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26日目:学校祭準備①

学校祭準備編が始まります。長くなりますが、お付き合い頂けると幸いです。

「では、他に案がある人はいますかー?」


 5時間目。黒板の前に立つ、クラスの仕切り役が教室を見渡す。

 1ヶ月後に迫る学校祭の、クラスの出しもの案は行き詰まっていた。


 食べ物系は許可が面倒なので却下、お化け屋敷は3年生がやるらしいので却下。これといって目新しいアイディアも、皆が喜ぶような案も特に出ないまま、時間だけが過ぎる。


茶戸(さど)ちゃん、現実の学校祭って面倒だね」

「そうですね、(さかずき)さん」


 私の前の席に座る杯さんが、こちらを向いて小声で話しかけてきた。

 アニメや漫画とは違い、学校祭なんてそんな華々しいイベントではない。中間テストが終わった1ヶ月後に行われる、というだけで面倒だ。


 それに、先輩に会える時間も減るだろうし。


「そこ、お喋りするなら何か案を出して」

「え、えっとー、私はメイド喫茶とか良いと思うな!」

「食事系は却下って言ってたじゃないですか……」


 クラス内がざわつく。何故だろう、妙に盛り上がっている。

 仕切り役が、黒板にメイド喫茶と書く。


「いいじゃん、そういうのやりたかった」

「なんか漫画みたいで良いね」

「えー、誰がメイドやるのさ」

「静かに、静かにして。えー、ではメイド喫茶が良いと思う人は、挙手してください」


 クラスのほとんどの人が手を挙げた。これが同調圧力ですかそうですか。


 少なくとも、去年はそういうことをやるクラスは無かったし、メイドはやりたくないけど、フィクションの世界っぽい展開に少しだけ心が躍る。面倒だけど。


「というわけなんですが、先生」

「あー。んじゃ、食品系を取り扱わないなら良いぞ。それと、メイドは男女関係なく、クラスの中から最低で10人選べ。以上」


 退屈そうにしていた先生が、顎髭(あごひげ)を触りながら適当に指示を出す。てっきり却下されるかと思ったのだが。


「えー、それだと喫茶になりませんよー」


 クラスの中心人物の女子が野次を飛ばす。国会かここは。


「じゃあ、自販機とかで飲み物を買わせればいい。軽食なんざ無くても、珍しさで人は来るだろ」

「それはそうかも」

「ジュース持参したらコップに注ぐサービスとか、5百円でメイドとゲーム出来るとか、そういうので良いだろ」


 先生は気だるそうに立ち上がり、仕切り役が黒板に書いた案を、全て消した。そして、真ん中に黄色いチョークで『6時間目は自習』と書き、教室を出て行った。

 相変わらずやる気を感じられない。熱血教師よりマシだけど。


 先生が出て行くのとほぼ同時に、教室内は一層と盛り上がりを見せる。みんなの声で、窓とか割れるんじゃないだろうか。


 学校祭とかの、行事の前の雰囲気がどうも苦手だ。バイトや用事で帰ろうとすると、後ろ指を指されるし。明るい人達が、身内だけで盛り上がるし。

 今の自分の立ち位置に不満は無いけれど、微妙に息苦しい。


 あぁ、先輩に会いたい。


―――――――――――――――――――――


「君のクラスは、何をすることになったのぉ?」

「メイド喫茶の喫茶抜きみたいなことをするようです」


 放課後。6時間目もクラス内で沢山の話が出て、収拾がつかないまま放課後となった。話したいことだけ話して、それが収束しない。


 今日はお互いバイトのため、こうして駅に向かうまでの間しか、話す時間が無い。


「えっ。じゃあ、君のメイド姿が見れたりなんかしちゃったりなんかしちゃうのかなぁ」

「その可能性は低いかと。目立つのが好きな人たちで決まると思います」

「そっかぁ。残念」

「先輩のクラスは何をするんですか」

「お化け屋敷だよぉ。コスプレ好きとしては、ちょっと燃えちゃうねぇ」


 お化け屋敷をするのは、先輩のクラスだったのか。お化けに扮する先輩、見てみたい。


「学校祭に対するモチベが無かったのですが、先輩のお化け姿は見たいです」

「イベントが苦手なタイプだったねぇ。去年もそんな感じだったもんね」

「そういえば、そうだったかもです」


 ログインボーナス実装前のことは、あまり覚えていない。あの頃から、先輩は私のことが好きだったのだろうか。キスしたいと思いながら、私と過ごしていたのだろうか。


 それでも、踏み込んでこない私に踏み込む決意をした先輩。どれほどの勇気が必要だったのか、想像もつかない。

 恋をしたことのない私には、理解はできても、共感はできない。


「あ、そろそろ電車の時間だね。また明日ねぇ」

「ま、待ってください」


 思わず、先輩の手を掴んでしまった。

 どうしよう。朝にキスはしたし、もう電車が来ちゃうし、バイトだし。なんで私、手を掴んで呼び止めたんだろう。


「なぁに?」

「……私、今日すっごく先輩に会いたくて。いや、朝はお会いしたんですけどね、なんというか、その」

「あはぁ。顔真っ赤だよ」

「え」


 先輩は優しく微笑み、私のことを抱き寄せて、頬にキスをした。制服越しでもわかる先輩の柔らかさと、髪から香るシャンプーの匂い。


 駅でこんな大胆なことをして、他の人に見られたらどうするのか。

 ……先輩のことを心配しているのか、それとも自分のことを心配しているのか。前者であってほしいと思うのは、偽善だろうか。


「また赤くなっちゃうじゃないですか」

「だって、して欲しそうな顔してたよぉ?」

「……なんですか、それ」

「勘違いだったらごめんねぇ」

「電車、そろそろ来ちゃいますね」

「明日はバイト休みだし、どっか行こうかぁ」

「ふふ、そうですね」


 学校祭の準備は、まだ本格化していない。サボるなら早い方が良いだろう。


 先輩に手を振り、ホームに向かって歩き出す。


 先輩に会いたい、一緒に居たいという思いが、どんどん大きくなっている。そのことに、流石に気づいてしまった。


 先輩にも、気づかれているだろうか。

準備に参加しないお話の時は、タイトルを変える予定です。

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