表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
54/236

30日目:ファーストマンス

遂に1ヶ月目のログボ。

 6月17日、月曜日。

 記念すべき30日目のログインボーナスの日だが、生憎の雨で私の寝起きは最悪だった。


 目覚まし時計が鳴る前に起床し、薄ら暗い部屋の中で、隣に先輩が寝ていないことの虚無感を噛みしめつつ、スマホを持って部屋を出る。


 雨音と階段を降りる音で、寝起きの頭が少しずつ冴えていく。

 先輩も私もバイトがあるけど、今日はどうしようか。一応、ログインボーナスは用意したけど。


「おはよう」

「おはよう。朝ごはん食べちゃいなさい」

「うん」


 椅子に座り、テーブルの上に置かれている、おにぎりとコーンスープを食べる。具は鮭だ。


 今日は先輩にログインボーナスを渡して、適当に授業を受けて、学校祭準備には参加せずバイトに行く。


 30日目にしては、なんとも地味な予定。


「ごちそうさま」


 皿を片付け、洗面所に向かう。


 雨が降っているというだけで、本当にダメだ。頭も冴えないし、学校にも行きたくない。ずっと寝てたい。

 しかし、そういうわけにもいかない。先輩に変な心配もかけたくないし。


 今日のログインボーナス、喜んでくれると嬉しいな。


―――――――――――――――――――――


「というわけで、30日目のログインボーナスはこちらです」

「なぁに、これ?」


 第二理科準備室で、先輩にチケットを3枚渡す。


 ルーズリーフを映画のチケットくらいのサイズに切ったものに、『30日目のログインボーナス』という文字と、私の苗字の印鑑を押してあるものだ。


「確定でレアキャラが引けるチケット、のようなものです」

「それってぇ、7日目の時みたいなログボってことぉ?」

「その通りです。この余白にお好きな内容を書いていただき、私に使用を宣言すると、その通りのログボが入手できます」

「それが3枚も……いやぁ、豪華だねぇ」


 母の日の肩たたき券のようなものです、と言おうとしたが、すんでのところで思いとどまった。危ない。


 先輩は目を輝かせながら財布を取り出し、それにチケットを大事そうにしまった。金運アップの効果とかは無いんだけどな。


「今日はお互いバイトですし、気が向いた時にでも使ってください」

「でもぉ、今日中に1枚は使わないと、受け取っただけで終わっちゃうじゃん」

「そんなに焦らなくても、キスくらいなら今すぐにでもしますよ」

「あはぁ。ねだったみたいで悪いねぇ」

「いえ、先輩はもっと積極的で良いんですよ」


 先輩のことを抱きしめ、唇を重ねる。二度、三度と、離してはまた口付ける。


 目を閉じて、私からのログインボーナスを受け取る先輩。当たり前だけど、香るシャンプーの匂いはもう私のものではなく、いつもと同じものになっている。


 1ヶ月もの間、ほとんど毎日のようにキスをするなんて、ログボ実装前の自分に話しても信じてもらえないだろう。それくらい凄い1ヶ月だった。


「いやぁ。やっぱりキスがあるのとないのとじゃあ、全然違うよね」

「何がですか」

「人生における充足感とか?」

「ふふ。ログボ実装前とか、どうやって過ごしていたのか思い出せませんね」

「そうだねぇ。1ヶ月も付き合ってくれて、本当にありがとぉ」


 先輩は微笑みながら、私のことをぎゅっと抱きしめる。

 それとほぼ同時に、一時限目の開始10分前の予鈴が鳴った。


 はぁ、現実に引き戻すのはやめてほしい。


―――――――――――――――――――――


 現実に引き戻されてから、7時間は過ぎただろうか。


 そして、バイトが終わってから4時間くらい。長い。学校生活って、昼休み込みで8時間労働くらいあるんじゃないか。


 学校もバイトも、自分の意思で行っているわけだし、先輩と遊べないことを嘆いても仕方ない。


 あれ。いつから、先輩が私を求めるよりも、私が先輩を求めることの方が多くなったのだろう。先輩に会いた過ぎる。今日だって、本当はもっと濃厚なログボにしたかったのに。


 なんて考えながら戸毬(とまり)駅に着くと、先輩がホームに立っていた。いやいや、遂に幻覚まで見えるようになったか。


「そんなに目を擦っても、ボクは消えないよぉ?」

「先輩、どうしてここに」

「前と同じで、センパイに送ってもらったんだよぉ」

「いえ。ここに来た手段ではなく、理由を訊いているんです」

「あぁ。それはねぇ、これを使うためなのだぁ」


 そう言って先輩は、ポケットから今朝渡したチケットを取り出した。どうやら、何かを書いたらしい。なんだろう、ちょっとドキドキする。


「……『明日の学校を一緒にサボる』?」

「うん。キスとかデートとか、チケットが無くても君なら良いですよって言いそうだからさぁ。これならどうだーっと思ったんだけど」

「私の誕生日に、学校サボりましたし。今更、抵抗はありませんよ」

「不良だぁ」


 にへら、と顔を緩ませる先輩。


 不良も何も、提案したのは先輩じゃないですか、なんて反論しようと思ったけど、この可愛さに正論なんて野暮だ。そんなものは要らない。


 不良でもなんでもいい。学校をサボったっていい。どうせテストも終わっているわけだし、学校祭の準備なんてする気もないし。


「ええ。先輩のせいで私、不良になっちゃいましたよ」

「ふっふっふ、もっと悪くなっちゃえー」

「わっ、何するんですか」


 私のことをくすぐろうと、手を伸ばして襲いかかってくる先輩。人気のないホームで2人で笑いながら、踊るように戯れる。


 俗にいう、『イチャイチャする』というやつに違いない。最高に楽しいから間違いない。


「そろそろ電車が来るねぇ」

「そうですね。先輩はどうなさるんですか?」

「センパイがそこら辺にまだいるだろうし、乗せてもらうよ」

「わかりました。では、また明日」

「ちゃんと学校には、休むって連絡するんだよぉ」

「はい。お任せください」


 失念していたが、お母さんになんて言おう。

 嘘を吐かずに、正直に話したら普通に許されそうだ。私の人生じゃないし、好きにしなって言うのが目に見える。


 定刻通りにやってきた電車に乗り込み、入口の近くに座る。先輩が笑顔で手を振っているので、振り返す。


 動き出した車内で、先輩から受け取ったチケットを眺め、頬が緩むのを必死に堪える。


 ログボ実装前は、学校をサボるなんて考えたことも無かった。この素敵で不良な提案は、次回以降は断ることにしよう。

おかげさまで、ログボが1ヶ月目に到達しました。よろしければ、ここまでのポイント評価、感想、レビュー等をいただけると大変励みになります。今までの評価も全て励みになっています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
小説家になろう 勝手にランキング→参加しています。気が向いたらポチッとお願いします。 喫と煙はあたたかいところが好き→スピンオフのようなものです。良かったら一緒に応援お願いします。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ