表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
66/236

38日目:コール・ミー・ライブ②

ネトゲとかよくわかんないよ!という方、すみません。

「今日と明日はバイトぉ?」

「はい。学祭準備はしばらく大丈夫そうなので」


 昼休み、第二理科準備室。

 小雨がしとしと降っているせいで、空気が重く感じる。


 もう少しで梅雨明け、とか思っていたけど、7月の真ん中くらいまで梅雨って明けないよね。


 不行市は元々降水量が多いから、どこまでが梅雨なのかわからなくなる。


 けど、そんなに雨の勢いがないだけマシか。本気で梅雨から逃れるには、北海道に行くしかないわけだし。


「そっかぁ。三年生は大忙しだよぉ」

「そうですよね。私も来年は大変かも」

「来年かぁ。進路どうしよ」

「考えてないんですか?」

「うん。特に夢とか目標がなくてねぇ」

「コスプレイヤーになるのは?」

「そんな生半可な気持ちで入れる世界じゃないよぉ」


 先輩なら、有名なコスプレイヤーになるのは難しくないと思うけど。


 でも、色々な人が先輩の魅力を知って、自分から遠い存在になるのは怖い。ログボが無くなったら、先輩と私を繋ぐものも無くなってしまう気がして。


「私も将来のこととか考えていないので、あまり言えませんけどね」

「ボクとの将来については考えておいてねぇ」

「……それは考えてますよ」

「えっ!?」

「え、なんですか。当然じゃないですか」


 顔を真っ赤にして、首を左右に振る先輩。


 単純に、卒業後もこの関係を続けられるのか、とか考えているだけで、ラブな感じのことを考えているわけではない。

 先輩にとって、都合のいい誤解をさせてしまっただろうか。


 購買で買ったパンを食べ終え、ゴミ箱に空き袋を捨てる。ここのゴミは回収されるのか心配していたけど、空っぽになっている。理科の先生が捨ててくれているのだろうか。


「卒業してもさ、こうやって会ったりして、ログインボーナスをくれたりするのぉ?」

「それは先輩次第ですかね」

「ボク次第、かぁ。運営(きみ)が続けてくれるなら、これからもお願いしたいけどなぁ」

「そういうことは、冬になってから考えましょう」


 進路の方を真剣に考えてもらいたいけど、私が口出すことじゃない。


 進学するにしても就職するにしても、まだ6月だし慌てなくても良いだろう。先輩は三年生だし、そういうわけにもいかないのかもしれないけど。


 でも、きっと先輩は今の家を出ていくだろう。そうなった時に、どこに引っ越すのかは早めに知りたい。職場の近くとか、大学の近くとかで決めるのだろうか。


「大学といえば、センパイの通ってる大学に行くのもアリだなぁ」

「そうなると、その時にはヒアさんは三年生ですね」

「そうだねぇ。一緒に通いたいわけじゃないけど」

「てっきり、ヒアさんとキャンパスライフを謳歌したいのかと」


 ヒアさんがまだこの学校に通っていた頃、どのくらい仲が良かったのかは知らない。けど、きっと信頼し合う仲なんだと思う。


 私が介入できない関係、と形容すると嫉妬しているみたいで嫌だけど。


「どうせならぁ、君と一緒に……いや、それは違うね」

「何が違うんですか」

「君の将来とか未来を、ボクが決めたり縛ったりするのは違うかなぁって」


 将来とか未来を、決めたり縛ったりするのが恋というものなんじゃないか、と思っていたけど違うらしい。


 わかったつもりになっていた恋という感情が、また遠のいていく感覚。こういう人でいて欲しい、こういうことをして欲しい、と願うのも違うのかな。


「嫌なことは嫌だとはっきり言うので、先輩はどんどんワガママを言ってください」

「あはぁ。結構言ってるつもりなんだけどねぇ」


 先輩が微笑むのとほぼ同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴り響いた。


「わっ、早く戻らないと」

「えっと、今日の夜も電話していい?」

「はい。大丈夫ですよ」

「やったぁ」


 ゆるく笑う先輩を見て、早く夜にならないかな、と思った。


―――――――――――――――――――――


「まさか、またバイト先にココさんが来るとは……」


 夜。用事を全て済ませて、パソコンの電源を入れながら独り言を呟く。


 全ての秘密を知られているわけではないけど、かなり踏み込まれている気がする。


 あまり良い気はしないけど、別に悪人でもないんだろうしなぁ。むしろ、クラスの輪に入っていない私にも分け隔てなく接してくれるので、いい人の部類だと思う。


 ログインをして、職と装備を変更する。支援特化も悪くはなかったけど、火力特化の方が時短になるかもしれない。

 火力は全てを解決する。


 現時点でゲーム内の最大火力が出る剣と、回復アイテムを自動で使うスキルを組み合わせる。ラグが強い時とか多段ダメージだと厳しいけど、これならソロでもギリギリ周回可能レベル。


 クエストを受注すると、先輩から電話がかかってきた。監視カメラか何かで見ているのだろうか。それとも本当に思考が読めるのか。


「もしもし。今日もタイミングばっちりです」

『よかったぁ。それじゃ、今日も寝るまでよろしくぅ』

「いや、そこは寝る前に通話を切るように努力してください」


 また寝息を聞けるのは悪くないけど、普通に先輩のことが心配になる。寝落ち通話をした結果、スマホが熱を持って爆発した海外のニュースを観たことがあるし。


『昨日も学祭準備の後にゲームしたのぉ?』

「しましたよ。寸暇を惜しんで周回しないと、週末に先輩と遊べませんし」

『ふへ、ふぇっへへへ』

「どこに行きたいとか、ありますか」

『遠いところ……は最近行きすぎだし、お家デートもしたし。かといって近場は行き尽くしたし……?』

「別にどこでも構いませんよ。行きたいなーってところで」


 クエストが開始したので、積極的にヘイトを稼ぐために前線に出る。そんな自分を支援をしてくれる人に、周囲に聞こえる(白チャで)感謝を述べる。


 支援職をやったことのある人ならわかると思うけど、野良の人に感謝されると嬉しいものなのだ。自分がされて嬉しいことは人にもしよう、って先輩にも前に言われたな。


『じゃあ、一緒にお買い物したい』

「言われてみると、そういうデートってほとんどしたことがありませんね」

『服とか見て、どっちの方が似合うーとかやりたいなぁ』

「ふふ、良いですねそれ。壱津羽(いちつう)戸毬(とまり)辺りに行きます?」

『どうしようかなぁ。参反(さんたん)とかは行ったことないよね』

「そこで降りたことはないです」


 参反町。


 参反駅は戸毬駅と肆野(よんの)駅の間にある。わざわざ降りる理由もないし、これといった特別な何かがあるわけでもない。よくある普通の町だ。


『定期区間内で、降りたことがない駅で降りて散策とか。楽しそうじゃない?』

「良いですね。では、そうしましょう」


 クエストをクリアし、所持コインを数える。お、今日はドロップ率が高い。


 今日は先輩と一緒に寝ようかな。電話越しだけど。


『もし日曜に間に合いそうになかったら、気にせずゲームを優先してねぇ』

「はい、変な気を遣わせるわけにもいきませんし」


 絶対に間に合わせるけど。仮に間に合わなくても、昔の自分ならわからないけど、今の私なら間違いなく先輩を優先する。


 イベントを完走する、先輩とデートもする。両方やらないといけないのが運営(わたし)の難しいところだ。しかし覚悟はできてる。


『そうそう、間違い晒しなんだけど、第二章まで読み終わったよぉ』

「おお、早いですね」

『君がイベントを間に合わせようとしているように、ボクもデートの日までに読み終えたいなぁって思ってるのだぁ』

「滅多に読書しないって言ってたのに……可愛い」

『なにが可愛いのぉ?』

「いえ、お気になさらず」

『最近、君の言葉が丸くなってきたなぁって思うんだけど』

「そうですか?」


 敬語に丸さなんて無いと思うけど。どこら辺が丸いんだろう。たまに敬語が抜けることもあるけれど、そういうところだろうか。


『パッと例が思いつかないんだけどぉ』

「自覚がありませんでした。多分、先輩相手だと気が抜けてしまうんですね」

『いつか、敬語抜きで話してほしいなぁ』

「ふふ、そんな日がいつか来るかもしれませんね」


 それから、一昨日と同じように取り留めのない話をした。すぐにネタが尽きるかと思ったけど、1日空いただけで話すことが沢山あった。


 ニケさんとアラさんもお化け役をやるとか、最近自炊の頻度が増えたとか、先輩のお気に入りのマッサージ機が壊れたとか。


 いや、本当にマッサージ機の話はどうリアクションしていいのかわからなかった。先輩は胸が大きいし、肩もこるのだろう。そうだ、そうに違いない。


『ふぁ。そろそろ寝ようかなぁ』

「0時も回りましたしね。私も寝ます」

『それじゃ、おやすみぃ』

「あ、待ってください。やっぱり眠れなくなったら困るので訊きます。マッサージ機ってどうして壊れたんですか」

『……やらしぃ』

「ちょ、またその捨て台詞で切るつもりですか。待ってくださ」


 切れた。逃げられた。結局、気になって寝れなくなることになった。いや、寝るけどね。そんなことで惑わされない。


 日曜日のデートで、新しいマッサージ機を買ってあげようかな。一般的なお店に売ってると良いけど。

先輩のセンパイが主人公のスピンオフ的なものを書いたので、もしよろしければ読んでみてください。下部にリンクがあります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング→参加しています。気が向いたらポチッとお願いします。 喫と煙はあたたかいところが好き→スピンオフのようなものです。良かったら一緒に応援お願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ