういうことだろうか。
「内緒。ほら、写真撮ろうよぉ」
「えっ、わっ。ちょっと、このまま入るんですか?」
「恋人みたいなの撮ろうよぉ」
「あれですか、ハートとかで囲まれちゃう感じですか」
「しかも目とかおっきくなっちゃう」
機械の音声に従って、なんかよくわからないポーズを3回させられて、制限時間内に絵や文字を描いたり、スタンプのようなもので飾り付け、完成したものがシートになって出てきた。
「わっ、すごいですね。初めて撮りました」
「ボクもやったことなかったよぉ。あの制限時間、短くて焦るねぇ」
「よくわかんないもの描いちゃいましたよ。この幼稚園児が描いた猫みたいな絵とか」
「あははっ、可愛いねぇ」
「ふふっ、そうですか?」
楽しい。先輩とのデート、私の想像の遥か上をいく楽しさだ。こんなに楽しい時間を、これからも享受できることの感動たるや、言語化するのは容易ではない。
それもこれも、全てログインボーナスのおかげだ。先輩が提案したから、今の楽しい時間がある。……怪しい数珠の広告みたいになってしまった。
「はい、切り終わったよぉ。あと、ここをケータイで読み込むと、写真がそのまま保存されるみたい」
「ケータイの中にも外にも、思い出を残せるわけですね」
「待ち受けとかにしたら、怒る?」
「おこっ……るわけないじゃないですか。逆に良いんですか?」
「逆に何が駄目なのかなぁ。そうだ、お揃いにしよっかぁ」
「しますします」
「設定完了、と。次はクレーンゲームとかするぅ?」
「しましょう。取れるまでやりますよ。先輩はどんなキャラクターが好きですか?」
「あれとか好きだなぁ、『まんなカぐらし』のカッパ」
「あ、丁度ありますね。やってみますか」
「ボクは5千円かけても取れないかなぁ」
「これなら……千円で取れますね。先日はご馳走になりましたし、ここは私が」
「がんばってぇ」
先輩の無気力感に溢れる、ふわっとした声援で、全身に謎の力がみなぎる。予想の半分の5百円で取れそうだ。
しかし、私のやる気とアームの力は無関係だ。この機種は確率機ではなく、店側がアームの強弱を設定しているタイプ。つまり、初手でパワー不足が判明すれば、取ることは不可能に近い。
カッパにアームを下ろすと、母親にしがみつく赤子のような力で、カッパにアームがめり込んでいく。そして、そのまま持ち上げ、ゴール。
店員さんが疲れていないか心配になる。それとも接待でもあったのだろうか。
「すごいねぇ、1回で取れたねぇ」
「喜んでる先輩の顔、可愛すぎますね。はい、どうぞ」
「ありがとぉ。宝物にするね」
先輩という名のアームが、私の心を掴んで離さない。
先輩に抱きしめられるぬいぐるみが、少し羨ましくもあるが、2回も抱きしめてもらったので大丈夫だ。
「そろそろ、お昼にしますか。今なら混む前に入れそうですし」
「そうだねぇ、何が食べたい?」
「全然映えない、お腹いっぱいになるようなやつをガツンと」
「あはぁ、いいねぇ。新しくできたステーキ屋さんなんてどうかなぁ」
「連日お肉ですか。いいですね」
「肉食系だからさぁ」
「目が怖いです」
左腕でぬいぐるみを抱きしめる先輩の、空いている右手に指を絡めて、ゲームセンターを後にした。
「先輩。また誘ってくださいね」
「うん。もちろんだよぉ」
まだデートは終わっていないが、先に言っておきたかった。
先輩はいつもみたいに優しく微笑んだ後、手を繋いだまま、私の口にキスをした。優しく触れるだけのキス。
ログインボーナスではないキスをしたのは、今日が初めてだった。
もちろん、怒るつもりはない。
今回のお話が、ターニングポイントになるのかなーと思います。