番外編:ボクの四日間奮闘
ログボ休止中の4日間を、先輩目線でお送りします。
火曜日
「カサっち、生きてるか?」
「しんでるぅ」
放課後。今日からログインボーナスはお休み。つまり生き甲斐の停止。突き詰めて生命活動の危機。
机に伏して、長い絶望を噛み締めていると、ニケに話しかけられた。
「暇ならさ、カラオケとか行かないか」
「あーいくいくぅ」
「後輩ちゃんもバイト休みだろ、一緒に」
「そりゃ一緒に行けたら嬉しいけどさー、行けないからさぁー!」
こういう時、友だちがいてよかったと思いつつ、どこかで莎楼のことを考えてしまう。え、これが1週間くらい続くのか。大丈夫かな、ボク。
「どうしたの、ですか。喧嘩でもしましたのですかね」
「アラ。喧嘩はしてないよぉ、実は……」
ログインボーナスについては伏せつつ、経緯を説明する。
「なるほど、です。しかし、少し会えないくらいで、そんなに落ち込むのね、ですね」
アラは、ニケの方を見る。視線に気づき、戸惑っている。一応、ボクには付き合っていると明言していないからね。早く言えばいいのに。
「あたしだって、1週間もアラちゃんに会えないってなったら、カサっちみたいになるよ」
「そうかな、ですか」
「あっ、その目は信じてないだろ。本当だよ」
うーん。人がイチャついているのを見ると、自分もしたくなる。というか、ボクたちも周囲から見るとこんな感じなのかな。そうなると、付き合っているって思われてそう。
その誤解が、現実になればいいのに。
「で。カラオケは行くのかなぁ」
「ごめんごめん、行こう」
「勉強しなくてもいいの、ですか」
「ボクは土日にすれば平気かなぁ」
「カサちゃんのことは心配してないよ、ですよ。ニケが心配」
「うぇっ、いやいや。あたしは一夜漬けタイプだし。それに、スポーツ推薦も狙えるしな」
夢とか才能とか、そういうのがあるニケは眩しい。
勉強ができる、運動もできる、美人で胸が大きい。そんな風に周りに評されても、正直困る。
ニケとアラ、そして莎楼。この3人くらいしか、本当のボクなんて見ちゃいないんだから。
水曜日
放課後。莎楼が隣にいない世界に意味を見いだせなさすぎて、うっかり世界を滅ぼすところだった。
テストまであと5日。あれだね、勉強しようかな。もしテストの点が悪かったら、莎楼が責任を感じてしまうかもしれないし。そうか、そうなったら大変だ。
毎日ボクのわがままに付き合ってくれているのに、初めてボクにわがままを言ってくれたんだ。他人に踏み込まず、多くを語らないあの莎楼が。
「カサっち、生きてるか?」
「生きてる」
「おっ、もう気持ちを切り替えたのか」
「ボクはとってもイイ子だからね」
褒めてくれる人も、頭を撫でてくれる人もいない。けど、それでもボクは頑張れる。
君が頑張っているのに、ボクがいつまでも落ち込んでいたら、先輩としての威厳がなくなってしまうからね。元々、あるのか怪しいけど。
「そんじゃ、今日からあたし達も勉強頑張るか」
「そうだねぇ」
「私もそうする、です」
木曜日
莎楼がいたら原稿用紙5枚くらいは埋められる自信があるけど、いないと5行くらいしか埋まらない。
テスト勉強とアレくらいしかすることがない。なんてこったぁ。
金曜日
「やっと週末だねぇ」
「土日挟んで、3日間テストしたら自由だな」
「6月って、他には特に何もないもんね、ですよね」
祝日はないし、これといったイベントもないし、梅雨だし。
でも、そんな何もないような毎日でも、ボクにはログインボーナスがある。どうしよう、とてつもない優越感。
テストが終わったら、いつもありがとぉって伝えよう。
「そんじゃ、帰ろうぜ」
「うん」
「はい、です」
玄関に行くと、莎楼が靴を履いているところを目撃してしまった。話しかけたい。背中をぽんって叩いて、ぎゅーって抱きしめたい。けど、我慢する。今から空気になる。虚無。
「あ、先輩」
気づかれた。さては忍びの者だね。
「や、やぁ。えーっと、ごめんねぇ」
「何がですか。別に、会話くらいは平気ですよ」
「でも、あんまり長くしゃべるとキスしちゃいそうだから」
「ふふ。私もです」
えっ可愛い。天使みたいな微笑みから、そんなキラーフレーズが出ちゃうの。キスしたいって思いながら今週を過ごしてくれていたのかな。ボクのことを、たまには考えていてくれたのかな。
「テスト、終わったらさ。終わったら、いっぱいお話しようね」
「キスでも、えっちでもないんですか」
「それもいいけど、毎日、君と話すのがボクは好きだったみたい」
「私も好きですよ」
笑うのが苦手、なんて言っていたのに、そんな柔らかい笑顔ができちゃうなんて。なんだか感動しちゃう。ボクが育てたわけじゃないけど。
「じゃあ、また来週ねぇ」
「はい。また来週」
手を振って、玄関で別れた。
「あれ、同じ電車で帰らないのか」
「一応、途中までは同じなんだけどねぇ」
バイトが休みだから、別に一緒に帰ってもいいのか。つい、いつもの癖で別れてしまった。
まぁ、それこそ一緒に帰ったら、ナニをするかわからない。
「よくわかんないけど、カサっちも色々と大変なんだな」
「ニケにはわからないような苦労をしてるですよ、きっと」
「あはぁ。大変なのはみーんな一緒でしょ」
みんな色々な悩みとかストレスがある。満たされない何かを抱えて生きている。ボクはそれを、ログインボーナスで満たそうとしただけ。
あーあ、早くテスト終わらないかなぁ。
心の中では、めちゃくちゃ名前を呼んでいたんですね。